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クラブが終わって三年二組の教室に戻ると、
クラスメイトは誰も残っていなかった。
期末試験が終わって、夏休みが始まるまでの短い期間。
みんな、クラブに遊びに勉強にと忙しいのだろう。
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わたしは窓を開けると、身を乗り出すようにして、
青い空を見上げた。
「あーあ、帰りたくないなあ・・・」
思わず心の声が口からもれる。すると、
「菜々美ちゃんも?」
思いがけず、すぐ近くで声がした。
びっくりして振り返ると、髪をツインテールにした女の子が、
小首をかしげて笑っていた。
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「あ、うん。えっと・・・」
私は言葉に詰まった。とっさに名前が出てこなかったのだ。
だけど、その女の子は、気にする様子もなく、私の隣に並ぶと、
「わたしも帰りたくないの」
そういって、わたしの顔を見つめた。
「お母さんとうまくいってなくて」
わたしはまるで心をのぞきこまれたような気がして、ちょっとゾッとした。
わたしが帰りたくない理由も、お母さんだったのだ。
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わたしを産んでくれたお母さんは、わたしが小学五年生のときに
病気で亡くなっている。
それ以来、わたしとお父さんは
二人で助け合いながら仲良くやってきたんだけど、
半年前にお父さんが再婚したのだ。
相手の女の人も再婚で、わたしより二つ下の女の子がいる。
つまり、わたしにとっては、新しいお母さんと妹がいっぺんにできたというわけだ。
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二人とも悪い人じゃないんだけど、お父さんをとられたような気がして、
正直、わたしはあんまり嬉しくなかった。
お父さんは仕事で帰りが遅いので、夕食はたいてい、
新しいお母さんと妹と三人でとることになる。
それが寂しくて、勉強机の上に飾った、
写真立ての中のお母さんに話しかける日々が続いた。
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だけど、それだけだったら、わたしも我慢できた。
shake
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三日前、新しいお母さんが、その写真立てを落として割ってしまったのだ。
掃除してるときに手が当たっただけで、わざとじゃないっていってるけど、
わたしには許せなかった。
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それ以来、新しいお母さんとは口を利いていない――――
作者退会会員
はじめまして。古明地さとりです。
この作品が初投稿となります。
この作品は、私が大好きな、本の怪談シリーズの一つでもある、
「呪う本」第七話 ひとりこっくりさん を、
前編と後編にわけてお送りいたします。
この作品を投稿し終わってからも、
本の怪談シリーズの作品の中から、少しずつ紹介していきます。
楽しみに待っていてください。