今日も、パソコンには数通のメールが舞い込んでいた。
人の恨みの根深い闇。
ケンちゃんはそれを見ると、ワクワクして仕方ない。
マニュアル通りにケンちゃんは、そのアドレスに定型文の返信を返す。
①このサイトで依頼をしたこと、もしくはこのメールのことを決して誰にも話してはならない。
②あなたはその対象の人とお酒を飲んで、当サイトのタクシーを呼ぶこと。
③タクシーに乗せたあとは、一切関わらないこと。
タクシーに乗せていただくだけで、その対象の人を消去します。
④数日後、その対象の人を消去できたことを確認していただいてから、
当サイトの集金人がご自宅まで料金をいただきに参ります。
※規約以外の料金は一切いただきません。
⑤一週間以内にご返答をいただけない場合は、この契約は解除します。
ただし、このことは誰にも他言しないこと。他言したり規約を犯した場合はペナルティーとして
あなたをいただきに参ります。
そして送信。
ケンちゃんは、殺人請負人。正確に言えば、アルバイトだけど。
雇用主は人ではない。
信じられない話だが、「鬼」だ。
奴らは野蛮で、人の内臓を好んで食べる。
スプラッター好きのケンちゃんもさすがに最初は仕事内容にドン引きしたが、もう慣れたものだ。
何の薬なのかは知らないのだけど、人間にこの薬を飲ませると、内臓が全て外に排出される。
雇用主は、人の姿をして、表向きは宗教団体の教祖をしている。
いわゆるカルトと呼ばれる集団だ。
ケンちゃんは、細面の青二才だが、この雇用主であり教祖の鬼より、特別な力を授けてもらった。
教祖は、人の脳を操る線虫、トキソプラズマの人の恐怖心を低下させる性質に加え、さらに人の能力を数倍にも上げる種の開発に成功したのだ。その種は人を介して、その肉を食することにより、より効率的に私たちに摂取される。
そして、人の体内で24時間後には爆発的に増殖していくようにプログラムしたのだ。
カルトでは、その食人の儀式を「ひさるき」と呼び、教祖は確実に「鬼」を増殖させている。
鬼による、人間の支配。
その昔、「モモタロウ」という伝説の超人により絶滅を余儀なくされた種は、密かに逃れた。
過去には、陰陽師ならぬ集団に野望は阻まれていたが、この平和ボケした世の中にまた密かに鬼は忍び寄っている。
そう、ケンちゃんも、「ひさるき」に参加したのだ。
禁断の肉はこの世の物とは思えないほど美味だった。
ケンちゃんは今日も忙しい。
昼間に事務処理を終わらせ、夜には、タクシーを走らせ、ターゲットを車に乗せなければならない。
ターゲットに、酔いに効くと嘘をつき、薬を飲ませ、内臓を排出させ回収。
その後は、別の依頼者のところへ集金に向かう。
人というものは、疑り深いもので、たいていの人間は規約を守れない。
従って、その依頼者の内臓もいただく。
一石二鳥である。
まあ、規約を守ったところでも、やはり内臓はいただくのだけどね。
夕闇迫る頃、ケンちゃんは、タクシードライバーの制服に着替え、制帽を被り、ネクタイを整える。
人を呪わば、穴二つということを身をもって体験していただくのが、ケンちゃんの仕事である。
作者よもつひらさか
またまたフザケてみました。わかる人にはわかる題名です。
「ヤミタク」第二弾
「カルト」の話は、また別の機会に。