中編3
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カルト

music:2

私は、彼女を救うために、このカルト教団に入信した。

ここで行われている、おぞましい信仰を世に知らしめるために。

最初に私がおかしいと思い始めたのは、私が彼女と食事をした時だ。

彼女は学生時代から、生物が大の苦手だった。

生魚、刺身、ネタの乗った寿司にはじまり、生レバーなど一切口にしたことなどなかったのだ。

ところが、3ヶ月前に数年ぶりに彼女から連絡があり、一緒に食事をした時に

彼女は生物しか口にしなかったのだ。生レバー、馬刺し、このわたなど、

昔の彼女だったら顔をしかめて「私、それパス。」と言うものを次から次へとたいらげた。

それからしばらくして、彼女が信仰のことを口にし始めたのだった。

その信仰というものが「鬼信仰」なのである。

生の物を食べて少しでも鬼に近付こうというもので、鬼になれば未来永劫強靭な肉体と

永遠の命を得られると信じている。選ばれし者で未来を作ろうという信仰だった。

以前の柔和な彼女のまなざしは、異様な光にらんらんと輝いていて

あからさまに精神の異常をきたしていた。

信仰は盲目、今彼女に何を言っても聞く耳は持たぬ。

私は彼女に勧誘されたフリをして、カルト教団に入信したのだ。

まず、この教団の異常な風習として「生肉喰い」

鬼になるには、まず生の肉を食らえというものだ。

この風習は「ひさるき」と呼ばれ、皆で揃ってテーブルにつき、

血の滴る生肉を手づかみで食らうのだ。

本当に地獄絵図とはまさにこのことだ。私は食べるフリをしながら隠し持ち、全て捨てた。

生肉以外に一緒にわずかな野菜と穀物が出ていて、私はそれで食いつないでいた。

私は密かに、この教団の全てを調べ上げ文章として記録して隠し持っている。

そして、私は、戦慄する事実を知ってしまったのだ。

この教団内で、食人が行われている。

教団にとって不適切、危険思想のあるものを、処分しているのだ。

今、思い出しても吐き気を催すほどそれはおぞましいものだった。

数名の教団幹部が、人と思しきものを、生ですすって咀嚼しているのだ。

「本当の鬼だ」

私は気付かれないように、その場を息を殺し去った。

心臓の音が彼らに聞こえるのではないかと思うほど早鐘のように鳴った。

私はその時、知らなかった。彼らが私に気付いていることを。

そして今、私は、食卓に並べられている。

「君は見てはいけないものを見てしまったようだね。

君もこのまま死んでいくのは納得が行かないだろうから、私たちの壮大な計画を

聞かせてあげよう。

私たちのことを君はカルト集団だと思っているだろうけど、実に理にかなった集団なんだよ。

私たちはただ食人しているだけではないんだ。トキソプラズマというのを知っているかい?

まあ平たく言えば人の脳を操る線虫のことなんだけど。私たちは、トキソプラズマの

人の恐怖心を低下させる性質に加え、さらに人の能力を数倍にも上げる種の開発に成功したんだ。

その種は人を介して、その肉を食することにより、より効率的に私たちに摂取される。

人の体内で24時間後には爆発的に増殖していくようにプログラムしたんだ。

しかし、それは熱に弱く、加熱せずに生で食するしかないのだよ。

君はそれを見てしまった、というわけだ。

すばらしいと思わないか?人は神にもなれるのだよ。進化した人間だけが選ばれるのだ。」

教祖はそう言いながら、食卓に縛られた私に何かを注射した。

「この種はね、注射針より細いんだよ。すぐに楽になれるよ。痛みは感じないから安心して

私たちに食べられなさい。」

意識が薄れていく。

私は無力だった。

いつか人は全て

鬼になってゆくのだろうか。

Concrete
コメント怖い
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ロビンM太郎.com様
コメント、怖い、ありがとうございます。
なまものには要注意ですよ。私はなまものが苦手なのでほぼ食べませんが。
あ、でもネギトロは好きです。
ブログのほうは読み返してみましたが、落選した理由が自分でもよくわかりました。
はっきり言って面白くないwやっぱり主人公、最強でバンバン活躍する物語が面白いですよね。
改稿してまたいつか挑戦してみます。

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最近、鳥の刺身5種盛りで腹を下した俺には辛い内容でしたが、3回も読み返したロビンM太郎.comです。

なるほど、なるほど、先生!こう来ましたか!!続きが気になりますが、ブログに行くのはまだ我慢させて頂きますね♪…ひひ…

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