ぼくは知っている。
英明が太郎を殺したことを。
ぼくと太郎は幼馴染だった。
小さい頃からいつも一緒で、一緒にいるとよく
兄弟と間違われた。
顔はそんなに似ていないと思うのだけどたぶん
雰囲気がそっくりなのだ。
英明は小学校から同じ学校に通うようになった。
それまで別の地区で幼稚園が違ったから同じ学区内に英明がいることを
知らなかったのだ。
英明は、他の子供たちより頭一つ背が高く体格も良いので
他の子供に対しても偉そうだった。
気がついた時には英明はガキ大将になっていて、ぼくらは何故か勝手に
英明の子分ということになっていたのだ。
英明はことあるごとにぼくらに偉そうに命令して、言うことを聞かないとぶってきた。
力の差は歴然だ。
ある日、太郎は自分の家のマンションの非常階段のところで、買ってもらったばかりの
新作のゲームをしていた。その日、あとでぼくと合流して一緒にそのゲームの
クエストをやる予定だったのだ。
ぼくは掃除当番だったので、一足遅く、待ち合わせの場所についた。
すると太郎が、英明と何事かもめていて、つかみ合いの喧嘩になっていたのだ。
あの大人しい太郎が。何があったんだろうと、ぼくは英明が怖いけど止めに入ろうと近づいた。
すると太郎の体がグラっと後ろに傾き、螺旋の非常階段から真っ逆さまに落ちてしまったのだ。
英明は驚いて手を差し伸べたが間に合わなかった。
その逆の手には太郎のゲームが握られていた。
たぶん太郎からゲームを取り上げたのだろう。英明は慌てて、下に駆け下りようとして
ぼくとぶつかった。英明は青ざめた顔でぼくにこう言ったのだ。
「いいか、太郎は自分で落ちたんだ。俺のせいじゃない。余計なことはしゃべるな。」
英明は近所の人に助けを求めた。
ほどなくして救急車が到着したが、太郎がもう生きていないのは
太郎の様子を見ればぼくら子供にもわかった。
太郎は死んだ。
ぼくは悲しかった。小さい頃から兄弟のように育ってきた。
よくぼくは近所の人から「太郎ちゃんかと思ったわ」
と言われるほどよく似た二人だったのだ。
ぼくは許せない。よそ者の英明なんかにぼくらの友情を壊されて。
ぼくの大事な太郎を壊された。
でもぼくは弱い。英明に何もできないし、英明が太郎を殺したことすら
告白できない弱虫なのだ。
どうせぼくが英明が殺したことをばらしても、英明は小学生だから
何の罪にも問われないのだろう。
だからぼくはせめて、英明に少しだけ思い知らせたかった。
ぼくは太郎の家にお泊りした時に借りた太郎の服を着て、
鏡の前で太郎の髪型に似せて髪をとかした。
太郎の癖毛を真似して、お父さんのムースで固めた。
そして一人で公園でゲームに熱中している英明に近づいたのだ。
英明もぼくの気配に気がついたのか、木の陰から見ているぼくのほうを見た。
すると英明は驚愕し、恐怖に怯える顔をして、意味不明の言葉を発しながら
走って逃げ出したのだ。
たぶん、太郎の幽霊を見たと思ったのだ。
ざまあみろ。
ぼくはそれからも、英明に嫌がらせをした。
なるべく遠くから見るのがコツだ。
いくら英明がバカでも近くから見たらぼくだとバレるから。
そしてぼくはある日、英明を太郎が死んだあの場所に追い詰めた。
「太郎、カンベンしてくれ。ごめんなさい。俺、太郎を殺す気なんてなかったんだ!
ちょっと太郎のゲームが羨ましくて。ちょっと遊ばせてくれたらちゃんと返すつもりだったんだ。
嘘じゃない。無理やり取り上げて悪かった!まさかお前があんなに抵抗するとは思わなかったから!
ついムキになっちゃったんだ。まさか、お前があそこから落ちるなんて。」
英明は涙と鼻水でぐしょぐしょになっていた。
「でも、君は隠したじゃないか。」
ぼくはつい声を出して英明を非難してしまった。
「なんだ?お前、隆か?この野郎、よくも俺を今までさんざん
だましてくれたな・・・・・!」
英明はぼくに気付き、猛然とぼくに向かって走ってきて
こぶしを振り上げた。
ぼくは思わずそれを避けた。
英明は勢い余って、螺旋階段の向こう側に飛び出てしまった。
螺旋階段の向こうに太郎が浮かんでいた。
太郎が驚く英明の手を、すっと自分のほうに引き寄せた。
鈍い音が響いた。
下に落ちた英明の頭の部分から赤いものが広がっている。
ぼくはランドセルからノートを取り出して破いた。
そして英明の字を真似て、
「太郎君はぼくが殺しました。ゲームをかしてくれないので
階段でつきとばしたら、下に落ちたのです。
だからぼくは、死をもってそのつみをつぐないます。」
そう書いて、そっと階段の上に置いた。
太郎がぼくに微笑んだ。
「ありがとう」
そう風が言ったのだ。
その次の日、小学4年生の自殺はワイドショーで大々的に取り上げられた。
太郎、ぼくは君の影武者になって
君の仇をとったよ。
ぼくは鏡に向かって言った。
作者よもつひらさか