携帯アラームで目を覚ますと、ラインが一件入っていた。
開くと「メリークリスマス」のスタンプ。
送信主は1カ月前に別れたM太郎からだった。
ピロン♪♪
続けてM太郎からのメッセージが。
「話がしたい。会ってくれないか?」
私は携帯を足元に放り投げると、浴室へと向かった。
「今さら会って何の話をするのよ!」
ドライヤーで髪を乾かしながら、鏡に映った自分の顔に吐きつけた。
「もう遅いのよ!今日の夜には私死ぬんだから」
ラジオをつけ、人生最後の朝ご飯の準備に取り掛かる。
私は今日の夜、自殺をする。
先週から登録している「自殺サークル」というサイトで仲良くなったマキちゃんと二人、練炭で死のうと約束しているのだ。
折角だから、聖夜にしようと言い出したのはマキちゃんだった。
私は別にいつだって良かったのだけど、マキちゃんがノリノリでそう言うもんだから、12月20日付けでマッサージの仕事も辞めた。
私は幼い頃に両親を亡くし、施設で育った。
私はそこで、生まれつき左目の下にある大きな泣き黒子や、身体的な理由で思い出したくもない程の虐めを受けた。でも、助けてくれる友達の一人も出来なかった。
私はいつも死ぬ事ばかりを考えていた。
でも私は死ななかった。
両親と同じ死に方だけはしたく無かったからだ。
ピロン♪♪
「ユリ頼む!話だけでも聞いてくれ!誤解を説きたいんだ!」
またM太郎からだ。
浮気したのはあんたでしょ?本当にしつこい男ね。
まさか、私が今日死ぬ事を知っているのかしら? ほんと昔から変な勘だけは働く自分勝手でいい加減な男だわ。
ピロン♪♪
「ユリちゃんおはよ♪ 練炭とレターセットとペンは私が用意するから、ユリちゃんは何も持ってこなくてもいいからね♪♪ 時間は午前1時、待ち合わせ場所は最近出来た駅前のコンビニにしよ♡」
マキちゃんからだ。
今夜死のうかって時にこのテンションは凄いわね。まるでどこか旅行にでも出かけるみたい。
オッケーと返事を打つ。
私にとって、初めて出来た彼氏がM太郎だった。
見た目は派手であまりタイプではなかったのだけど、仕事熱心で優しい所に心を惹かれた。
M太郎は私の過去を聞いても眉一つ動かさずに抱き締めてくれた。
私の全てを受け入れてくれた。
この人となら一緒に生きていけると、本気でそう思った。
でも…
でも…
あいつは浮気をしていた。
間抜けな面して、楽しそうに知らない女と寄り添って歩いているのを見かけたのだ。
私を裏切った。
絶対に許せない!
今さら何が誤解を説きたいだ!どうせあの女にフラれでもしたんだろう、馬鹿にしやがって!
涙が出てきた。
ラジオから流れてくるクリスマスソングが重たい。
考えれば、私にとってのクリスマスは一度だって楽しかった思い出がない。
パパとママも仕事ばっかで私なんて放ったらかしだった。
そういえば二人が首を吊った夜も、確かクリスマスイブだった。
本当にクリスマスなんて大っ嫌い!
なくなっちゃえばいいのに!!
皆んなで私を苦しめる。
もうひとりは沢山!
誰も信じない、もう誰も信じられない!
「二度とラインして来ないで!」とM太郎に返事を打った。
夜23時、部屋の掃除も終わり、普段より少し厚めの化粧をした。
理由は汚い顔で発見されるのが嫌だったからだ。
「少し早いけど今から行くね」とマキちゃんにラインを入れている時、インターフォンが鳴った。
モニターには大きな花束とケーキを持ったM太郎が映っていた。
「ユリ!愛してる!あの時一緒に歩いていたのは妹の夏美なんだ!ほら、俺ってシスコンじゃん?仲良さそうに見えたのは多分そのせいだよ!本当なんだ!信じてくれよユリ!」
M太郎は夏美ちゃんが写っている画面をモニターに近づけてきた。
私は少し考え、ロックを解除してM太郎を部屋に入れた。
「ありがとうユリ信じてくれて。さあ、24時になったら一緒にこのケーキを食べような♪」
「馬鹿、夜中に甘いもの食べたらカラダに悪いのよ…」
言いかけた私の唇をM太郎の唇が遮った。
もう私の頭の中にあった「死ぬ」という二文字はどこかへと消えていた。
その夜、私はM太郎に沢山甘え、彼の腕の中で眠った。
ラジオから流れるクリスマスソングを聞きながら。
…
翌朝、近くの河川敷に停めてあった車の中から、練炭自殺を図った「2つ」の女性の遺体が発見された。
マキちゃん。
願いが叶って本当に良かったね ♪
【了】
作者ロビンⓂ︎
このお話はフィクションです…ひひ…
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