ゲームの世界に飛ばされた俺を放って、ゲームの世界を飛び出したハンターさん。
人間界で狩りをすると恐ろしい言葉を残したまま出て行ってしまって数時間後。
ようやくゲーム機に電源を入れられたと思ったら、ゲームスキル0のド下手弟によってさんざんな目に合わされた挙句に、電話がかかってきて、一時停止もせずに電話に出てしまった弟により窮地に立たされた。
容赦なく溶岩により削られる体力。
そして、ついに、見つかってしまった。
俺は残り少ないライフを、ドラゴンの一撃の体当たりによりついに力尽きてしまった。
死んだ。俺は死んだのだ。
まさか、こんな死を迎えるなんて思いもしなかった。
先ほどまで、熱かったり痛かったりしたが、もう何も感じることはない。
俺は泣いた。
こんなことなら、あの娘に告白しておけばよかった。
情けないことに、バイトの金を使い果たした俺は、弟にまで金を借りる情けないやつに成り下がっていた。
もっと堅実に暮らしておけばよかった。
家族は俺が帰ってこなければ捜索願を出すのだろうか?
いや、俺なんてごく潰しは居ない方が清々するかもな。
弟はどうやら、ゲームをしていたことすら忘れているようだ。
ゲーム機の電源が赤点滅を始めた。もうすぐ充電が切れる。
さようなら、父さん、母さん。弟よ。そして、友人たち。
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「なんだよ、あいつ、ゲームつけっぱなしじゃん。」
空がぱっと明るくなった。
「あ、兄貴!金返せよな!」
俺が帰ってきた!そっか、ゲームだから、また死んでも、ハンターさんは最初からやり直せるんだった!
俺、つまり、ハンターさんが弟に黙って金を渡していた。
「ふん、返してくれればいいんだよ、返してくれれば。」
そう言って弟は、乱暴に金をひったくった。その金には、赤黒い汚れが付着していた。
ちょっと待て、その金はどうしたんだ。
ま、まさか・・・。強盗?
札に染み込んでいる赤黒い汚れが生々しい。
ああ、俺の人生、オワタ。
たとえ運よく、元の世界に戻れたとしても。
俺は犯罪者だ。
俺の座を奪ったハンターさんは、平然とゲームをスタートさせた。
「おい、お前!その金はどうしたんだ!まさか、強盗したのか?」
初期設定に戻ったので、俺はハンターさんに話しかけることに成功した。
「はあ?」
俺の顔が呆けた。
「ちげーよ。バイト代、前借しにいったんだ。お前、弟の小遣いなんか借りんな。情けない。」
俺はぐうの音も出なかった。
「じゃ、じゃあ、強盗はしてないんだな?お前、狩りをしに行くっていったから。」
「ああ、狩ってきてやったぜ。」
俺はショックで言葉も出なかった。
強盗はしてないけど、殺人はしたのか。
もうお終いだ。
俺自身は絶望的な気分だったけど、ハンターさんは鬼のような強さだった。
俺は無敵だった。
「な?俺は上手く狩れるだろう?」
ハンターさんは冷酷に笑った。
翌朝、目がさめると、俺はベッドの中だった。
体を触る。すぐさま、サイドテーブルに置いてある鏡を覗いた。
「俺に戻ってる!」
俺は狂喜した。
アレは、長い夢だったのかなあ。
二階の自分の部屋から下りて、居間に入ると、弟がソファーで寝そべって首だけでこちらを見た。
「はい、兄貴。」
そう言うと、小銭を出してきた。
「昨日返して貰った金のおつり。300円多かった。300円であとで恩に着せられるのもやだから返す。」
えっ?
夢ではないのか?
俺がバイト先に行くと、怖い先輩が珍しく「よお」と声を掛けて来た。
いつも俺が失敗ばかりするから、めちゃくちゃ怒鳴られるのでびくびくしているのだ。
「お前、やればできるじゃん。」
そう言うと、先輩が俺の肩をぽんと叩き微笑んだ。
何が何だかわからなかった。
「昨日のお前は別人みたいだったぜ。これからもこの調子で頑張ってくれよ。」
そう言って去って行った。
家に帰ると、今度は友人から電話がかかってきた。
「モンハン、やろうぜ、モンハン!お前、昨日は鬼のように強かったな!」
まったく身に覚えが無い。
俺ならもっと上手くヤレルぜ。
どうやら俺の思い過ごしだったようだ。
ハンターさん、いいやつじゃんか!
俺はお礼が言いたくて、ゲーム機を起動した。
あれ?おかしい。
ゲームが起動しない。
壊れたか?
「壊れてねーぜ。」
頭の中から声が響いた。
ま、まさか。
「今日から俺とお前は一心同体だ。」
こうして、ハンターさんと俺の生活が始まった。
作者よもつひらさか
マガツヒ様よりバトンを引き継ぎましたw