あるところに、一人の男がいた。
男は、高校時代からの友人と自宅で遊ぶ約束をしていた。
友人を待ちながら、男は昔聞いたある都市伝説を思い出していた。
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『ねえ、〈手斬りベッド〉って知ってる?』
『知らねぇよ、そんなもん。』
『そうだよねぇ~、僕だってこの前初めてこの都市伝説聞いたばっかだし』
『ほんっと、お前ってそういう話好きだよなぁ…』
『今回の話は、とびっきり面白いやつだから聞いてよ~』
『分かった、分かったから。で、どんな話なんだ?』
『それはねぇ…』
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戦時中、某国では戦況が悪くなり、敗戦一色だった。この状況を目の当たりにした軍の上層部は裏切り者がいると考え、科学者に拷問器具を作るように依頼した。
数日後、科学者はひとつの拷問器具を作り上げた。見た目は普通のベッドのようだが、両サイドに回転鋸がついていて、それで対象の手首を切断する。これを使われた対象はたいていショックで死ぬか廃人になってしまう。運よく生き残ったとしても、人間として使い物にならなくなってしまう。
この器具は〈手斬りベッド〉と呼ばれ、軍の関係者を片っ端から捌いていった。戦時中、最も自国に被害をもたらした器具でもあった。また、〈手斬りベッド〉の話をした者は、某国の政府に殺される、死者の怨念に呪われるなどと伝えられている。
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『…っていう話。』
『へえ~』
『で、どうだった?』
『別に。普通の話だなぁって。』
『じゃあ感想は?』
『ない。ただ…』
『ただ?』
『この話、嘘じゃねえの?』
『え?』
『だって、話したら死ぬって…じゃあ、どうしたらこの話が俺たちのところにまでくるんだよ。』
『さあ? でも、実際過去に大きな戦争があったわけで…』
『結局どっちなんだよ…』
『分かってないな~ 君は。嘘か本当か分からないのが面白いんじゃん、こういうのは。』
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男が高校時代を思い出していると、集合時間に少し遅れて友人が現れた。
「ごめん、遅れた。」
「ったく、ほら、行くぞ。」
「はいはい。」
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ー男の家ー
「しかし、久しぶりだな。」
「成人式以来?時がたつのは早いな~」
「そういえば、この前海外に出張に行ったんだけどさ、時間に余裕があったから、近くの博物館に行ったわけよ。」
「それで?」
「そしたら、お前が話してくれた都市伝説の中に〈手斬りベッド〉ってあったじゃん?あれにすげぇ近い、というか、もはやあれそのものがあったんだよ。俺さ、マジびっくりしてさ、お前が言ってたやつって本当にあるんだなぁって…」
「…それ本気で言ってる?」
「うん、マジマジ。写真撮影禁止ってなってたからお前には見せられないけど。」
「…あれ、嘘だよ。」
「え…?」
「だから、あれは僕が作った嘘なんだって!」
「それって、どういう…」
「あれは、〈手斬りベッド〉は、存在しないんだよ!」
「マジかよ… じゃあ、俺が見たのは…?」
「君が見たのが本物だとしたら…僕たち今相当ヤバい状況に陥ってるね…」
「『〈手斬りベッド〉の話をした者は死ぬ』か…」
「君はとりあえずここで身を隠して。僕は家に帰ってなんとかする。1週間経って僕から何も連絡がなかったら、僕の家に来て!」
「おい、お前…」
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ー1週間後ー
「あいつ…」
男が友人の家の玄関ドアを開けると、中から、異臭が漂ってきた。
中に入ると、そこには血だらけのベッドと、干からびた手のようなものがあった。
「なん…だよ…これ…」
男が言葉を失っていると、誰もいないはずの玄関から物音がした。
「おい、誰だよ…来るな、来るな、来るなァァァァァァァァ!!」
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『本日、○○県××市の民家で、両手と思われる身元不明の遺体の一部が見つかりました。警察によると、先月から、付近に住む、2△歳の男性が行方不明となっており、この男性の両手が見つかったものとして、捜査を進めていく模様です。また、部屋には、男性が書いたと思われるメモのようなものが残されており、そこには、〈手斬りベッド〉などと書かれていました。』
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ー某ネットカフェー
「ふーん、なるほど。まあ、そういう話もあるよね、嘘か本当か分からない話って。『事実は小説よりも奇なり』っていうじゃん。けどさ、嘘が本当になっちゃう話っていう話はさ、ただ事実が不明っていう話よりもっともっと面白いよね。」
「知ってる?嘘を本当にする方法。それはね…『小説を書くこと』だよ。事実を小説にすることで、『事実』を作り上げる、これってかなりの皮肉だね。僕はそう思うよ。君はどう? そうか…思わないか。まあ、いいや。君にはまだたくさんやってもらう事があるからね。じゃあ、僕はそろそろこのへんで。書き出しは…『ある男が都市伝説好きの友人からある話を聞いた。』かな。じゃあタイトルは…〈手斬りベッド〉で。」
作者都伝ハンター(仮)
ムシャクシャしてやった、後悔はしていない。
元ネタ:http://kowabana.jp/urban_legends/220