皆さんは子供の頃、お気に入りの傘はありましたか?
私は母に買ってもらった、フリルの付いた水色の傘がお気に入りでした。
今回は、そんな傘にまつわる私が小学2年生の時のちょっと怖いお話です。
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その年は、梅雨とは思えないくらい快晴が続いていました。
「こりゃ、今年は空梅雨なんじゃないか?」
両親が、そんなことを言っていたくらい、その日も綺麗に晴れ渡っていました。
もちろん、私は傘を持たずに学校へ行きました。
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「なぁ、今日、学校終わったらさ、F公園でみんなで遊ぼうぜ?」
同じ班のナオ君が、班員みんなに提案してきました。
「…いいけど、ランドセル置きに、いったん帰ってからにするでしょ?」
同じく班員のチカちゃんが尋ねます。
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「いんや?F公園なら、みんなの家からも近いし、わざわざランドセル置きに帰らなくてもいいじゃん」
そうナオ君は答えました。
まぁ、それでもいっか、…みたいな感じで、学校が終わった後にみんなで遊ぶことになりました。
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F公園はアスレチックがあり、近所の公園の中でも広い公園だったので、たいてい近所の子はみんなそこで遊んでいました。
集まった班員は全員で5人。
私とチカちゃん、ナオ君にヒロ君、シン君。
公園で高鬼や、だるまさんが転んだをやって遊びました。
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「…あ、雨だ!」
ヒロ君が言いました。
その日は天気予報でも1日ずっと晴れだと言っていたので、みんな傘を持ってきていません。
ポツッと降り出した雨は、一気にバケツをひっくり返したような大雨になりました。
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他の遊んでいた子達はみんな、走って公園を出ていきます。
「しょうがない、今日はもう解散にしよう!」
シン君がそう言って、みんなランドセルを背負うと走って帰ることになりました。
雨宿りできそうな場所もなく、すでにみんなずぶ濡れです。
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公園のそばにバス停があるのですが、そのバス停で最近、事故があったらしく、いくつも献花がされていました。
ふと見ると、ナオ君がバス停に立てかけられていた黄色い傘を手に取っていました。
「俺、これ借りてこー!」
ナオ君が傘を開きます。
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傘には可愛いリボンのワンポイントがありました。
「ちょっと!他人の勝手に持ってったらダメでしょーが!」
チカちゃんが怒りましたが、ナオ君は聞きません。
結局、黄色い傘を持って行ってしまいました。
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私はというと、家に帰るなり玄関で母に、
「なんで降りだしたらすぐに帰ってこないの!?」
そう怒られました。
「だって、降り出したと思ったら、あっという間に大雨になったんだもん」
そう言いたかったのですが、
「まったくランドセルも置かないで…」
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母から繰り出されるマシンガントークに戦意喪失し、そのままお風呂に放り込まれました。
「夕飯まで時間あるから、身体と髪を洗ったら湯船で100数えてから出てきなさい」
母に言われて、渋々お風呂に浸かり身体を温め、お陰で風邪引くことなく1日を終えました。
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翌日、ナオ君はお休みしていました。
昨日、急に熱が出たそうです。
みんな風邪だろう、と話していました。
でも、その翌日も、そのまた翌日もお休み。
結局、1週間経ってもお休みのままでした。
さすがに、みんなでお見舞いに行こうということになりました。
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「肺炎とかになったのかな?そしたら病院の方に、お見舞いに行ったほうがいいのかな?」
そんなことを話しながら、駄菓子屋でみんなでお金を出し合ってお見舞いのお菓子を買い、ナオ君の家に行きました。
インターホンを押すと、ナオ君のお母さんが出てきました。
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「みんなでお見舞いに来てくれたの?ありがとうねぇ。お医者さんに診てもらったんだけど、なかなか熱が引かなくてねぇ…」
そう話すナオ君のお母さんのそばにあった傘立てには、あの黄色い傘がありました。
「…おばさん、あのね…」
私は黄色い傘のことを話しました。
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「あら!そうだったの!?あの子、お友達に借りたしか言わないんだもの。まったく、しょうもない子なんだから」
やれやれと溜息まじりに、私に黄色い傘を渡してくれました。
「ごめんなさいね。傘、返しておいてね」
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お見舞いのあと、ほかのみんなは公文やらお使いがあるとかで帰って行き、私は一人で傘を返しにバス停へ行きました。
その日は夕方から雨だと天気予報で聞いていたので、お気に入りの傘を持っていました。
案の定、バス停へ向かう途中でパラパラと雨が降ってきました。
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私はお気に入りの傘をさして、バス停に黄色い傘を立てかけました。
それから謝りました。
「ナオ君が勝手に持ってっちゃって、ごめんね」
すると、どこからか、
『あめ、あめ、ふれ、ふれ、母さんが…』
女の子の歌声が聞こえました。
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周りを見渡しても、誰もいません。
でも私はなんとなく、傘の持ち主が許してくれたんじゃないかと、そう思いました。
それから私は、その歌声に合わせるように、
『…ぴっち、ぴっち、ちゃぷ、ちゃぷ、らん、らん、らん♪』
歌ってスキップして帰りました。
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その翌日、ナオ君は熱が下がって学校へ元気よく登校してきました。
傘を返したお陰だなんて思ってはいませんでしたが、あの女の子の嬉しそうな歌声を思い出すと、返しに行って良かったと思いました。
今もあの子は、バス停にいるのかな…?
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『…ぴっち、ぴっち、ちゃぷ、ちゃぷ、らん、らん、らん…♪』
[おわり]
作者ゼロ
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
今思うと、あのバス停で事故に遭って亡くなった子は黄色い傘の持ち主なんじゃないかなー、と。
当時は歌声が聞こえてきただけで姿は見ず、霊特有の寒気は感じていましたが、確証は持てませんでした。
何はともあれ、他人様の物を勝手に持っていくとバチが当たることは学べました。(笑)