中編7
  • 表示切替
  • 使い方

親戚のおばさん…

私の父方の親戚には、

気が強く、何やら不思議な人がたくさんいました。

中でも、ばあちゃんのいとこにあたる、

いよちゃんと、ばあちゃんが呼んでいたおばさんは、

とても賑やかで、はっきりものを言い、

怒ると物凄い人で、

私の父ですら、避難…するような人でした。

そのいよちゃんが、

体調を崩して寝込んでいたばあちゃんに、会いにきた時の話です…。

いよちゃんが、ばあちゃんの家にいるので、私達家族もばあちゃんの家に行く事になりました。

いよちゃんは、私達家族が来るのを、玄関先で立って待っていてくれていて、

車から降りて走って行くと、

「にゃにゃみちゃん、こうして見たら、お姉さんになったねぇ」と言い、

少し離れて立って私をマジマジ見ると、

ウンウンうなづき、

「良いこと、良いこと。」と言いました。

後から来た、母と妹にも、

「元気そうねぇ、何より。

姉さんは(ばあちゃんの事)は、気がキツイところがあるから、色々ありがとうねぇ。」と母を労わり、

「あんたは相変わらず、まぁ〜。

やんちゃに大きくなっとるね〜。

元気なのは、良いこと。」と、妹を見て笑っていました。

父には、

「あんたも元気そうやね。もう少し、家にいるようにしなさいよ。」と、困った顔をして笑っていました。

いよちゃんはいつも、会ってすぐなのに、

何か普段の私達を、まるで見て知っているように話す人でした。

ばあちゃんの家に入ると、

ばあちゃんは寝巻きのままではありますが、座敷に座って寛いでいました。

いつもより、顔色も幾分か良さそうでした。

「いよちゃんが、大きな声で笑うもんだから。私もつられて、笑っちゃうのよ。

弱ってるって言うのに、大笑いして、

バシバシ力任せに背中叩いてくるのよ。

骨、折れるわ。」と、

ばあちゃんは笑っていました。

少し元気になったばあちゃんを見て、

いよちゃんがバシバシ叩いて、大きな声で笑いながら、

元気を分けてくれたんだなと、私はとても嬉しく思いました。

夕方近くになり、私と妹は、ばあちゃんの番犬の散歩に行くことになり、

いよちゃんも付いてくると言いました。

寒くなってるから、お家で待ってなよと言う私に、

「寒いを知らにゃ、暖かいのありがたさは分からんのよ?」と笑い、

3人で散歩に出かけました。

私が番犬の綱を持ち、いよちゃんは私の横を歩きます。

妹は、私達より前を、道で拾った棒を振り回しながら歩いていました。

そんな妹に、いよちゃんは、

「それ、捨てなさいな。」

「持っても、何にもなりゃせんて。」

と話しかけますが、

妹は見向きもせず、先に走って行っては

枝を振り回して遊んでおりました。

私は少し、そんな妹に変な感じがしていました。

妹も、いよちゃんが好きなはずなのに。

いつもなら、私よりも妹の方がいよちゃんに構ってもらいたがるのに。

正月に会って以来、半年以上は経っていたかと思いますが、

それでも、何だかいよちゃんを避けているようにすら感じられました。

私はいよちゃんに、

「なんだろ、恥ずかしいのかな?」と言いました。

いよちゃんは、ハハハと笑って、

「あの子にそんなこと思われたら、いよちゃんの方がこそばゆいわ。」と言い、

「すぐ、騒がしくなるわ。」と私の背中をバシバシ叩いて言いました。

夕食を食べ、しばらく皆んなで楽しく話をしながら過ごしていました、

その間も、妹は、母の背中に自分の背中を当てて、会話に入ってきませんでした。

家族みんなが、妙な感じを受けていたと思います。ばあちゃんといよちゃんだけが、

おかしな様子の妹を、何とも思っていない様子でした。

9時前になると、

ばあちゃんは部屋で横になると言うので、

私達も別の部屋で寝間を作ることにしました。

その時、大袈裟なくらいの声で妹が、

「家に帰る!」と言いました。

母は、

「何言ってるの?今日はお泊りって言ったでしょ?」と布団を出そうとするのですが、

妹は押入れの前で、それを阻止します。

父は、

「何を言ってるんだ、お前は。

もう、早く寝ろ!」と怒り出します。

私は、

「今になって、やっと聞こえる声で話したと思ったら、訳のわからんこと」と思いながらそれを見ており、

いよちゃんはと言うと、

父の腰痛のための、お灸の準備をしていました。

邪魔でしょ!どけなさい。

嫌だ!帰る!

もう寝るのよ。

嫌だ!帰るって!

母と妹の押し問答がしばらく続いた時、

いよちゃんが

「嫌やわねぇ〜。私と寝るのは。」

と言ったのと同時に、

思いもよらない速さで立ち上がり、

妹に駆け寄って、腕を掴みました。

母と私が唖然とする中、

父は、お灸をしてもらうために寝そべった状態のまま、

「おとなしくしとけよぉ〜。

恐いゾォ〜。」と言いました。

左手で頭のてっぺんに平手を当てて、

右手で掴んだ妹の腕をグーッと下に引っ張り、

妹を座らせていきます。

妹は、歯ぎしりして、口の中でウーウーと唸り声をあげています。

いよちゃんは全く力を入れてる様子は無いのに、反抗しようとする妹は、真っ赤な顔をしています。

何が始まったのか、訳のわからない私を母は、部屋の隅に手招きして、ぎゅッと抱きしめました。

もはや、左手で頭を抑えられてるだけの妹は、それでもそこから立ち上がれないのか、

正座を崩したような格好で座り込んでいました。

父がむくりと起き上がり、

いよちゃんの用意していたお灸セットを持って近づき、

妹の右手を、いよちゃんの前に抑えつけました。

もぐさを、握りしめた右手の甲に、

3つ山を作って盛って、

「はい、もう終わりねぇ〜。」と

線香で火を着けました。

灸というのは、着けてすぐ熱いわけではなく、

もぐさが焼けて皮膚に近づくにつれ、

チリチリと痛みが走るものですが、

妹は、もぐさから煙が上がった途端…

いやぁーーーーーーーーっ!

いやぁーーーーーーーーっ!

いやぁーーーーーーーーっ!

今まで、ぎゅーと歯ぎしりしていた口を開き、

大声をあげて、叫びだしました。

身をよじろうとしているのでしょうが、父に右手を掴まれ、

何より、頭の上のいよちゃんの左手がそれを遮っているようで、

逃げようも無い様子です。

私は、

「何?これ何?

何で?何で?」と、

怖くて、泣きながら母に聞きましたが、

母は、ずっとその様子を、力の入った顔で見ていました。

何度も叫び声をあげていた妹は、

しばらくすると、

口を開けて上を見上げてる状態で、

何も言わなくなりました。

そして、

「あっつい!いよちゃん、取ってぇ!」と、初めて、いよちゃんの名を口にしたのです。

それを聞いたいよちゃんは、

「はぁい、お疲れ様ぁー。」と

3つのもぐさを右手から取り除き、

白い布で右手をクルクル巻きました。

その間も妹は、

痛い痛いと泣きながら、

何度もいよちゃんの名を呼んでいました。

いよちゃんは、

「遊び方を間違えては、いけないよぉ〜。

痛かったでしょ?怖いでしょう?

みんな、心配したのよぉ〜。」と優しく頭を撫でていました。

父は、

「バカか!お前は!

思い知れッ!」と言い、

母は、

「もう、してはダメよ!絶対、ダメよ!」と言いながら、

抱きしめて、背中をさすっていました。

私だけが、部屋の隅で、ぼーっと立っていたら、

いよちゃんが、

「おいで〜って呼んで、こっちが遊んでやってるつもりでも、

エサにされて、おかしくなったりするんだよ。

何のことだか、分かるよね?」

と、言いました。

私は、口にはせずに、

分かったとうなづく仕草だけしました。

いよちゃんは私を見てハハハ!と笑い、

「もう大丈夫!心配無いッ!」と

頭をたくさん撫でてくれました。

灸をすえた妹の右手は、

子供であれば、大変なやけどになっていておかしく無いはずなのですが、

3つの小さな水ぶくれが出来ただけでした。

「これを見て、考えてなさい。」

いよちゃんは、帰る前に、妹の手の甲を撫でながら、そう言っていました。

高校生の頃に、

あれってさ…と、

母に尋ねたところ、

「あの子、バカだから、

コックリさんなんてして遊んでて。

何度、怒っても止めないから、

ばあちゃんに相談したら、

いよちゃんが来てくれたのよ。

遊んでただけなら、格好だけのもんなんで、もっと違う止め方があったんだけど、

いよちゃん、『あー、取ってしまおうね。』って言い出して、それであーなったのよ。」

と、

苦笑いで話してくれました。

いよちゃんと口をきかなかったのも、

そのせいだったようで、

もともと、いよちゃんが大好きな妹は、

あの後、いよちゃんが帰るまでの何日間か、学校を休んで、ばあちゃんの家にいてたのです。

その間に、母は妹の部屋を、いよちゃんの指示通り、毎日お香を焚いて塩を盛り、空気を入れ替えていました。

いよちゃんといる時の妹は、

普段のやんちゃも少し落ち着いていて、

ばあちゃんはそれを、

うまく、風穴をつくようだ

と言ってました。

好きな様にやらせるわけでなく、

こっ酷く叱られてる事が何度もありましたが、

それでも、妹にとって、

いよちゃんは、導きの人だったのかも知れません…。

Concrete
コメント怖い
0
7
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ