私は20歳の時に、初めてのお給料で初めての携帯電話を購入した。
当時はまだmovaで、着メロも単音だしメールも半角50文字までのショートメールのみ。
私の機種はDOCOMOのD203。
購入した時は、とても嬉しかったものだ。
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ショートメールだけだとつまらないので、ポケットボードという別端末を購入して、よくメル友募集なんかをしていた。
そのうちiモードが出てきて、私はD501iへ機種変して、やっと携帯でメールを送れるようになった。
でも、まだmova。
FOMAになるのは、まだもう少し先のこと。
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私が携帯をD503iへ機種変して間もない頃、友達と近所の公園へ出かけた時、古い携帯電話を拾った。
私の自宅から少し行ったところに、バイパスのインターチェンジがあるのだが、その高架下で見つけたのだった。
拾った機種は、D201。
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私が初めて買った携帯よりも、古いものだった。
「へーぇ、まだ使ってる人いるんだねー」
「電源、入る?」
私が尋ねると、友達は電源を入れようとするが画面は反応しない。
「電池ないのかも」
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とりあえず、近所の交番へ届けることにした。
…と、その時。
《…ピピッ、…ピピピピッ、…ピピピピッ》
無機質な電子音が鳴って、着信を知らせる。
「おぉっ!ビックリした!電源入らないと思ってたのに、入ってたのか!?」
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2人で驚いたあと、友達が電話に出る。
「はい、もしもし」
…………………………………………。
「もしもし?この携帯を拾った者ですけど」
…………………………………………。
「ダメだ、何も言わない。電話が遠いのかな?」
私にそう言って、友達は電話を切る。
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すると、再び着信。
「もしもーし?電話が遠いみたいなんですけど?」
友達が電話に出る。
「もしもし?もしもーし?」
…………………………………………。
電話を切る友達。
《…ピピピピッ、…ピピピピッ》
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「はい!もしもし!」
さすがにイラッとしたのか、トゲトゲしい口調で友達が電話に出た。
《…か…え…して…》
地獄の底から響くような声だった、と後に友達は話している。
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「返したいのは山々なんですけど、今どこにいますか?できれば、取りに来てほしいんですけど」
友達がそう答えると、
《…無理…、…無理…なの…》
そう言ったらしい。
「なぜですか?交番に預けた方がいいですか?」
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そう友達が言った時。
《…無理…よ、…だって…わた…し…、もう…死んで…る…から…》
瞬間、友達は携帯を見た。
…電源が入ってない。
友達は携帯をほっぽり投げて、私の手を引くと走り出した。
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「なに?なに?なんで携帯投げた!?」
バイパスのインターチェンジが見えなくなった頃、やっと友達は私の手を離した。
事の顛末を、私に話す。
「…携帯にまで、幽霊?」
「マジなんだって。自分はもう死んでるって、言ってたし」
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ふと、私達の横を中年男性が歩いて通り過ぎていく。
「…あ!あの携帯!」
友達が言って、男性を見ると、友達がほっぽり投げたはずのあの携帯を持って、何やら呟きながら歩いていた。
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男性の背中をよく見ると、身体の透けた女性がぴったりと憑いている。
「ぅわ…っ、憑かれてる…!」
男性はそのまま、歩いて行ってしまった。
「…視えたの?」
と、友達。
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「うん、視えた。女の人…」
「ね?ね?言ったでしょ?あの携帯、ほっぽり投げて正解だったよ!」
鼻息荒く言う友達。
「携帯電話にまで、幽霊…?」
思わず私が呟くと、
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「私もう拾わない!親切心で怖い思いしたくないもん!」
…まぁ、そうっスね。
友達をなだめながら、その日は帰宅した。
あれから落ちてる携帯を見かけることはないが、たとえ見かけて拾っても、すぐに交番に届けると思う…着信に出ると怖いから。
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生者のものならまだしも、死者のものなら…。
いや、生者のものでも顔に傷のある人種のものなら十分に怖い。
皆さんも携帯電話の落し物には、お気を付けあれ。
[おわり]
作者ゼロ
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
携帯電話怖話、いかがでしたでしょうか。
直接体験したのは友人でしたが、一緒にその場にいたので、友人のあの切羽詰まった感じは今も忘れられません。
まぁ、着信に出ないで、ちゃっちゃと交番に届ければ良かったんでしょうけどね。
人間って、着信には咄嗟に出てしまうものなんだな、と思いました。