「お菓子でもおもちゃでもいいけど、買うのはひとつだけだぞ」
お祭りの屋台を見て回っている私にパパが注意してきました。
その日、私は近くの神社のお祭りにパパと一緒に来ていました。
「う~ん、わたあめがいいかなあ、それともお面にしようかなあ」
私は色々な屋台を見ているうちにおもちゃを並べている屋台の中に大きめのぬいぐるみがあるのに気が付きました。
それは私が抱えるぐらい大きなぬいぐるみでした。
けれど、その見た目がすごく変わっていました。
お巫女さんの服を着た女の子のぬいぐるみのようなのですが、お尻にはもこもこで金色のしっぽが付いていて、髪の毛も同じ色の金色、そして顔にはきつねのお面がつけられていました。
「うわっ、なんだか、かわいいのか、へんてこなのかよくわからないぬいぐるみだなあ」
私の背中から同じぬいぐるみを見たパパが叫びました。
ぱっと見は私も不思議な感じがしたのですが、じっくり見ているとすごくかわいく思えるようになってしまい、そのままパパにおねだりしていました。
「えっ、こんなの欲しいの、う~んしょうがないな、すいませーん」
パパが屋台の店番であろうお姉さんを呼びます。
「あれ? こんなのあったかな?」
呼ばれたお姉さんは私達が尋ねたぬいぐるみを見てと呟きました。
しかし、次の瞬間、目が少し虚ろになり、棒読みの感じで声を発しました。
「あ、ありがとうございます、こちらの身代わりの人形ですね」
「身代わりの人形?」
パパが店番のお姉さんに聞き返します。
「このお人形の持ち主が危険な目に合うときに代わってくれるんです」
「へぇ、じゃあ厄除けや御守りみたいなぬいぐるみなんだ、そういわれてみればそんな感じもするなあ、で、これいくらかな?」
「9,800円になります」
「たっか!・・・ま、まけてくれない?」
「9,800円になります」
お姉さんは無表情のまま値下げに応じる様子はありませんでした。
パパは私の方を見て、何か助けを求める感じでした。
「パパ、ひとつはひとつだよ!」
その言葉を聞いたパパはあきらめたように財布から1万円札を出しました。
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ぬいぐるみを連れて帰った私はさっそく名前を付けました。
「えっと、きつねのお巫女さんだから、きみちゃんにしよう」
名前を決めて喜んでいると、パパとママがもう遅いから今日は早くお風呂に入って寝ますよと言ってきました。
そこで私はきみちゃんも一緒に入ると言いました。
パパがぬいぐるみはお風呂に入れられないよといいました。
「でも、パパ、きみちゃんの着物脱げるよ」
きみちゃんの巫女の着物はくっつけてあるのではなく、小さいサイズの着物を着せているようでした。
「うわ、なんか本格的! さすが高いだけあるなあ」
パパが着物の脱げるきみちゃんを見てうなずきました。
私が白い着物と下にはいている赤い着物を脱がすときみちゃんは肌色の生地の裸になりました。
「あれ、でも、パパ、きみちゃん、パンツはいてないよ」
「あ~、確か巫女さんは下着をつけないはずだから、多分それでいいんだよ」
「へえ~、そうなんだ」
私が納得しているとそれを聞いていたママがパパの頭をうしろからスパカンと強めにはたきました。
「何するんだよ、絵梨花」
「娘に変なこと教えないの!」
顔にひもで固定されているきつねのお面も外してみようとしましたが、強くむすばれていて、ひものむすび目がほどけず、お面は外せませんでした。
結局、私はその日はいつも通りパパとママと3人でお風呂に入り、きみちゃんは裸では寒いのでタオルでくるんで、その間にママがきみちゃんの着物を洗濯機にかけていました。
私は乾燥が終わって、いちだんときれいになった着物を着たきみちゃんと一緒に寝ました。
着物の肌触りも尻尾のもこもこもたまりませんでした。
そのとき私はきみちゃんの柔らかさにいやされながらも私は屋台のお姉さんが言っていた身代わりの人形という言葉を思い出していました。
「きみちゃん、私が危ない目にあったら、代わりになってくれるの?」
私はお布団の中できみちゃんに話しかけていました。
「でも、私、きみちゃんにも危ない目にあってほしくないから、気をつけるね」
私は強い口調で言いました。
だって、きみちゃんとはもう家族だもの。
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しかし、しばらくたったある日、私は自転車に乗っているときに倒れてしまい、後ろから来た車とぶつかってしまいました。
病院に行って、お医者さんは大丈夫といったけど、強くぶつけた手と足はとっても痛くて、肌が青と赤に色が変わりました。
私はママに連れられて病院から家に帰ってきました。
「う~ん、きみちゃんは身代わりにはなってくれなかったなあ・・・」
やっぱり、ただのおまじないだったのでしょうか、きみちゃんがはりさけるのもいやだったので、これでよかったのかもしれません。
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そう思いながら、家族の寝室に入るとベットの上に座らせていたきみちゃんが少し大きくなっているのに気づきました。
体の形もぬいぐるみではなく、女の子の体つき、そして金色の髪ではなく、私と同じ長い黒髪でした。
すると、突然その女の子がこちらを向いて話しかけてきました。
「ごめんね、きみちゃん、私の身代わりになってくれて、おかげで事故にあわなくてすんだよ」
そういうと女の子は来ていた巫女服を全部脱いで裸になりました。
そして、きつねのお面を取りました。
中から出てきたのは見慣れた私の顔でした。その顔は涙で濡れていました。
「本当にごめんね、きみちゃん、痛かったよね」
あれ、この女の子が「私」、じゃあ私は・・・身代わりになっていたきみちゃん?
「・・・服はまた私に返してね、きみちゃん」
きみちゃんと呼ばれた私は混乱しました。
「え、ええっ、私がきみちゃん? そっか、そうだった?」
慌てて、自分がきみちゃんだったと納得した私は来ていた服を全部脱いで渡しました。
代わりに私はお巫女さんの着物を着ます、下着なしで、やっぱりなんだかすーすーします。
「ありがとうね、きみちゃん、今度からはもう身代わりさせないように気を付けるからね」
私の服を着終えた「私」は最後に残ったきつねのお面を私にかぶせようと近づけてきます。
やっぱりなにかひっかかるなあと思っているとお面を眼前にかぶせようとする女の子のお尻に大きな金色のしっぽがありました。
一方、私のお尻を触ってみてもしっぽはありません。
私は近づいてくる女の子のしっぽをぎゅっと握りました。
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「やっぱり、あなたがきみちゃんでしょ!」
私は叫びました。
尻尾をきつくつかまれたままのきみちゃんは目を見開きました。
「あーん、もうすこしだったのにぃ」
残念そうに吠えるとしっぽのある「私」の姿の中心からぐにゃりと姿がゆがんでうずを巻き始めました。
そしてそのうずが消えると私の服が床にばらばらと落ちてきました、
服の中心には裸のぬいぐるみがありました、しかしさっき私につけられようとしたきつねのお面はそのままぬいぐるみにつけられたままでした。
私の方もやっぱり裸で足元にきみちゃんの着物が散乱していました。
さっきのはいったい何だったんだろう、きみちゃんが私といれ代わろうとしていたのかな、ああ、だから、身代わり人形かあ。
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この出来事があってから、私はお風呂に入るときに自分の裸を見て自分がぬいぐるみかきつねになっていないか時々確かめるようになりました。
その後、私はおとぎ話などできつねさんが人間を化かしてからかうということを知りました。
けど、そんなことは関係なく今でもきみちゃんのことは大好きです。
寝るときも一緒だし、寒いだろうと思ってきみちゃんのパンツもママに作ってもらいました。
冬になるまえにあったかいシャツとタイツも作ってあげるねと言ってくれました。
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「ねえ、きみちゃん、このまえは私のこと化かしたの? すごかったね、私もう少しでだまされるところだったよ」
また話しかけてきてくれないかなあ、わたしずっと待ってるのに・・・
作者ラグト
なぜか人外の者たちと縁ができてしまう女の子、高遠椎奈の体験する謎めいた怪事件
アナザーエピソード1身代わり人形です。
綿貫様とよもつ様、そして龍田様の作品に刺激されて書いた作品です。
↓そして、一連の作品はこちらとなります。
綿貫一様作品:ぬいぐるみ
→http://kowabana.jp/stories/25402
よもつひらさか様作品:編みぐるみ
→http://kowabana.jp/stories/25411
龍田詩織様作品:赤ちゃんの声-バイト巫女-
→http://kowabana.jp/stories/25398