小学校4年生の春、転入生が来ました。
ツインテールの似合う可愛い女の子でした。
スズネだからスズちゃんと呼んでいました。
彼女の家は母子家庭だったせいもあり、家に友達を呼んで遊ぶ、なんてことはまずなくて、いつも外で遊んでいました。
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「スズちゃん、いつもツインテールだね。他の髪型もすればいいのに」
私が言うと、スズちゃんは少し笑って、
「無理だよ」
と言いました。
「どうして?」
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私が尋ねると、スズちゃんは無言で私の手を自分の頭のツインテールの根本へ導くと触らせてくれました。
手に、何か尖ったものの感触がありました。
「…なに、これ?」
「角だよ。私には角があるの」
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よくよく話を聞いてみると、スズちゃんは赤ちゃんの時にお母さんに床に落とされて頭の骨を骨折。
一命は取り留めたものの、頭蓋骨が変形したために角のような出っ張りができたそうです。
それを隠すためのツインテールだと言いました。
「スズちゃん、何かあったらいつでも言ってね」
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私の言葉に、スズちゃんは嬉しそうに笑いました。
一緒に遊んでいるうちに彼女の家が自宅から近いことも知って、ある日スズちゃんは家に遊びに来ないかと誘ってくれました。
「いいの?」
「いいよ、だって特別な友達だから」
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特別、という言葉の響きが妙に嬉しくて、私は彼女の家に遊びに行きました。
アパートの2階の部屋は、4畳半2間の狭いものでした。
「上がって」
「お邪魔します」
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玄関を入ってすぐのキッチンを抜け、奥の部屋へと通されました。
そこには小さな勉強机と、たたまれた布団がありました。
「スズちゃんのお部屋?」
「うん、そうだよ。隣がお母さんの部屋」
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私とスズちゃんは、他愛もないおしゃべりをしたり絵を描いたりして遊びました。
そのうち、スズちゃんのお母さんがパートから帰ってきました。
「おかえりなさい、お母さん」
「お邪魔してます」
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ペコッと頭を下げる私を一瞥して、スズちゃんのお母さんはキッチンのテーブルの上を見ました。
「スズネ、どうして朝ごはんのヨーグルト食べなかったの?」
テーブルの上には、手付かずのヨーグルトがありました。
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「ごめんなさい、今朝は食欲なかったから…」
スズちゃんが答えると、お母さんは手に持っていた買い物袋をキッチンに置くとこちらへやって来て、スズちゃんを叩きました。
「どうしてアンタはそう、いつもいつもお母さんに口答えするの!?」
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何度も何度もスズちゃんを叩きました。
「おばさん、止めて!」
私は、スズちゃんとスズちゃんのお母さんの間に割って入りました。
見ていられなかったのです。
「どうして何度もぶつの!?」
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「他人が口出ししないで!」
「他人じゃない!友達です!」
私がスズちゃんのお母さんを睨むと、スズちゃんのお母さんは今度は私ごと叩いてきました。
その時、スズちゃんのお母さんの顔を見ました。
ゾッとしました。
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鬼の形相というより、私やスズちゃんを叩く度に恍惚とした顔をしていたのです。
「何をやってるのかね!?」
その時、近所のおじさんらしき人が家に飛び込んでくるとスズちゃんのお母さんを取り押さえました。
子供の泣き声に様子を見に来たそうです。
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私は泣いて震えるスズちゃんを抱きしめました。
「大丈夫?」
「…うん、ありがとう」
後から聞いた話ですが、スズちゃんのお母さんは日常的にスズちゃんを虐待していたそうです。
何度か施設に保護されたこともあったとか。
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しばらくお母さんの暴力的な部分はなりを潜めていたので、施設はスズちゃんをお母さんの元へ帰した矢先での出来事でした。
それもあって友達を家に呼べなかったんだな、と私は思いました。
スズちゃんは施設に戻ることになりました。
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学校も転校しないといけなくなり、私はスズちゃんを見送りに行きました。
私が彼女の家に行くと、荷物をまとめて家を出るところでした。
「スズちゃん、元気でね!お母さんのこと、…あんまり気に病まないで」
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私の言葉に嬉しそうに頷いたあと、スズちゃんはポツリとこう言いました。
「…大丈夫。お母さん、どうせ死んじゃうから。私の友達にも酷いことしたんだもん…」
それから唇を歪ませて笑みを浮かべました。
お母さんそっくりな、あの恍惚とした笑みでした。
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幽霊なんかよりも生きてる人間が1番怖い。
そう思った出来事でした。
彼女の言った言葉の意味は今でも分かりませんが、彼女が幸せな人生を送っていることを願ってやみません。
[おわり]
作者ゼロ
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
幽霊も怖いですが、虐待ママはもっと怖いです!
スズちゃん、歪んで育ってないといいな、と思います。
何気に、他人を簡単に傷付けられる生きてる人間が1番苛くて怖いんじゃないかと。