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私の名前は流(ナガレ)。呪い代行屋である。
呪い代行屋であるから、当然私の元には自分の代わりに誰かを呪ってほしいという依頼者がやってくる。
そして、言ってしまえばこれは客商売だから、私は引き受けた依頼は必ずこなす。
その日来たのは、ガラの悪い中年の男だった。ヤクザというわけではなさそうだが、少なくともカタギではないだろう。
『ここに呪い代行屋がいると聞いてきたんだが…』
「私が呪い代行屋です。ここに来られたということは、誰か呪ってほしい人間がいるのですね?」
『おう。』
と言いながら男はこちらを睨んできた。感じの悪い男だ。
『実はな…』
男の名は鬼崎 健介と言い、窃盗団のリーダーをしているらしい。
そして、彼の部下の一人である矢島という男が、彼らのやってきたことを警察に告発しようとしているとのとのことだった。
『頼む、チクられないようにあいつを始末してくれ。』
私はため息を一つつき
「そのようなことは私ではなく、殺し屋にでも依頼されてはどうでしょう。」
と言ったが
『殺し屋に頼んで、万一ヘマしたらどうすんだ。俺らまで捕まっちまうかもしれねえだろ。そうなっちまったら、元も子もねえ。』
と言われた。プロであれば、ヘマなどしないと思うが。
「分かりました。お引き受けしましょう。あなた達のことが警察に告発されないようにする。ということでよろしいですね。」
『おう、頼んだ。』
「では、このお札を持っておいて下さい。部下の方にもお守りとでも言って持たせておいて下さい。それと、こちらのお札は矢島さんに持たせて下さい。」
そう言って私は鬼崎に二種類のお札を渡した。
「さて、お代の方ですが、あなたは人の性質を見抜くことが出来るようですので、その能力をいただきます。こちらの契約書にサインを。」
『これでいいんだな?』
「ええ、ありがとうございます。」
『じゃあ、頼んだぞ。』
そう言って鬼崎は帰って行った。
私は普段はお代は後払いでいただくのだが、今回先払いにしたのは理由がある。
私は矢島を呪殺するつもりなど毛頭なかった。代わりに鬼崎とその部下の記憶をいじらせてもらうことにした。最初から矢島などという男は居なかったことにしたのだ。そして矢島の方は、窃盗団の記憶を消させてもらった。こうすると、呪いの依頼そのものがなかったことになる。依頼がないのに呪いの成就も何もない。
だから、先払いにしてもらった。
後日、窃盗団が逮捕されたと言うニュースを見た。どうやら、新しく部下にした男がヘマをしたらしい。
どうして、これまで捕まらなかったのか不思議だと言われていたが、それは、私が今回いただいた能力があったおかげだ。
まったく、窃盗団などせずに会社でも興していれば、今頃大手企業の社長にでもなっていただろうに。馬鹿な男だ。
呪い代行屋は客商売だ。私は引き受けた依頼は必ずこなす。ただし、やり方は私の自由だ。そして、その後依頼者がどうなろうと、私の知ったことではない。
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作者白真 玲珠
どうも、プラタナスです。
シリーズ第三作目です。
この話はつぎの話の前置き的な意味を持たせたので、次作とセットで読んでいただけると嬉しいです。