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私の名前は流(ナガレ)呪い代行屋である。
呪い代行屋であるから、当然私の元には自分の代わりに誰かを呪ってほしいという依頼者がやってくる。
その日来たのは一人の暗い感じの少年だった。
『すみません。あなたが呪い代行屋の人ですか?』
「ええ、私が呪い代行屋です。ここに来られたということは、誰か呪ってほしい人がいるのですね?」
『はい…』
彼は一呼吸おき、思い切ったように言った。
『僕を、呪ってほしいんです。』
「はい?」
『僕を、呪い殺してほしいんです。』
なんと、驚いた。まさか自分を呪殺してくれという依頼者が現れるとは…。
「失礼ですが、頼まれる相手を間違っておられませんか?」
『いえ、いいんです。ただ殺してもらうだけではダメなんです。僕を殺すだけじゃなくて、みんなの記憶からも消して欲しいんです。そういう呪いってないんですか?』
「あるにはありますが…。とりあえず、なぜあなたが呪殺して欲しいと思ったのか教えていただけますか?」
『分かりました。実は…』
少年は渡辺 秀一といい、とある私立高校の三年生ということだった。
彼の通う高校は有名な進学校であり、猛勉強の末合格したのだが、入学してからは、なかなか成績が伸びず模試の判定もほとんどがE判定とのことだった。
『正直、自分がなんで受験勉強しているのかも分からないんです…。』
「ふむ、それはなぜでしょうか?」
『僕には将来の夢というものがないんです。だから、なんのために大学に行くのか分からない、大学に行く意味が見出せないんです。みんな将来の夢のために大学に行ってそのために勉強するけど、僕にはそれがない。かといって高卒だと就ける仕事なんてたかがしれてるし、これといった長所もない。だからもう消えてしまいたいんです。』
私はとりあえず、相槌をうちながら最後まで聞いていた。それにしてもとんでもない動機である。受験生とは、そういうものなのだろうか?
「なるほど、分かりました。あなたの依頼をお受けしましょう。」
『ありがとうござます!』
「さて、ではお代の方ですが、今回は依頼者であるあなたが亡くなってしまいますので、前払いとさせていただきます。あなたは、言い訳がうまいようなので、その能力をいただきます。こちらの契約書にサインを。」
『これでいいですか…?』
「ええ、ありがとうございます。」
『じゃあ、お願いします…。』
後日、渡辺少年がひどく慌てた様子でやってきた。
『すみません、代行屋さん。呪いを取り消してもらうことってできませんか。』
「どうされましたか?」
『僕、思い出したんです。なんで、大学に行くのか、某は医者になって病気で苦しんでいる人達を助けたくてそのために大学に行くってことを。』
「ふふ、それは良かったです。渡辺さん、実は私はあなたに呪殺の呪いはかけていません。」
渡辺少年はかなり驚いたようだ。
『え?!じゃあ…。』
「あなたは疑心暗鬼で少々あまのじゃくな性質だったので、それを一時的に修正させていただきました。」
『そうだったんですか。』
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「すみませんでした。いいですか?渡辺さん。これから生きていれば、自分がなぜ生きているのか分からなくなることがたくさんあると思います。ですが、生きている意味のない人などいません。どんな小さなことでもきっと意味があります。だから、生きる意味が分からなくなった時は、その意味を見つけるために生きて下さい。」
『はい!ありがとうございます!』
そう言って、堂々とした少年は去って行った。
作者白真 玲珠
どうも、プラタナスです。
この話は前作と関連付けた部分があるので、前作とセットで読んでいただけると嬉しいです。