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人は憎しみや恨みと縁の深い生き物だ。
誰しもある程度生きていればこいつだけは許せないという人間がいるだろう。
呪い代行屋である私のもとには強い憎しみや恨みを持った人間が、あいつを自分の代わりに呪ってくれとやってくる。
その日も、ひとりの青年が私に依頼をしにやってきた。
『すみません、こちらに呪いを代行してくれる方がいると聞いてきたのですが…』
「ええ、私が呪い代行屋です。
ここに来られたということは呪ってほしい人間がいるんですね。」
『はい、実は…』
彼は佐藤といって会社員らしい。彼が言うには、呪ってほしいのは、彼の高校の同級生であり現在の同僚である平井という男らしい。
平井は、成績優秀でスポーツ万能、加えて容姿もなかなか優れており、それらを鼻にかけ、自分より劣っている人間を軽蔑するという、所謂典型的な嫌なやつということだった。
そして、依頼者は高校時代から彼から執拗な嫌がらせを受けていたらしい。
嫌がらせの内容は、これみよがしに避けられたり、すれ違いざまに蹴られたりはまだいい方で、言葉にすらできないような陰湿なものもあったようだ。
『お願いします!あんな奴に生きている価値はありません。呪い殺して下さい!』
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「申し訳ありませんが、その依頼をお受けすることはできません。」
彼は驚きと怒りのいりまじったような顔をして、
『なぜですか?!あんな奴は…』
私は彼の言葉をさえぎり続けた。
「生きている価値が無いとおっしゃりたいのでしょう。その考えを否定するつもりはありません。しかし、私は、彼には死ぬ価値すらないと思うのです。」
彼はひどく驚いたようでしばしの沈黙の後、震える声で言った。
『じゃあ、どうすれば……』
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「死ぬより辛い苦しみを味わわせるというのはいかがでしょうか?」
『死ぬより辛い苦しみ…』
「ええ、例えば、ぎりぎり死なないくらいの苦痛を受け続けるとか、精神を病むほどの悪夢を毎晩見続けるとか、そういったものです。いかがでしょう。」
『お代の方は……』
彼の声は震え、額には汗がにじんでいた。
「ご依頼されるということでよろしいですね?」
『はい、お願いします……。』
「お代は後払いで結構です。呪いの効果があったと思ったら、もう一度おこしください。」
『は、はい…』
「最後に呪いの内容ですが、社会そのものから見放され、社会的な地位や名声を全て失うというものにしておきますが、何か他にご希望は?」
『いえ、それで結構です…。それでは、失礼します…。』
彼は半ば逃げるように去っていった。気持ちは分からなくはないが。
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半年ほど経ったころ彼は再び訪ねてきた。
「いらっしゃいませ。そろそろ来るのではないかと思っていましたよ。呪いの効果があったのですね。」
『はい、あれから2ヶ月くらいしてから、あいつそれまで昇進間違いなしって言われてたのに突然クビになったんです。
すぐに呪いの効果だと思いました。クビを言い渡された時のあいつの表情といったら、今思い出しても、笑いが込み上げてきますよ。
あと、つい最近なんですけど、あいつ行方不明になったらしいんです。
これも呪いですか?』
「いえ、おそらく呪いで精神的にダメージを受けたのでしょう。まあ行方不明になることくらい予想はしていましたが。」
「さて、呪いは成就した様ですし、お代をいただきたいのですが。」
『はい、いくらでも払います。』
「いいえ、私は呪いのお代としてお金はいただきません。」
『へ?』
「その代わり、あなたの能力を一つ、いただきます。」
『僕の、能力…』
「あなた、動物の思ってることが分かるでしょう。」
『え?ええ、なんとなく分かることはありますが…。』
「その能力をいただきたいのです。動物の思っていることなんて分からなくても問題ないでしょう?」
『え、ええ。そうですね。』
「それでは、こちらの契約書にサインをお願いします。」
『分かりました。』
彼は少々戸惑っていた様だが、しっかりとサインした。
「ありがとうございます。さて、他に用がないのでしたら、お帰り下さい、居心地のいい場所ではないでしょう?」
『は、はい。それでは、失礼します…。』
それからさらに1ヶ月後、新聞で某樹海で自殺者が発見された。身元は平井とみられている。
私は読んでいた新聞を投げ捨て、つぶやいた。
「死んだから終わると思うなよ。平井。私から逃げることはできないぞ。私が直々に地獄に送り込んでやる。」
私は、平井の魂を捕えに樹海へと向かった。
作者白真 玲珠
初投稿です。
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