【メリーさんの電話】
とある夜、電話がかかってきます。
『私メリーさん、今ゴミ捨て場にいるの』
イタズラだと思い、直ぐに電話を切りました。
その直後、また電話がかかってきます。
『私メリーさん、今○○にいるの』
この後も、何度も同じような電話がかかってきて、その度に【メリーさん】の居場所は自分の家に近付いています。
そしてついに…。
『私メリーさん。今あなたの家の前にいるの』
気味悪く思ながら、ドアを開け外を確認します。
しかし、そこには誰もいません。
その時、再度電話が鳴り、
「私メリーさん。今あなたの後ろにいるの。」
そうして、振り返った人物は殺されてしまう。これが【メリーさんの電話】の全貌です。
…
…
…
曰く、都市伝説。
曰く、urban legend(アーバンレジェンド)
曰く「友達の友達から聞いたんだけど…」
曰く、フォークロア
曰く「信じようと信じまいと…」
人から人へ、人の言葉を通じて語り継がれる幾多の怪奇譚。
間に受けるも否定するも、全てはあなた次第。
しかし、
口伝を基とした噺は意図するしないに関わらず、必ず捻じ曲がる事を忘れてはなりません。
時に怪奇性を増幅させる事を目的に、時に怖さを煽る事を理由に、
そして時に、その真相が導き得る真の残虐さと恐怖性を誤魔化す為に。
そう、時に口伝は、その奇譚が抱く恐怖性の真実を隠蔽する為に…封印する事を目的に、『敢えて』真意を捻じ曲げるケースもあるのです。
…
例えば、こんな話。
…
…
【メリーさんの電話】
全ての発端は、一人の幼女が持つ一体の西洋人形から始まった。
季節は冬。闇夜の中、粉雪舞う窓の外の世界を眺めながら、その幼い少女は溜息を吐く。
新しい街。新しい家。新しい学校。同級生。トモダチ。
新しい生活にも幾分か慣れた。
だが、少女の心にはぽっかりとした穴が開いている。
それは、今迄当然として存在していたモノが損失した虚無感。胸に抱いていた筈の温もり失った損失感。
慌ただしい引越しを済ませ、やっと落ち着きを取り戻した両親は、今夜は少女を家に残して食事に出掛けた。
大人は常に何かに忙しい。時には子供を置いての休息も必要だろう。幼い少女にも、子供心ながらその程度の分別はあった。
今、少女は真っ白で暖かな家に一人、留守番をしている。
再び少女は二階の自室から窓から雪の舞う外を眺めて溜息を吐く。
深い溜息を吐いた後、少女は部屋の中を振り返る。
少女部屋には、新品の人形やぬいぐるみが、たくさんあった。
全て、新居に移る際に両親が年頃の少女に買い与えた物である。
赤い服を着た黄色のヌイグルミ。気取ったポーズをとる黒いネズミの人形。 カメラ目線の白い猫、×口の白兎…。
様々な色取り取りの人形やぬいぐるみが所狭しと乱雑に散らかっている。
可愛いものは大好きだ。でも心は満たされない。
それは何故か? その理由。
それは、少女が引越しの際に、一番大事な人形を手離していた事に起因する。
一体の西洋人形。
碧い目と、流れるような金髪を持った、美しい人形。
少女が今よりもっと幼い頃からずっと一緒だった、大切な人形。
常に少女と同じ時を過ごしてきた人形。
少女は人形に名前を付けた。
メリーさん。
それが少女が名付けた人形の名前。
けれど引越しの時、少女はその人形を手離した。
両親は少女に言った。「そんなボロボロな人形は棄ててしまいなさい」「みっともないから」「もっと綺麗で可愛い人形を、たくさん買ってあげるから」
「はーい、ママ」
少女は喜んで頷き、ボロボロに傷み色褪せていたメリーさんを棄てた。
不要な粗大ゴミへと扱いを変えたメリーさんは、真新しい西洋人形を腕に抱える私の目の前で、ゴミ取集車のプレス機に挟まれ潰されバラバラにされて、棄てられた。
錆の目立つプレス機の鈍色の金属隙間から場違いに覗く燻んだ金色の髪の毛がちらりと覗く。
潰され飛び出た眼球のみが、新品の西洋人形を抱える少女を妬む様に睨んでいる、
そんな気がした。
少女はその光景を目にした時、幼い心で悟った。
取り返しのつかない事をしてしまった、と。
それから幾日か過ぎて。
新しい土地の新しい家に越して来て、新しい沢山の人形に囲まれていても、少女の心は一向に晴れない。
散らつく雪を眺めながら、少女は願う。
”どうかお願いします”
”もしもう一度、メリーさんを取り戻せたのなら”
”もう二度と棄てない。手放さない”
”そう約束します”
メリーさんに対する少女が抱く慕情は既に、家族への愛…兄弟姉妹への愛情と同じ程の感情となっていた。
shake
sound:32
ジリリリリリリリリリリリ
電話が鳴った。
一階の玄関近くに据え置かれた黒電話。電話から発せられる着信のベルが喧しく家の中に鳴り響く。
そのベル音でふと我に返った少女は、留守番に役割を全うする為に、一階の電話に向かって階段を駆け降りる。
sound:32
ジリリリリリリリリリリリ
少女が一階に降り立った時、まだ電話のベル音は鳴り響いている。
少女は電話に飛び付き、受話器を耳にあてると、
「もしもし、どなたですか?」
と電話の主に問い掛ける。
…。
……。
………。
受話器から流れる数刻の沈黙。その直後、
『 も し も し 。 私 、 メ リ ー さ ん 』
幼い女の子の声だった。
『 今 、 ゴ ミ 捨 て 場 に い る の 。 と っ て も 寒 い の 』
shake
ガチャン
短い台詞だけ残して突然電話は切られた。
”今の電話、なに?”
呆気にとられる少女。
ツーツー
電話の送信口から発せられるのは、無機質の電子音のみ。
少女は受話器を戻す。
”電話の人、メリーさんって言ってた。それに、ゴミ捨て場…”
メリーさん 女の子の声 ゴミ捨て場
きっとタチの悪いいたずら電話だ。
少女はそう自分を納得させる。
だが心中では、そのキーワードが持つ奇妙な符号に驚きを抱いてもいる。
…まさか、ね。
一瞬抱いた淡い期待を胸の奥に仕舞い込み、少女は二階への階段を登り始めた、
その時、
sound:32
shake
ジリリリリリリリリリ
再びベル音が鳴り響く。
階段を登る足を止め、少女は踵を返して受話器を手に取る。
「もしもし?」
…。
……。
『 私 、 メ リ ー さ ん 。 今 、 ⚪︎ ⚪︎ 駅 に い る の 』
『 腕 が ね 、 な い の 。 な く な っ ち ゃ っ た の 。 な い の 。 痛 い の 』
shake
ガチャン
それだけ述べて電話は切れた。
⚪︎⚪︎駅と言えば、少女が住む街の最寄り駅である。
そこで少女は直感する。
”間違いない!”
”電話の主は、メリーさんだ!”
”メリーが、私の所に戻ってくる!”
”嬉しい!”
少女は無邪気に喜んだ。
sound:32
shake
ジリリリリリリリリリリ
電話が鳴った。
少女は電話に飛びつくと、
「メリーさんでしょ! 今、何処にいるの! 」
期待に踊らされ、受話器に向かって思わず言葉が飛び出る。
…。
……。
『メリーさん? だぁれ、それ?」
聞き覚えのある女性の声…ママの声だった。
『ちゃんと大人しく留守番してるかしら? お腹が空いたら、冷蔵庫に中の物、温めて食べてね。ママ達は、もうちょっと遅くなるからね。良い子にしてるのよ』
ガチャン
そう言って、ママは電話切った。
…なぁんだ、がっかり。
期待を裏切られた少女は肩を落とす。
sound:32
shake
ジリリリリリリリリリリ
またベルが鳴り響く。
少女は受話器を手に取ると、
「ママ。わかってるよ、良い子に…」
『 私 、 メ リ ー さ ん 。 今 、 △ △ 公 園 に い る の 』
”メリーさんだ! 今度こそ、メリーさんだ!” 少女は喜ぶ。
「メリーさん! 私だよ! 早く来て!」
『 ア タ マ が 痛 い の 、 割 れ ち ゃ っ た の 、 痛 い の 』
そう言って、電話が切れる。
メリーさんが私の所に帰って来るんだ!
喜びを隠せない少女は、そわそわと落ち着かず、家の中をウロウロしながら電話のベル音を待つ。
sound:32
shake
ジリリリリリリリリリリ
来た!
少女は電話に飛び付き、受話器を取り上げ耳にあてる。
『 私 、 メ リ ー さ ん 。 今 、 あ な た の 家 の 近 く に い る の 』
”来た! メリーさんはもう私の家の近くに来てるんだ!”
『 目 が な い の 、 と れ ち ゃ っ た の 。 ど う し よ う …』
shake
ガチャン
そう言って、電話は切れる。
”メリーさんが戻ってくるんだから、仲直りしなきゃ…”
”どうやって仲直りしようかな…”
…。
”そうだ! 私の部屋の他のお人形さん達と一緒にお迎えしよう!”
”そうと決まれば、さっそく準備しなきゃ!”
少女は二階に駆け上がると、部屋の中の人形を片付け、棚に並べる。
様々な種類の人形やぬいぐるみが棚にびっしりと並ぶその光景は、まるで玩具屋の売り場の様になっていた。
それから少女は、並ぶ人形やぬいぐるみの真ん中に、メリーさんが座れるスペースを作った。
”メリーさんが帰ってきたら、ここに並べるんだ!”
”みんなで仲良く、遊ぶんだ!”
sound:32
shake
ジリリリリリリリリリリ
階下から電話の音が鳴り響く。
少女はハッとして顔を挙げる。
”来た! メリーさんからの電話が来た”
心躍らせながら少女は階段を駆け降り、受話器に飛び付いた。
「もしもし、メリーさん!」
…。
『 も し も し 、 私 、 メ リ ー さ ん 』
『今、あなたの家の前にいるの。開けて。ねェ、アけてよ。あけテェ』
メリーさんと名乗る女の子の声。
shake
ガシャン
通話が切れる。と同時に、
ピンポーン
sound:16
玄関のチャイムが鳴った。
”来た”
少女は玄関ドアに一目散に向かう。
そして、
「おかえりー!」
と鍵を開けてドアを開ける。そこには、
「あら、お出迎えありがとね。良い子にしてたかしら?」
ママとパパの姿があった。
メリーさんの姿は見えない。
「まぁ、どうしたの? しょんぼりしちゃって。寂しかったのね…。お土産にケーキがあるから一緒に食べましょうね。」
少女の思う所を察する気配すら無い両親。
少女は落胆する気持ちを両親に悟られない様に明るい笑顔を作りながら、
「大丈夫だよ。私、眠くなっちゃったから部屋に行くね。おやすみなさい。」
と言って、二階に上がる。
たくさんの人形達が並べられた棚を見詰めながら、少女は溜息を吐く。
”いたずら電話だったのかな… がっかり”
その時。
shake
sound:32
チリリリリリリリリリリリ
電話のベル音が鳴った。
そのベル音は、少女の部屋の隅に転がっていた、玩具の電話から発せられている。
コードも電波も繋がっていない、玩具の電話に、電話がかかってきたのだ。
”もしかして…”
少女の胸中に再度、淡い期待が膨らむ。
「はい、もしもし。」
玩具の受話器を手に取り、少女は電話に出た。
『 私 、 メ リ ー さ ん 』
”メリーさんだ! やった!”
「メリーさん! 今、どこにいるの?」
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『 今 、』
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『 今 、 あ な た の 後 ろ に い る の 』
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「え?」
少女の部屋の中に、覚えの無い臭いが広がった。
プラスチックを焼いた様な、髪の毛を燃やした様な、鼻の奥底を刺激する不快な焦げ臭さ。
受話器を手にしたまま、少女は首を回して背後を振り返る。
カシャン。
少女が受話器を落とした。
視線の先には、つい先程少女が整理した人形棚があった。
きちんと並べられた、新品の人形達。
赤い服を着た黄色のヌイグルミ。気取ったポーズをとる黒いネズミの人形。 カメラ目線の白い猫、×口の白兎。
綺麗で、傷一つなく、色あせる様子も無い、真新しい人形達の群れ。
その中に一つだけ、違和感があった。
先程までは、その人形棚の中心に隙間があった。
愛しの愛しの、姉妹と呼称しても差し支え無い程に同じ時間を過ごした愛しの人形の為に用意した隙間。
少女が自身の心の隙間を埋める為に用意した隙間。
その隙間は、埋まっていた。
その隙間を、一体の人形が埋めていた。
その人形は、既に人形と言えるものだったのか?
かつては美しいドレスだった衣服は剥ぎ取られ、錆色に染まった下着様のボロ切れを身に纏い、
左腕は肩から切り落とされ、その肩口からは神経の様な繊維の束がブラブラと垂れ下がっている。
頭部に生えていた筈の金色の髪は根元から毟り取られ、毛を失った頭皮は抉り取られた皮膚の様に爛れ赤黒くじゅくじゅくとした発赤と膿を見せて、
顔面は額から口元に掛けて大きく罅割れ、右眼の周囲はかつては肌色だった表面を失い、ドス黒い中身を覗かせている。
小さな赤く細い線がドクドクと波打つのが見える。
右眼は失われ、黒い眼窩のみとなった穴が開いているだけ。
残された左眼も眼窩から飛び出し掛け、黒く濁りかつての澄んだ碧さは見る影も無い。
新品の人形の群れの中に一体だけ並んだ、不気味に歪む西洋人形。
少女は、その光景から目を離すことが出来ず、瞬き一つすら忘れ凝視を続ける。
少女の視線の先で、
ガサリ
人形が動き始めた。
その動作は辿々しく、人の持つその動作とは大きく掛け離れたぎこちなさを伴っている。
粗く作られたストップモーションの如き動きで、人形は部屋のカーペットに足を降ろす。
片腕が無い為か重心が取りづらいのか、人形はほんの少し右側に蹌踉めく。
そのまま、右半身を引き摺る様な動作で、人形は少女に向かって歩みを始める。
大怪我をした人間が無理矢理体を動かし続ける様な動作で、人形はゆっくりと少女に近づく。
ヒタリ、ヒタリと。ゆっくりと、
歪んだ足を強引に引き摺り持ち上げ動かしながら、
右半身を重たげに後方に残しながら、
溢れかけた蒼黒い左眼を揺らしながら、
小刻みな、危なげな動作で、
ゆっくりゆっくりと、少女の元へ歩み続ける。
人形の歩んだ跡には、ごみ捨て場の腐液で形作られた足跡が累々と並ぶ。
小さな小さな、少女よりも小さな足跡。
少女の目前に来た時、人形はピタリと動きを止めた。
映像を一時停止したかのように、左半身を前方にのめり出しながら、ピタリと動きを止めた。
「メ、メリーさん、だよね?」
少女が口を開く。
人形からの返事は無い。
返事の代わりか、人形は首だけをギリギリと180度回転させ、背後を振り向く。
頚椎骨を用いない人外の存在のみが出来うる動き。首元に残された布の糸がブツブツと切り離される音がする。
後方を振り向く人形の残された左眼の視線の先には、少女の傍らで自身の代わりとなった真新しい人形の群れがあった。
『私…メリーさん』
人形が名乗る。美しい人形の群れが並ぶ棚を顔を向けながら。
メリーさんの声は、震えていた。
だがその声の変化に少女は気付か無い。
…少女の視界には、人形の後頭部が映っていた。
金色の髪を根刮ぎ失い、醜く爛れた後頭部。
少女の臓腑に込み上げる違和感があった。
その違和感を言葉にするなら、
汚らしいモノを見た時に込み上げる、…嫌悪感。
人形が再び少女のいる方向にギリギリと顔を戻す。
そして、口を開く。
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『私、メリーさん。今、あなたの目の前にいるの』
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『ただいま』
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「げぇぇ。こんな汚い人形、私、いらない。」
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吐き気催す少女の言葉。その直後、
shake
music:3
人形が少女の懐に飛び込んできた。
先程の辿々しし動作とは比べ物にならない速度で。
『私、メリーさん』
その時、少女は気付いていなかった。
人形の残された右腕に、一本の金属の刃が握られていた事に。
懐の飛び込んだ人形の姿を少女が認識した直後、
少女は臍の辺りに温もりを感じた。
最初、少女はその温もりの正体に気付かなかった。
想像だにしなかった感覚。幼い人生で初めて身に感じる感覚。
それは、温められたミルクをお腹に溢してしまった時の、じんわりとした温もり。
「え?」
その温かさは、次第に暖かさを増し、熱さになった。熱湯どころではない。真赤に熱せられた刃を臍の中に差し込まれた様な異常な熱さだった。
少女は自身の腹部に眼を向ける。
懐に身を寄せる人形の爛れた頭部の陰から、自身の腹部に深々と差し込まれた包丁が見えた。腹部から溢れる鮮血が刃を赤く染めている。
「いや…なにこれ」
痛みが少女を襲う。
今まで生きてきた人生で感じた事のない激しい痛み。身を貫く刃が生み出す臓腑を切り刻まれる傷みの痛み。
仰向けに倒れこむ少女。身を裂く痛みの奔流に少女は叫び声すら挙げられない。
倒れる少女に馬乗りになる人形。ゆっくりと、よじよじと、あどけない動作で、人形は少女の胴体によじ登る。
胴体のてっぺんで人形はバンザイをする。無邪気に右手を高く振り翳す。
可愛い仕草だった。その手に携える刃が黒く鈍く紅く光沢を放つ。
「や、め、」
『私、メリーさん。寒かったの』
二度、三度、
shake
重ねて、再三と、
shake
執念深く、
shake
深々と、
shake
愛しい者を抱き締める様に、
shake
少女の薄い胸板に、
shake
小さなお腹に鳩尾に、
shake
痩せた脇腹に、
shake
未発達の腕に足に、
shake
あどけない右眼に、
shake
顔面に、喉元に、
shake
刃を刺し込み抉刳(えぐ)り貫く。
「や…だ、」
『私、メリーさん。痛かったの』
ドシュ
shake
「や…、」
『私、メリーさん。寂しかったの。とっても、寂しかったの…』
ザシュ
shake
「……」
グシュ
shake
「…」
ミチュ
shake
「 」
…
…
…
…
…
「ねぇー。包丁が一本ないんだけど、知らなーい?」…
階下から母親の声がする。
だが、少女の部屋は沈黙を守っている。
訝しんだ母親が少女の部屋を覗く。
shake
「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
部屋を染める鮮血の池の中にあったのは、
かつて少女だった筈の小さな亡骸と、少女に突き立てられた真赤な包丁、
そして、
幼い少女よりも遥かに小さく可愛らしい、裸足の足跡。
その血と泥と腐液が混じる液体を滴らせた足跡だけが、窓の外に向かって点々と残されていた。
…
…
…
誓って言いますが、全部、作り話です。
友達の友達から聞いた、作り話です。
”メリーさんの電話”だって、何処かの誰かの作り話です。
メリーさんの正体に具体的に触れた文献だって見たことがありません。
ですから、口伝だけで伝わる、ただの作り話です。
…。
ですが、この怪談に込められた真意が
【棄てたモノの怨み】なのだとしたら…、
…。
私も、棄ててきました。
幼い頃に腕の中に抱えていたであろう、想い出の人形を、
読み終え色褪せた本を、
古びた家具を、割れた食器を、
生ゴミを、粗大ゴミを、
そして、
かつて夢見た、自分の理想を、
飽きて諦め不要と断じ、破棄してきました。
…。
sound:32
shake
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ
電話です。誰でしょうか?
「はい、もしもし?」
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『 も し も し 、 私、メ リ ー さ ん 。 今、
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あ な た の 目 の 前 に い る の
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作者yuki