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短編2
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藤棚にいる男

うちの近所に、児童公園がある。

ある夜遅くその公園のそばを通りかかると、公園の藤棚の下に若い男がいた。

男はまだ春先だというのに、Tシャツに半パン姿だった。

その寒そうな格好で藤棚の下にしゃがみ込み、携帯電話をいじっている。

夜遅くこんなところにそんな格好で、と見ていたが…

どうやらそれはまるで生きてはいない人の様だった。

こちらが気付いている事に気付かれては嫌なので、その日は男をなるべく見ない様に通り過ぎた。

以後、夜になるとその男はいつもそこで携帯をいじったり電話をかけたりしていた。

どこにかけているのかはわからないが。

それからしばらくの後、藤棚の下の人影は二人に増えていた。

二人目は茶色のワンピース姿の若い女だった。

電話で彼女でも呼んだのかな?とも思えたが、男は相変わらずしゃがみ込んで携帯をいじっている。

女は少し離れたところで、藤棚の柱にもたれてぼんやりと立っていた。

あまり見ていると着いて来られる様な気がしたので、やはり知らないふりをして通り過ぎた。

それからまた数日後。

人影は三人に増えていた。

三人目は長袖シャツにGパン姿の、今度は若い男だった。

Gパン姿の男も、何をするでもなく藤棚の下でただうつむいていた。

増えてゆく人影に、そこはそういう者たちのたまり場になってしまったのかと気味が悪くなり、夜はなるべくそばを通らない様にした。

またある日、藤棚の下を見ると…誰もいなかった。

何だ、もう来なくなったのかな、と思った。

が、それも束の間。

翌日には四人の人影が藤棚の下にあった。

携帯をいじっている男と、茶色のワンピース姿の女と…他の二人はよくわからなかった。

今は。誰もいない時もあるが何人もの人影が見える時もあり、その中には必ず携帯をいじっている男がいる。

そこは夏になると何人かの学生がたむろしてたりカップルがいたりするのだが、その生きてる人間のすぐそばに、携帯をいじってる男が変わらずにしゃがんでいたりする。

夜の公園デートを楽しんでいるカップルが自分たちのすぐそばに無粋な邪魔者がいて平気なわけはないだろうから、やはり見えてはいないのだろう。

しかし、一方では真冬の夜中に半袖シャツ姿の変な男が公園にいる、と町内会に苦情が来てもいるらしい。

やはりあそこに年中ずっといるのだろう。

電話男は今晩もいる。

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