やあロビン魔太郎.comだ。
今回は皆様を世にも恐ろしい、死後の世界へとお連れしよう。
これは今からざっと遡る事、十数年前の夏の日の出来事だ。
当時、週末になれば街に繰り出してナンパに明け暮れていた俺と舎弟の龍は、その日もいつも通り20時に待ち合わせをして、俺の愛車クラウンで片道一時間かかる市内へと向かっていた。
「ねえ兄貴、今日もマブいチャンネー達ゲッチュ出来ますかねー♪」
「あっ?何だって?」
俺は音楽のボリュームを下げて、助手席の龍を見た。
龍は子供のようなキラキラした笑顔でこう言った。
「こないだみたいに、オッパイボヨヨーンなギャルに逆ナンとかされたら最高なんスけどね!
まあ、こう言っちゃ何ですけど兄貴も俺もそこいらの男に比べたら中々のハンサムボーイですから、マブいボインちゃんをゲットする事なんて楽勝ッスよね♪」
こいつは一体なにを言っているのだろう?
もしかすると、俺と会う前に大麻でも吸ってキメてきているのかもしれないという疑念が頭に浮かんだ。
俺は龍のそばに顔を近付けて、くんくんと匂いを嗅いでみた。
「グワシ!!ちょ、ちょっとタンマ!兄貴、急になにするんすか?」
ふむ、草特有の甘い香りはしない。
キメてきているわけでは無さそうだ。
てことは、突然コイツの頭が可笑しくなってしまったのだろうか?俺は若干の不安を抱きつつも、オーディオのボリュームを上げた。
…
車はいつも通りの時間に繁華街へと到着した。
今日も街は賑わっている。彼方此方に若くて旨そうな女の子達で溢れていた。
とりあえず車を立体駐車場にとめ、早る気持ちを抑えながら徒歩で軽そうな獲物を探す。
まあ、いつものパターンだ。
「あ、兄貴!あのオネーちゃんなんてどうスか?中々ナウい格好してるし、パイオツ具合もバッチグーなんすけど♪」
そう言うと、特攻隊長の龍がいそいそとその美女二人組に近付き、絡みだした。
ふむ、二人とも綺麗なサラサラの黒髪を腰まで垂らし、胸元は割れ、体のラインがくっきりと出る白のワンピースを着ている。
顔も可愛い、まるで双子みたいにソックリなのが気になるが。
しかも、少し屈めば白い太腿からパンツが見えそうなほどに短い。
え、エロい!合格!!
因みに、俺は話が盛り上がってきた頃合いを見計らってから参加する。男前は後から登場するのが有効なのだ。
まあこれもいつものパターンなのだが。
「ナハハ!!!」
龍が不思議な笑い声を上げている。
どうやら話は盛り上がっているようで、美女二人もまんざらではないって表情をしているのが見て取れた。
「こんばんはー」
偶然を装って声をかける。
瞬間、彼女たちの俺を見る冷たい目にギョッとした。
時が止まったかのような錯覚に陥る。
今のいままで龍のギャグに爆笑していたそのギャップに、背筋に薄ら寒いものを感じた。
「兄貴!今からこの可愛い子ちゃん二人と夜景スポットにでも行こうって話になってんすけど、いいですよね?」
「お、おう!」
「きゃあ、夜景とか久しぶりー♪」
すぐに女の子たちの顔に笑みが戻った為、さっきのは多分気のせいだと納得して、俺たちは車に乗り込み、展望台のある山頂を目指した。
…
「ねえねえ、君たちって何歳なの?」
龍が助手席から後ろの二人に声をかける。
「えー、何歳に見えます?」
「うーん、20歳ぐらいかな?」
「ちょっと勘弁してくださいよー、私たちまだ18ですよー、ぶー!!」
実にくだらないやり取りだ。
「あっ、メンゴメンゴ!許してチョンマゲ!だよねー、君たち、肌とかめちゃんこ若いもんねー」
「またまた龍さんたら上手い事言ってー、てか龍さん私たちの胸、見過ぎですからー」
「ガビーン!うへへバレちゃってた?でも正直いって君たちの胸見てると、ドキがムネムネするんだよな、胸だけにー♪ナハハ!!!」
「やだー、何それ全然上手くないしー♪きゃはは」
もう一度言おう、実にくだらないやり取りである。
そうこう言っている間に、目的地である展望台へ到着した。
パノラマに広がる絶景。
落ちてきそうな星空。
マイナスイオンをたっぷりと含んだ心地よい夜風。
何度見てもここからの夜景は素晴らしい。
俺はため息をつきながら、今ごろ隣りで感動しているであろう彼女たちを見た。
「な、なんだ!?」
二人は景色ではなくジッと俺の方を見つめていた。
「私、脱ぐとすごいんです」
俺は自分の目と耳を疑った。
突然、女の子の内の一人が、己の胸をワシワシと揉みしだきながら、甘い表情でカミングアウトを始めたからだ。
「私、こう見えて実はナイスバディなんです」
こ、この女、確か今喋っている方が温子ちゃんで、隣りでニヤニヤしているのが、ゆう子ちゃんだったかな?
「ねー、聞いてますか?私たち二人共脱ぐと、ボン、キュッ、ボンなんですけど」
温子ちゃんとゆう子ちゃんが頬を赤くそめ、胸を揉みながらジリジリとにじり寄ってくる。
「い、いや、お前ら急にどうしたん…pj」
その時、俺は気づいてしまった。
彼女たちの目がおかしいのだ。
二人共、目尻がキツネのように吊りあがり、あるべき筈の黒目部分がない。
いや、おかしいのは目だけではない。
黒髪の掛かる両耳と鼻が、三角に尖っている。
ゆう子ちゃんは涎をダラダラと垂らしながらハッハ!ハッハ!言っているし、温子ちゃんなんていつの間にか分厚く旨そうな油揚げを咥えている。
「き、貴様ら、人間じゃないだと?!」
「きーー、ひっひっひっ」
ふさふさモフモフの尻尾を振り回しながら、二人は四つん這いになった。
おかしいおかしいとは思っていたが、やはりこいつらは化けもんだったようだ。
「兄貴ー、どうしたんすか?」
向こうから、便所に行っていた龍がベルトを締めながら帰ってきた。
俺はこれが助け舟とばかりに、慌てて龍に駆け寄った。
「オヨヨ!あ、兄貴!ちょっとタンマ!まだち◯ち◯仕舞ってないんですから!アジャパーーw」
「てめえ、この野郎!!」
バチン!!
この緊迫した状況下で、此の期に及んでも尚、訳のわからないリアクションをとる龍に殺意をおぼえた俺は、思い切り殴り飛ばした。
「グボフああああ!!!ギャフン!!」
3メートル吹っ飛び、アスファルトに転がった龍は、最後の力を振り絞って「よっこい庄一!」とか言いながらなんとか上半身を起こした。
「ちょっと兄貴!チョベリバもいいとこですよ!なんで急に殴るんすか!もうちょっとでグロッキーになる所でしたよ!」
と、その時だった。
「はーい龍君!お口チャック!お口チャックー!」
突然、自分の口から考えてもいない言葉が漏れた。更に…
「俺が札付きのワルだって事を忘れていたのか?お前みたいなスケコマシとは訳が違うんだよバカちん!」
俺はいったい何を言っているのだろう?
「ガビーン!兄貴!ちょっとタンマ!俺たちマブダチじゃないですか!ゆ、許してチョンマゲー!」
「うるせー!お前がわけわかめな事ばっかり言ってっからいけねーんだよコンニャロー!」
俺は龍の胸ぐらを掴むと、拳を振り上げた。
「こーーん、こーーん」
振り返ると展望台の柵の前で全身毛むくじゃらの二匹の女狐が、退屈そうに夜空に向かって鳴き声を上げていた。
…
携帯アラームで目を醒ますと、身体中にビッショリと寝汗をかいていた。
昨晩、消し忘れたテレビに目を向けると、朝っぱらから「懐かしい昭和の若者言葉」という特番がやっていた。
「ふふ、なるほどな」
俺は夢の中であろうと、何の罪もない舎弟を殴り飛ばした事を、密かに胸の中で詫びた。
「ふ、チョベリバか…」
カーテンを開け、大きく伸びをする。
そして、枕元のスマホを手に取ろうとした時、金色の毛の束が布団の上に大量に散らばっていた。
…
さて、死後…いや死語の世界は如何だったでしょうか?
時と共に新しく生まれ、消えていく流行り言葉。
同じ時代を生きた、懐かしく愛すべき死語を、いつまでも貴方の記憶の中に…
【了】
作者ロビンⓂ︎
おはこんばんちは♪ さて、お話の中に「死語」はいくつ出てきたでしょうか?ψ(`∇´)ψひひ