※途中まで、うちの旦那さんの本当に体験した話。
うちの旦那は、正直、真面目な方ではなく、やんちゃというのとは、また違うタイプです。
学生の頃は、一応卓球部に所属するも幽霊部員。
夏休みともなれば、無論練習に参加するはずもなく、それかと言って、家で真面目に宿題をやるタイプでもありません。小学生の頃はラジオ体操が始まる前には、すでに山の中に入ってカブト虫やクワガタを獲りに行き、その帰り道にゲーセンに寄って、一日中遊んでばかり。おかげでお勉強のほうはさっぱりだったようです。
クワガタやカブト虫を獲った帰りに、ゲーセンに寄るのにはワケがありました。そのゲーセンというのが駄菓子屋も兼ねたような所で、捕まえたクワガタやカブト虫を買い取ってくれるそうなのです。
「今日は大量だぞ。」
そう勇んで、ゲーセンにいそいそと足を運び、虫かごを差し出した。
ゲーセンという名の薄暗い駄菓子屋の奥から、もずの早煮えみたいな婆さんが出てきて、値踏みする。
「・・・ん。」
尖ったあごをしゃくると、シワシワの手に50円玉が乗っていた。
「えー、これだけ獲ったのに、たったこれだけ?オバサン。」
ばあさんと呼ぶと、凄い目で睨まれるので、恐る恐る不満を口にしても、フンと鼻を鳴らし、奥へと引っ込んだまま、また動かなくなる。愛想の無いばばあだぜ。
でも、無愛想な分、不気味さはあり、まだあどけなさの残る少年には逆らえなかった。
もらえないよりはマシか。
不満を抱えつつも、カブト虫を売ったお金で、その店にある、筐体ゲームでピコピコ仲間と遊んで、余ったお金で駄菓子を買う。つまりは、稼いだお金も、その店でゲームやらで溶かして帰るので、店は何も損しないのだ。
そんな夏休みのある日、嬉々として、クワガタやカブト虫を獲って、虫かごを持って、いそいそとゲーセンに行こうと、獲物を確認した。
すると、一匹だけ、頭がぷらんぷらんになったカブト虫が居たのだ。
たぶん、クワガタと一緒に入れていたので、クワガタに首チョンパされたのだろう。
田舎育ちなら、誰しも経験があると思う。
「ひぃっ」
少年は小さく叫んだ。
少年は、カゴからそっと首の皮一枚で繋がったカブト虫を取り出すと
「ごめんなさい」
とつぶやいて、森に放した。
その日の夕方、少年は家族と一緒に夕飯を食べていて、ふと窓の方を見た。
「ひゃああ!」
少年が、叫び声を上げると、母親は怪訝な顔でなんなの?と言った。
窓の外の網戸に、なんと、今朝森に放した、首の皮一枚でつながったカブト虫が飛んできて、網戸にピタっと止まった瞬間を見てしまったのだ。
母親が厳しかったため、そんなことは言えない。
ましてや、内緒で部活にも行かずに、ゲーセンで遊んでるとは、親はつゆ知らず。
「な、なんでもない。」
母親は、訝しがりながらも、変な子、と言って早く食べて勉強するように促した。
カブト虫が恨んでわざわざうちまで飛んできたのか?
少年は、心の中で「ごめんなさい」と繰り返した。
とはいうものの、本当に懲りて反省するわけがない。
次の日も早朝から家を抜け出し、カブト虫とクワガタ獲りに精を出す。
見てろよ、ばばあ。今回は100円は稼いでやるぜ。
昨日、傷をつけておいたくぬぎの木が見事に蜜を出していて、大量のカブト虫がまとわりついていた。
少年は嬉々として、網でつかまえて、ゲーセンに急いだ。
「おばさーん、カブト虫、獲って来たよ~!」
いつもなら薄暗い店内から、のっそりと出てくるのだけど、今日は何も反応がなかった。
あれ?どこか出かけてるのかな。店を開けっ放しで無用心な。
「おばさん?」
もう一度、声をかけるが返答なし。
ごとり。
店の奥から物音がした。
なんだ、居るなら返事しろよ、ばばあ。
そう思いながら、店の奥へと進む。
そして、いつもばあさんが座っているレジ台へ目をむけると、薄暗さに目が慣れずになかなか姿が見えない。
そして、ようやく目が慣れて、姿が露になった時、少年は後ろにひっくり返ってしまった。
「ひぃいぃぃぃぃぃっ!」
その体には、首がついておらず、一本の線でつながり、首はレジ台の上に転がっていた。
そして、その首がごろりとこちらに向くと、口を開いた。
「クソガキ、殺生するんじゃないよ!」
ブーン、とカブト虫の羽音が響いた。
作者よもつひらさか
実話は首チョンパカブト虫が、家の網戸に飛んでくるところまでですw