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「エマージェンシー、エマージェンシー!こちら特命隊東都第一支部!
警戒地域外で電脳ゾンビの暴走が勃発しました!至急、応援お願いします!」
電脳ゾンビ対策本部にけたたましく、無線から慌しい叫び声と、騒然とした現場の阿鼻叫喚の声が聞こえてきた。
「くそっ!警戒地域内に閉じ込めていた個体が外に逃げてしまったか!」
鬼頭統括本部長は、GPSで勃発した地域の特定を急いだ。
「一般人の避難を最優先に考えて、地下シェルターに誘導しろ!すぐにそちらに、ゾンビハンターを向かわせる。」
「でも、一般人とゾンビの見分けがつきません!」
「これから、人間には聞こえない、電脳ゾンビにしか聞こえない周波数の電波をその地域一帯に流す。電脳ゾンビは耐え切れず、うずくまってしばらく機能しないはずだ。その隙に、一般人を避難させてくれ。」
そして、鬼頭の指示で、電波塔からその電波は流された。
国策の失敗である。人口増加に歯止めをかけるため、40歳以上の戦力外人間の始末のために隠密のうちに進められていた電脳ゾンビ計画は、ことごとく失敗した。電脳と人体の融合はやはり神の領域に触れてしまったということなのか。不完全な出来損ないの化け物たちは暴走し暴徒と化し、本能のままの殺戮を繰り返すようになった。
「すぐに、ゾンビハンター02を出動させてくれ。」
鬼頭の指示とともに、地下施設に整然と並んだ、そのダンボールに似たロボットは、肩と腕に連射可能のガトリングガンを装備、愛嬌のあるその顔とは裏腹に、冷酷無情の殺戮マシーンである。
電脳ゾンビだけを識別し、木っ端微塵にしてしまうのだ。
「出動!」
掛け声とともに、地下施設のハッチが開き、一斉にゾンビハンター02は飛び立って行った。
「どうしてこんなことになってしまったんだ。」
何千、何万の個体が存在するのか。処分しても処分しても、どこからか沸いてきては、無差別に殺戮を繰り返す電脳ゾンビ。もう個体の製造は禁止されているにも関わらず、どこからか沸いて来る。
あくまでも噂だが、これには、裏天皇として太古より存在していた、秘密結社「八咫烏」が関係しているのではないかと言われている。長きに渡り、裏で天皇を支える存在として裏方に徹していたが、神の啓示を聞いたと言い、黄泉の世界と、現世の均衡を図るために、暗躍し始めたというのだ。
鬼頭はある人物に接触を試みていた。
彼の名は、「矢田クロード」。八咫烏の血脈でありながら、人と人ならざるもののハーフである。
彼には戸籍が無い。存在しないものとしての次元の狭間人。
彼は八咫烏の異端児であり、実は八咫烏が黄泉の世界と現世の均衡を図るためというのは建前であり、実は、現世の八咫烏による支配を企んでいるのではないかと危惧している一人である。
「僕なら、この狂った世界を無かったことにできますよ。」
恐ろしく美しい少年は、涼しげに笑った。
「アマテラスを発動し、あの政策を打ち立てた総理を解きます。」
「解く?」
「そう、解く。僕の忠実な僕を使ってね。」
そう薄く笑うと、どこからか女の子の声がした。
「誰が忠実な僕よ!」
声のするほうを、見ると天井だった。
普段冷静な鬼頭もぎょっとした。
明らかに重力に逆らった少女がこちらを睨んでいるのだ。
「君はこの前、一人の人間の人生を弄んで、カエルにしてしまったそうじゃないか。」
矢田がクスクスと笑う。
すると、少女はぐっと一瞬返答に困り、顔を真っ赤にした。
「あ、あれは!人間が欲深いのが悪いのよ!かわいい嫁が欲しいっていうから望みをかなえてあげたのに。
元に戻してくれってわがままを言うから。当然の報いよ。」
「違うね。君は、結末を知っていた。未必の故意ってやつさ。君は、人の人生を弄んで楽しんでいる。悪魔で変態なのさ。」
「なっ!わ、私は違う!変態はあんたじゃん!」
鬼頭はわけがわからず、いい争いを静観していた。
「望まない解きはよくないな。お母様に言いつけられたい?」
矢田にやんわりと窘められた少女はうなだれた。
「わかったわよ。私、何をしたらいいの?」
「アマテラスを発動して、電脳ゾンビ政策を打ち立てる前に、岸部首相を解いて欲しい。」
そう矢田が言うと、少女は息を飲んだ。
「そんなことして、八咫烏が黙ってると思うの?」
少女が真剣な顔で問うと、矢田は涼やかに笑った。
「最初から僕は異端児さ。八咫烏からは追放された存在。今更でしょ?」
「いくらお母様でも、もう庇いきれなくなるよ?知らないからね。バカ兄貴。」
「君も、まだまだ人間を弄びたいでしょう?生粋の変態だからね、君は。人間がこの世からいなくなったら、一番困るのは君じゃないの?」
少女は、フンと鼻を鳴らし、天井のどこかへ消えてしまった。
矢田は鬼頭に向き直ると、涼しい顔で言った。
「明日、晴れるといいですねえ。良い花見日和ですよ。愚かな妹が今日中に何とかすると思います。」
そう言いながら、モニターに映る、ゾンビハンター02によって焦土と化した土手の桜並木だった物を見つめた。
作者よもつひらさか
私の祝祭をノリノリで書いておられるので、むずむずと悪い虫がうずきましたので、悪乗りしましたw
すみませんけど、SF読みに来てるんじゃないんですよね!と思われる方は、申し訳ありませんがお目を瞑っていただきたく存じます。
参考URL
「カラスのヤタ」http://kowabana.jp/stories/24745 「矢田クロード」
「うるう人」http://kowabana.jp/stories/25709 「解き人」実はその正体は・・・。