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中編4
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【十物語】第五夜 夢呪

もう十何年も前になるのかなぁ…、まだ俺が20代後半くらいだった頃の話だよ。

当時、俺は車にハマっててさ。

愛車はインテグラのタイプR。

「ヒルクライム」とか「ダウンヒル」って言えば、「あー、走り屋かぁ」ってのは、想像に難くないと思う。

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よく、榛名とか赤城とか碓氷とか走りに行ってたなー。

その頃、当時勤めてた職場の先輩が紹介してくれた関係で付き合ってた彼女がいて、その子、武井咲に似て可愛い子で、なんだかんだ3年くらいは付き合ってたかな?

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最初は良かったんだけど、だんだん彼女のことが重くなってきちゃってさ。

もう終わった過去のことをいつまでもグチグチ言ったり、携帯を家に忘れてちょっと買い物に行っただけでケチ付けてきたりで、お互いもうすぐ30になるしケジメ付けようってことで別れたんだ。

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ホント言うと、俺も彼女と別れてしばらく車オンリーな生活したかったし。

彼女は走りに行かせてはくれてたけど、時間制限設けられて窮屈だったしさ。

別れた当初は、何とも言えない解放感ってのがあったね。

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愛車のインテで思いきり走れるから、週末は上機嫌だった。

けど、彼女と別れてから一週間もしないうちくらいからかな?

夢にうなされるようになって、体調崩し始めて。

しかも毎晩、同じ夢。

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何もない暗闇の中を、何かに追いかけられる。

振り返っても、そこに何かがいるわけじゃなくて、「存在感」そのものが追いかけてくる感じ。

ただ、ただ、怖くて逃げる。

そんで目が覚めると、寝てから小一時間と経ってないんだ。

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で、目が覚めるとそこから今度は一睡もできなくなって朝になる。

こんなことが、毎日続くんだぜ?

そりゃさぁ、ノイローゼみたいになるってもんだろ?

ついに職場でぶっ倒れたよ。

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担ぎ込まれた病院で言われた医者の診断は、「寝不足」と「過労」だってさ。

そりゃそうだよ、寝れねぇんだもん。

けど、病院まで付き添ってくれた課長が妙なこと言ったんだ。

「変な術みたいなの、かけられてないか?」って。

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課長の実家って、なんつーんだろ?

密教?

爺ちゃんも父ちゃんも、高野山で修行した坊さんなんだってさ。

そのせいかどうかは分からんが、課長って子供の頃から呪いとか術とかにかけられてる人が分かるらしい。

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課長が言うには、悪い術や呪いにかかってる人間ってのは黒煙に包まれてるように見えて、結界や護符の守護を受けてる人は後光がさすように光って見えるんだと。

で、俺は黒煙に包まれてる真っ最中らしく、かなりヤバい状況だとか。

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冗談とか言う上司じゃなかったから、俺は課長に毎晩見る夢のことを話したんだ。

そしたら、「間違った術式で、本来の術とは逆に呪いをかけられてる可能性がある」って言われた。

もう、頭の中「???」状態。

なんだ、間違った術式って?

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課長の話だと、夢に関わる術ってのは人の心に作用して良い方向へと導いたりするものらしい。

恋愛なら、なかなか結婚を切り出さない相手の背中を押すように働きかける、みたいな感じだそうだ。

女子が好きな「おまじない」みたいなもんか?と俺は思った。

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それを間違った術式で行ったために、俺に悪影響を及ぼしている、と。

なんつー迷惑な話。

どうしたものかと課長に相談したら、課長の親父さんトコへ連れてってくれると言うので、退院したら早速とお願いした。

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入院中は睡眠薬のおかげなのか、夢も見ずに眠れて体調は劇的に回復。

悪夢にうなされたのは、入院した初日くらいだったかな。

退院して、俺はソッコー課長の実家のお寺さんにお邪魔したよ。

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課長の親父さんは俺の顔を見るなり、「誰かに強く想われてる。モテるんだねぇ」と言った。

「モテる」と言われたら、男なら誰だって悪い気はしないだろうが、変なのに「モテて」も嬉しくないのが本音じゃなかろうか。

とりあえず、術の効果を無に帰すことにしようと本堂の真ん中に座らされた。

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護摩を焚き、独鈷杵を俺に握らせると本堂に課長の親父さんの朗々とした声が響き渡り、祈祷のようなものが始まった。

それは20分くらい続き、終わると木札を渡されて一ヶ月は手離すなって言われたな。

たぶん、術を使ってる相手は自分が間違ってることに気付いてないだろうから、って。

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課長の親父さんに礼を言って、課長と一緒に帰ってきたら、その日の夜から爆睡。

いやぁ、もう、気持ち良かったねー!

そんな時、今度は元カノが体調を崩したって話が耳に入ってきた。

まぁ、別れた相手ではあったけど心配じゃねぇっつったら嘘になるし。

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そのうち、療養するから会社を辞めて実家のある長野に帰るってことになったようだと聞いた。

それで、元カノの友達が俺に「あんたと復縁したいって言ってたけど、あんたが心変わりしないから諦めたんだね」って言ってきた時には、俺、ふと考えちゃったよ。

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まさか、俺に間違った術式かけたの元カノなんじゃね?って。

それこそ、復縁したくてさ。

けど、一度は好き合って付き合った仲だし、楽しいこともなかったわけじゃねぇし。

だから、変に疑いたくなかった。

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元カノが実家に帰ってから木札をお焚き上げに行ったけど、あれからは平穏無事。

…女性の皆さん、おまじないは程々に。

おまじないなんかよりも、ズバッと言ってくれた方が男としては助かるよ、マジで。

[おわり]

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