5月5日都内某所
小学生の頃からの付き合いの友人と再会した。その日は誕生日だった。
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「はあ?誕生日と言えばプレゼントだろ?何年友達やってんだよ~パフェ奢ってくれたら機嫌直してやる」
店員さんを呼びパフェを頼んだ。満足そうな顔をしながら此方をみている、機嫌が直ったようだ。
「こんな日に話す内容じゃないんだけどさ、今まで誰にも話せなかった事があるんだよ。俺らが小学生の頃でかい屋敷があっただろ、なんだ・・・俺かお前の家から割と近い所にあったでかい屋敷。」
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~子供の家~
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俺はその時小学3年生で、三つ上の兄と同じ小学校に通っていた。
家庭環境は可もなく不可もなく。気になる事と言えば・・・
「ねぇ、どうして君は髪が黒くないの?」
「お母さんが外国の人だからだよ。」
「ふーん。お人形みたいだねー」
「・・・・・・」
「お兄さんと似てないねーなんで?」
「お母さんが違うからだよ。」
「なんで?なんで違うの?」
「知らない。」
何度も繰り返されるこの手の質問が大嫌いだった。
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学校の帰り道
大きな屋敷を見つけた。誰がみても分かるお金持ちの家。
大きな門と大きな壁、背の高い木。
見つけたその日からその大きな家を見てから帰るようになった。
何人か子供が家を出入りしているのを見かけ、この家の子供かと思ったが違う様子だった。
「変なお家だな。」
大きな屋敷から少し離れた所から見ていると
「君、ここの屋敷の子なの?それとも、君も呼ばれたの?ねぇ!どうなの?」
知らないおばさんに声をかけられた。
「え、違う・・あ、違います。」
おばさんは最初は少し怖い顔をしていたが表情が崩れだんだん悲しそうな顔に変わった。
「よかった・・・。だめよ、絶対だめよこの家に入ってはだめ。君も危険な目に遭う。」
「このお家お化け出るんですか?」
「もっと怖い目に遭うのよ取り返しのつかないこと、私は言えない・・言ったらだめなの、でも君は・・・」
おばさんは涙目になりながら話していたが、話の内容が全くはいってこない。
数分おばさんの話を聞いていると、おばさんの後ろから数人のおじさんがやってきた。
「関さんだめじゃないですか、身体が悪いんだから家で寝てなくちゃ。さ、家に帰りましょう。」
「ひ・・・ひいいいいいいい、わ、かりました。」
一瞬おばさんの顔が引きつった。
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おばさんが連れていかれる様子を見ていると屋敷の門が開く音がした。
ギィイイ・・・・・
門の前にはスーツを着た眼鏡のおじさんが立っていた。腹が少し出ているのが目立った。
此方を見ながら おいでおいでと手招きをしていた。
「坊や、お菓子は好きかな?」
「うん。」
「とーっても美味しいお菓子があるんだよ、君の友達も来ているよ。さあ、おいで。」
「お菓子!!」
俺は”お菓子”という誘惑に負け、屋敷の門に入った。
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家の中は異様な空間だった。
知らない子供が沢山家に居たのだ、俺の友達は一人も居ない。それから沢山のお菓子や甘い物の数々、見たことのない高級そうなケーキが長いテーブルの上に並んでいた。
家の内装や家具が豪華で絵本に出てくるお城の様な家だった。
子供達はおじさんの子供ではなく近所の子供らしく、学校帰りに屋敷に寄ってお菓子を食べて帰るのだそうだ。
曖昧な記憶だが俺よりも年齢が低い子供は1人だけで、他は2つか3つ位年上にみえた。
「坊やは綺麗な髪をしているね、そして綺麗な目をしている。まるでお人形さんのようだ」
「人間だよ!人形じゃない!」
悪い悪いと言いながらおじさんは頭を撫でた。
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キャンディーが入った箱を手に取り、2階に上がった。
1階と同様豪華な部屋だったが、一番奥の扉だけ不自然で古い造りだった。
キャンディーを舐めながらその古い扉の方へと歩くと。
「ぁあー・・・・うあああー・・・」
古い扉へ続く廊下の左右の部屋のどこかから子供の声がした。
ビクッとしてキャンディーを一個落としてしまった。
「痛いよぉ・・・・」
誰かが怪我をしえいるのかもしれない、助けなきゃ。咄嗟に声をかけた。
「誰?大丈夫?どこにいるの?」
「ここだよぉ・・・痛いよぉ・・・」
「え?どこ・・・・・」
shake
ガッ!!!!!!!!!
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「うわああああ!!」
急に後ろから肩を掴まれ、びっくりして大声で叫んだ。
「はっはっはっ、坊やは好奇心旺盛だね。」
おじさんが真後ろに立っていた。いつの間に来たのだろう。
「坊や、今聞いた音は誰にも言ってはいけないよ?いいね?」
「は・・い。」
顔を覗き込むように言うおじさん、眼鏡の奥の目が不気味だった。
「いい子いい子、一階にもっと美味しいキャンディーがあるからお食べ?」
おじさんは俺の頭を撫でながら言った。
これ以上2階にいてはいけない雰囲気になり、1階に降りた。
おじさんは2階のどこかの部屋に入っていき、ドアを開けた時 さっき聞いた子供の声が聞こえたような気がした。
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殆ど毎日おじさんの家に通うようになったある日
おじさんの家でお菓子を食べていると、一人の男の子が2階から泣きながら走って降りてきた。
「うわぁあああん、うわあああん」
俺は丁度階段下に座っていたので降りてきた子供とぶつかった。痛かったのか益々子供は泣いた。
「ごめんね、大丈夫?」
おじさんの家に居る子供の中で一番幼い子供だった。
「逃がすか隠すかしないと、その子捕まるぞ。捕まったら連れていかれる。」
豪華なソファーに寝ころんだ状態でペロペロキャンディーを舐めている少年が言った。
少年は見知らぬ制服を綺麗に着ていて、年は自分の兄よりも上にみえた。多分この部屋に居る子供の中で一番年齢が高く、一番寛いでいた。おじさんの子供なのだろうか。
「どこに連れてかれるの。」
「秘密の部屋さ。秘密の部屋に入って出てこられた子供は居ないよ。」
「君は誰?なんでそんなに詳しいの?」
「ここのジジイの子供だからさ、本当の子供じゃないけど。」
俺が怪訝そうな顔をすると
「時間がない、その泣いてる餓鬼を隠せ。」
さっきまで泣いてた子供は泣き止んでいて、俺の足にくっついていた。
目の周りが濡れて光っている。
少年の言葉に従い泣いている子供をどこかに隠す事にした。階段から離れ、辺りを見渡すと少年が奥のクローゼットを指さした。
「大丈夫だからね、ここに隠れていてね。」
「なんで隠れるの?怖い暗いよ」
また泣きそうになったので俺はポケットに入っていた飴をその子の口に入れた。
「この飴が舐め終わるまでここに居て。」
黙って従ったので静かにクローゼットを閉めた。
どうして子供を隠さないといけないのか、俺にはよく分からなかった。ただ、少年の言うとおりにした方がいいような気がした。
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shake
ギシッギシッ・・・ギシッギシッ・・・
二階からおじさんが降りてきた。
他の子供達は無言でお菓子やケーキを食べていた。
「おーい、○○君どこだーい?」
俺はゆっくりとした動きでクローゼットから離れた。おじさんはニヤニヤした顔で○○君を探した。
「どこに行ったか知らないかね?」
ソファーでふんぞり返って居る少年に聞いた。
「さぁ?知らない。」
少年が馬鹿にしたような表情で答えた。
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shake
バァチィイイー!!
「いってーー!!」
おじさんは少年に近づき頬を思いっきり叩いた。
「お前はいつもそうやって邪魔をする・・・」
その光景をみて子供達は泣き出し家から飛び出していった。その光景も異様に感じた。演劇のような演技じみた作られた様な。
おじさんは冷たい表情で少年を怒っていた。何を言っていたのかは覚えていない。
はっきりと覚えていることは、おじさんがクローゼットを開け中に居る子供が見つかってしまった事。そしてその子供は2階に連れていかれた事だ。俺は2階に連れていかれる子供を目で追うことしかできなかった。
追いかけようとすると、少年に止められたからだ。
「なんで止めるんだ!助けなきゃ!」
「バッカだなお前、俺はお前を助けたんだぞ?」
感謝しろと言わんばかりの物言いだった。
「あの子は助けないの?」
「あーなったら無理だ。」
少年は冷めた顔で言った。
「もう帰れ。全部忘れろ、もうここには来るな。」
少年に腕を掴まれ屋敷の門の外へ連れていかれた。
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少年は門の鍵をかけると再度俺に、ここへは来ないよう言い屋敷に戻って行った。
少年が屋敷の中に入って行くのを見て、俺は家に帰った。
家に帰ってもおじさんの家に行った事や、起きた出来事は誰にも話さなかった。
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次の日
朝から授業が終わるまで昨日の事が気になり、家にまっすぐ帰る筈がおじさんの家の門の前に来ていた。
門は開いており、中へ招かれている様に見えた。何故だか家の鍵も開いていて、今日は子供が一人も居なかった。お菓子や数々のデザートはテーブルの上に豪華に置かれていた。今日はお菓子を食べてはいけない気がして、手を付けなかった。おじさんに殴られていた少年も居ない、おじさんも見当たらない。
ふと、2階のあの古い扉を思い出し2階へ足音を立てないように上がった。奥の古い扉が薄く開いていて、そこから光が漏れていた。
ドンッドンッ ギーッ ザクッ ドンッドンッ
shake
そーっと近づき中を覗くと、太った男が此方に尻を向けて何かを叩いているのが見えた。
同時に、腐ったような生臭いようなくさい臭いがした。今まで嗅いだことのない臭い。
shake
俺の頭の中でサイレンが鳴った。早くここから逃げろと訴えていた。ゆっくりと後ずさりしていると人にぶつかった。
うわあっ!と声を出しそうになると後ろから口を手で押さえられた。
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shake
「お前馬鹿か、来るなと言っただろ。」
少年の声だった。その声を聞いて安心した、仲間に会えた時の安心感が俺を包んだ。
その時、目の前の古い扉の中から男の声がした。
「おおおおーい、誰かいるのか?」
その声は洞窟の奥から響いてくる様な声だった。太く低い、怪物の様な声。
少年が咄嗟に俺を自分の後ろに隠した。ギィイ・・・と音を立てて中から大男が出てきた。俺は少年の後ろからチラッと男をみた。男は小さい眼鏡をかけ大きな汚れの付いたエプロンをしていた。エプロンは赤黒く汚い色だった。
「コックさん、俺だよ。俺のほかには誰もいない。」
「確かに餓鬼の声がしたんだけどよ、気のせいか?いや、餓鬼の臭いがするなぁ」
鼻をひくひくさせる様は、正に豚の様だった。
「気のせいだよ、ほら仕事が残ってるでしょ?ほらほら」
少年に促され、大男は古い扉の中に入って行った。
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昨日と同じように少年に腕を掴まれ、屋敷の門まで連れていかれた。
門まで歩いている間少年と俺はずっと無言だった。
「あの・・昨日の子供は・・・」
「もう忘れるんだ、いいか?絶対にこの家には来るんじゃないぞ!絶対にだ!」
「え、何で?あの子はどうしたの?言ってることが分からないよ!」
「明日も明後日もずっと来るな!引っ越しでもして遠くへ行け。そして、絶対に誰にも言うな、いいな?」
少年の表情は複雑だった。
少年は屋敷に戻っていくし門の鍵もかけられ、ここに立ちつくす事しかできないので俺は家に帰ることにした。
家に帰る途中で知らないおじさん数人に声をかけられた。
「坊や、あのお屋敷から出てきたけどなにかあったのか?」
「俺もみたよ、あのお屋敷やべーとこらしいな。何かされたか?」
「あのお屋敷はいつも子供がいるんだよな~」
おじさん達は一斉に俺に質問してきた。
「いや、その、何も知りません。」
「あ?本当に何も知らないのか?」
「何も知りません、何も知らないです!!」
おじさんの威圧的な態度が怖かったが、俺ははっきりと言った。
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「大正解~~~~」
おじさんの言っている意味が分からなかった。
「え?」
「坊やはいい子だね、将来が楽しみだ」
「そうだな、この子は将来有望だぞ~」
益々言っている意味が分からなかった。
「おじさんが言いたいのはさ、坊やは命拾いしたって事だよ。」
「いのち・・?」
「あはははは、まだわかんねーか。」
一人のおじさんが俺と視線を合わせて言った。
「坊やがあのお屋敷の話をしたら、”坊やも家族も消さないと”いけなかったんだ。」
おじさんはニコっと笑って去って行った。
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数か月後に俺は引っ越した。
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「そういえばそんな屋敷あった、あの屋敷は子供が沢山いたね。」
「ああ、後後聞いた話なんだけど”あの屋敷”に出入りしてた子供はイタズラされてたみたいなんだよ。屋敷の主人に。恐い人達が関わってる屋敷だし、周りの住人も口封じされていたらしい。」
「この屋敷も怖いんだけど、俺の兄の存在が消えてる事も怖いんだよな。」
「アヤトにお兄さんいたっけ?」
「あの屋敷の件があって引っ越した後から居ないんだよ、両親に兄の事を聞いても”一人っ子だよお兄さんはいない”って言うんだ。」
「写真は残ってないの?洋服とかさ。」
「なんにもない、綺麗に無くなってる・・・兄がいた記憶しかないんだよ。」
「屋敷の話も怖いけど、アヤトの家族の話も怖いね。」
「俺って一人っ子なのかな・・・・」
作者群青
この話に出てくる屋敷の事は知っていました。怖い人がいるから近づくな、と言われていましたし。
今もまだ屋敷は残っていると思います。
お気軽にコメントして頂けたらとても嬉しいです。
宜しくお願い致します。