僕は、某ネコ型ロボットの話の主人公と同い年だ。
そして、その主人公のメガネ君ほどではないけれど、勉強ができない。
頑張ってはいるんだ。宿題はちゃんとやってる。授業中は積極的に手を挙げる。でも、テストの点数がイマイチなんだ。なので、成績表も、オール真ん中。例のメガネ君は、サボってるから当然の結果かなって思うけれど、僕って救いようがない。
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今日も、パッとしないテストの答案が潜むランドセルを背負い、帰宅する。
「ただいまー」
「おかえりなさい、手洗いうがいして」
僕が家に入ると、お母さんが玄関で出迎えた。
「テストの点数悪いけど、怒らないでね」
靴を脱ぎながら、先に報告しておく。そんな僕をみて、お母さんはキョトンとしている。
「お母さん、テストの点数で怒ったことないでしょう?」
言われてみれば、そうなのだ。メガネ君のママは、いつも頭に角まで生やして息子を叱り飛ばすけど、僕のお母さんはそんなふうにはならない。
「じゃあ、おやつ食べたら、テストの間違えたところ、一緒に確認しよう」
そう言うと、お母さんは、おやつの準備のため、キッチンへ向かった。
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プリンと牛乳でお腹が満たされた僕は、思わずため息をついた。
「どうして僕は、良い点が取れないのかなぁ」
すると、テーブルの向かい側に座りカフェオレを飲んでいたお母さんは、僕と同じくらい深いため息をついた。そして、こう言ったんだ。
「それは、もしかしたら、お母さんのせいかも知れないわね」
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以下は、お母さんの話した内容だ。
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あなたは、発達の早い子どもだった。生まれてすぐに首がすわり、3ヶ月で寝返りをして、5ヶ月でハイハイ、9ヶ月で歩き始めた。
2歳になる頃には普通にお話が出来ていた。そうね、その子によるけど、2歳は2語文と言って、2つの単語を繋げて話す位なんだけど、あなたは普通に会話が出来ていたの。
ただね、そんなあなたが、2歳の誕生日を過ぎた頃から、時々、何かにおびえるようになった。例えば、部屋の片隅を見て、
「知らない女の人がいるから、この部屋に入りたくない」
と言ったり。スーパーの駐車場の奥の方を見て、
「頭がグチャグチャのおじさんがこっちに来る」
とかね。
最初は、子どもの言うことだからと思っていたんだけど、続くと心配になってきて…。ある日、拝み様の所へ、あなたを連れて相談に行ったの。拝み様、というのは、亡くなった人の声を聞ける人。この辺りに住んでいる人たちは、家族が亡くなると、必ず拝み様の所へ行く。それ以外にも、科学的には説明のつかないような事の相談は、拝み様と決まっていた。
拝み様は、こうおっしゃった。
「この子は、勘の良すぎる子どもだね。だから、見えてしまう。見えないようにした方が良いね」
そして、お経のようなものを唱えて下さった。
「大丈夫、もうこの子は見えないよ」
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「え、それで?」
「…だから、勘が鈍くなっちゃったのかな…?結果が出るまで、けっこう努力が必要になっちゃった?」
「えーっ‼︎」
落ち込む僕に、お母さんが聞いてくる。
「じゃあさ、幽霊見えるのと、どっちが良いの?あなたは、この先、絶対に見えないという保証があるのよ。夜のトイレも、ひとりで寝るのも怖くないよね」
「…幽霊は、見えなくていい…」
しぶしぶ答える僕に、お母さんはフォローのつもりかこう言った。
「大丈夫、もともとは出来る子なんだから。出来るようになるまで、多少時間はかかるかも知れないけれど。努力は人を裏切らないのよ」
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ちなみに、拝み様は、僕が小学校に入る前に、亡くなったそうである。もう、勘の良い自分には戻れないようだ。そんなわけで、今日も僕は頑張る。できることならば、いい大学に入りたいし、そうすることで将来やれる仕事の幅が広がるんだって先生が言っていたから。
こんな僕を認めてくれて、点数にこだわらず応援してくれるお母さんに心の中で感謝しつつ、僕は、今僕がするべき事にがむしゃらになる。
作者ゆきの
そんな甥っ子の話ですm(_ _)m