G県のある市に住む、小学生Y君の話
夏休みが終わり、新学期が始まったある日の事
学校から帰宅途中のY君はちょっとした冒険心からいつもと違う道を帰る事にした
残暑が厳しくジリジリと照りつけてくる日差しの中、Y君はあぜ道を歩いていた
見渡す限り田んぼや畑しか見当たらなかった
(つまんない道きちゃったなぁ)
Y君がそう思った時、突然、
「おーい、坊主」
と声をかけられた
Y君がえっと思って振り向くと、そこには一件の古びた二階建ての民家があり、玄関には一人のおじいさんが立っていた
(さっきまでこんな家あったっけ)と思うY君におじいさんは更に続けた
「そこは雷神さまの通り道だ。危ないからこっちへおいで」
Y君は不思議と恐怖心はなく、おじいさんの家にあがらせてもらった
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Y君は冷たい麦茶のご馳走になりながら、おじいさんがさっき言った『雷神さまの通り道』について訪ねてみた
真っ白な髭を蓄えたおじいさんは外を見ながらこう答えた
「昔からここは雷さまが通ってな。避雷針になる物がなくてよく人に当たったもんだ...」
おじいさんはどこか遠くを見つめているようだった
しかしY君は雲一つない空を見て首を傾げるばかりだった
それからY君は学校の事、家庭の事、飼っている犬の事などをおじいさんに話をした
おじいさんはニコニコと微笑みながら、うんうんと相槌を打っていた
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その時、突然おじいさんが言った
「ほれ、雷神さまのお通りだ」
その言葉にY君は咄嗟に外を見た
いつの間にか空は真っ暗く、風がごうごうと吹いていた
Y君は驚いたまま、外を見つめていた
(さっきまであんなに晴れてたのに...!)
そして一閃の雷が落ちるとともに激しい雨が振り出した
「だから危ないと言っただろう」
おじいさんが微笑みながらそう言った
やがて雨はあがり、雲も途切れ途切れになってきた
「そろそろ家におかえり。来た道を真っ直ぐ戻り、いつも通りの道で帰るんだぞ」
Y君はおじいさんに言われた通り、来た道を戻りいつも通りの道で帰宅した
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帰宅したY君は先ほど起こった事を母親に話した
すると母親は首を傾げて言った
「こっちは雨なんて振らなかったけど.....。でもお世話になったんなら、あとでお礼に行かなきゃね」
後日、Y君と母親がおじいさんの家を探したが、家どころか家に通じる道すら見つからなかったという
作者西園寺 紅音