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中編5
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決意

俺の名は平塚雅人、学生だ。

飼って10年程になる犬を連れて散歩中だ。

夜中の9時に。

なんでも親は「お前が飼っている犬なのだからたまには散歩に行け!」

とは言え部活帰りの身ではきつい。

かなりきつい。

まぁ犬には罪は無い。散歩行くか。

余談だが俺の犬は可愛いというより勇ましい。

かなり強く引っ張る。

引っ張り返したってめげない。

抵抗する限り永遠と引っ張る。

最近はもう諦めた(引っ張るのは疲れるだけだし。)

星がよく見える日だ。

近頃は中国のピーエムなんちゃらとかでほとんど見えないのに。

そしてまた満月でもあった。

無意識に呟いた。「なんかいい日だな。」

思わず空を仰いだ。

なんだか星が近く見えるな。

そこで俺は違和感に気がついた。

あれ、なんでこんなにも視界がぼやけているのだろう。

住宅街の中の公園で意識が遠退いていった...

しかし不思議と恐怖は無い。

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気がつくと白い小さな部屋の中に立っていた。

目の前に卒業式で座った様なよく見るパイプ椅子がある。

白い長机の奥に30歳ほどの男性がこのパイプ椅子に座っていた。

なんとなく分かっているが聞いてみる。

「ここはどこでしょうか?」

「あ、そんなに気を使わなくてもいいよ。ここは『謁見の間』とは名ばかりの安っぽい面接室だ。」

彼は笑いながら言う。

やはりそうか。

「だからこの部屋にドアがないのですね。」

「そこまで目が行くとは。君、普通この状況でそこまで冷静になれないよ。もしかしたら大出世できたかもしれない。まあもう意味無いか。その椅子に座りなよ。」

椅子に座ってから言った。

「俺に何を求めているんですか?謁見なんて..」

「ん?まぁ慌てず話しを聞いてくれないか。」

そこでこほん、とわざとらしい咳払いを一つ。

「この世界は人間が繁栄し過ぎだと思わないか?

人間だって生き物なのに娯楽のためだけに他の生き物を殺す。環境を汚染し、肌の色程度で簡単に同族を殺すんだよ。チーターは分かる。食わなきゃ死ぬから仕方ない。しかし人間はどうだ?」

「俺は他の生き物は殺していないし、人種差別もしない。」

「君ね、そういう無関心さが戦争を拡大させるんだ。大体ね、先進国の人間がみんな募金で1000円ほど出せば貧困による戦争などはだいぶ無くなると思わないか?たった1000円で皆は平和だ。しかし誰も不思議とそんな事をしようとしない。心の奥底ではそんな奴らなどどうでも良いと思っているだろう?」

「しかしもし俺が募金で1000円出したところで皆は1000円を出す訳無いさ。ほとんど無意味だ。」

だんだんイライラしてきた。

何が言いたいんだこいつは。用件を言えよ。

「ああそうだ、俺は心が見えてしまうから気を付けたほうがいい。まぁその程度じゃ怒らないが。」

神様はつまらなそうに言う。

俺はどきりとした。

考える事にも気を付けなけばいけない。

「それが賢明だ。話しを続けよう。」

ゴホン、とわざとらしい咳払い。

「無意味と言ったがそういう考えだと選挙率も上がらない...じゃ無かった。えーとつまりだ。人間達は本当に具体的な環境対策とかしないから我々の間で具体的な対策を考えた。具体的には人間達を意図的な事故、病気などで人口を減らし環境の負担も減らそうというものだな。」

嫌な汗が流れる。

「その通りだ。君は選ばれし者だな。」

ダンと机を叩く。

「そんなのあまりに酷いじゃないですか!大体戦争とかだって...」

神様はため息をつく。

「あのね、別に僕達は人間のために仕事してるんじゃなくて生き物全体のため仕事してるの!」

ふう〜と息をゆっくり吐き言った。

「で、僕が欲しいのはこの計画に対する君の意見だ。君はどう思う?ちなみに返事次第では地獄行きになるかもよ。」

『地獄』と言う言葉にビクンと肩を震わせる。

そうだった。ここは謁見の間だ。

「よく考えること。」

その言葉を合図に沈黙がその場を支配した。

shake

何分経ったのだろう。

10分にも30分にも感じる。

まぁここには時間というものは無いか。

ふざけている様な男だと感じたが、ずっと真面目な顔で座っていた。

根は真面目なのだろう。

口を開こうとする。

「君が気に入った!」いきなり男は叫ぶ。

「え?」

「今まで僕を高評価してくれる人は居なかった。君は正当な評価を心からしてくれる。」

何か気勢を削がれてしまいゲンナリする。

「ゴホン、ゴホン悪かった。」

わざわざ口でゴホン、ゴホンと言わなくてもいいのだが。よっぽど混乱しているのか。

少し哀れに感じつつ口を開く。

「俺はやっぱりこのやり方は反対です。」

神様は悲しそうな顔になる。

「俺は君が気に入っている。地獄行きにしたく無いぞ。頼むから良い理由を話してくれ。」

「ぶっ飛んだ考えなんですけど、サハラ砂漠に太陽光パネルを置いて全世界のエネルギーをまかなうというのはどうでしょう?」

神様と謁見すること自体ぶっ飛んでいるため多少の無理は必要だろう。

神様は一瞬ポカンとして言う。

「そ、それは凄い考えだ!しかし食糧問題などはどうする?」

「今の世の中では食糧などは募金で供給できると思います。太陽光パネルの電気代の一部で食料支援活動をするという事は?先進国の人間は嫌でも1000円ずつぐらいは絶対払う事になります。」

「今言った事は君ができるか?私からも協力しよう。」

「え、でも俺は死んだはずじゃ無いのですか?」

「そんな事は気にすんな。他の神様から怒られそうだが...大丈夫だ。俺に任せろ!」

その言葉と共に俺の体は光に包まれた。

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白い天井が見える。

「ここは?」

「目を覚ましたぞ!」

「雅人!」

両親が、友達が皆喜び泣いていた。

母は言う。「あんた、くも膜下出血でほとんど助かる見込みがないと医者に言われてたんよ。」

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あの時の事を後日聞いた。夜に犬が物凄い勢いで鳴いているのを聞いた近隣住人が怪しんで様子を見に行くと俺が倒れていたそうだ。

その住人はオロオロしていた犬に襲われそうになったらしい。(何事も無かったと聞いて正直ホッとした。後味が悪くなるし)

後日神様からレターパックが来た。

手紙には環境負担減少のための人口減少計画は嘘だった。試験のためにやった事だと。

普通はあの反応で人柄を判断し地獄か天国か決めるらしい。

他には他の神様にこっぴどく怒られた。

『職権濫用するな』と言われたなど以下愚痴。

神様に職権濫用なんてあるのか?

思わず笑ってしまった。

文末には何か伝えたい事があればこの住所に送れと住所が書いてある。(レターパック以外禁止らしい。)

多分書いてある住所に行ったって空き地なのだろう。

無意識に呟く。

「サハラ砂漠に太陽光パネルをつけれとは神様の命令という事になる。無理かもしれないがやってやるか。」

俺は黙って青空を見上げた。

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