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長編9
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くらやみ様

僕はその……、まあ、ダメな奴です。

顔も頭も悪いし、性格も暗いし。友達少ないし。

正直、中学に入れば何か変わるかなーとか、期待してたところもありました。

でもね、地元の公立中学に進めば、周りの半数は同じ小学校出身の連中なわけで……。

立場なんて変わりませんよね、やっぱり。

いや……、まあ、そんなのわかってました。

でもね。

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こんな僕にも、好きな人ができたんです。

同じクラスの、川野麻衣さん。

かわいくて、頭が良くて明るくて。友達も多いです。

正直、クラスの男子の半数が彼女に好意を持ってます。

クラスの女子にも馬鹿にされてる僕に、分け隔てなく接してくれます。

素敵な人なんです。

でもね。

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僕なんかじゃ、当然彼女に釣り合うわけありません。

わかりますよ、さすがに。

僕みたいな男に好きになられても、彼女も迷惑だってことくらい。

そうですよ、気持ち悪いですよどうせ。

こんな……、こんな根暗な僕に、その、好きとか言われても!

でも、好きになっちゃったんですよ!

しょうがないじゃないか!

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……あ、すいません。ちょっと興奮しちゃって。

で……、ですね。

現実じゃ告白なんて無理なんで、その……、夢の中だけでもと思いまして。

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「くらやみ様」って知ってます……?

そうです、オマジナイ。

好きな子が出てくる夢が見られるってやつです、はい。

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ネットでやり方覚えて。

大変だったのは川野さんの髪の毛を手に入れるところくらいですかね。

僕の髪の毛と彼女の髪の毛を結んで、

糸の代わりに針に通して、

黒い紙を刺し貫いて、

そのまま枕に突き刺して。

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――くらやみ様、くらやみ様、

――満たしてください、満たしてください、

――捧げます、捧げます、

――くらやみ様、くらやみ様、

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――満たして、満たして、満たして、ミタシテ、満たして、満たして、満たして、満たして、

――捧げます、捧げます、捧げます、捧げます、捧げます、ササゲマス、捧げます、捧げます、

――くらやみ様、くらやみ様、くらやみ様、くらやみ様、くらやみ様、クラヤミサマ、くらやみ様、

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……

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……

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……

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気づくと、僕は真っ白な部屋の中にいました。

壁も、床も、天井も、一面真っ白です。

それほど広くはありません。

目の前に、ドアがありました。

そこだけ、白い部屋の中で浮いてます。

木製のドアです。

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気になって、ドアを開けてみました。

ドアの向こうも真っ白な部屋でした。

壁も、床も、天井も、一面真っ白です。

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その部屋に、女の子がひとり立っていました。

僕に背を向けています。

でも、すぐに分かりました。

川野麻衣さんです。

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彼女は僕の方を振り返りもせず、ただ黙って前を向いています。

彼女の視線の先、部屋の壁にはドアがありました。

木製のドアです。

閉じたドアの、その四方から。

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黒いモヤモヤしたものが溢れてきていました。

それはガスのように、霧のように、

ドアと壁の、見えないほどの隙間から、

ゆらゆら、モヤモヤと溢れてきているのです。

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彼女は、背後の僕に気づけないほど、その黒いモヤモヤに心を奪われていました。

彼女は、それを恐れていました。

とても恐ろしいのに、いえ、とても恐ろしいから、足がすくんでその場から動けないでいるのです。

彼女の足がガクガクと震えています。

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僕は彼女の部屋に入り、急いで彼女の手を引きました。

そして、驚く彼女を無理やり引きずり、僕のいた部屋へ連れてきました。

慌ててドアを閉めます。

彼女は状況が分からず、呆然としていました。

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でも、落ち着くにつれ、僕が彼女をあのモヤモヤから助け出したのだ、と理解したようでした。

彼女は僕に感謝しました。

ありがとう、と。

本当に怖かったの、と。

僕の手をとって、自分の手で包んで、頬を寄せてそんなことを口にします。

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僕はまったく嬉しくなって、それでも少し格好をつけて、

大丈夫だよ、とか言いました。

僕は誇らしくなりました。

好きな女の子に頼られ、認められることが、これほどの快感なのだということを生まれて初めて知りました。

満足感と恍惚感で、僕の視界は真っ白に染まっていきました。

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………

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………

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………

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気づくと、自分の部屋のベッドの中にいました。

頭を乗せていた枕には、昨夜のオマジナイの針が刺さったままになっていました。

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いい夢を見られました。

オマジナイの効果でしょうか。

これで今日一日、憂鬱な学校生活にも耐えられる気がします。

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……

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……

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登校し教室に入ると、皆が僕のことをちらりと見て、またそれぞれの友人との会話に戻ります。

教室ではいつもこんな感じです。

用もないのに僕に話しかけてくる奴なんていません。

僕は自分の席に着くと、川野さんの席を見ました。

彼女はまだ来ていないようです。

毎日早めに登校する彼女にしては珍しいな、と思いました。

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結局、ホームルームが始まっても彼女は来ませんでした。

先生が、今日は川野さんは病欠です、と皆に伝えました。

学校で彼女の顔を見られないのは残念でしたが、夜になればまた彼女が出てくる夢を見られるのだからいいか、と思い直しました。

どうせ現実では、顔は見れても話しかけることなどできないのですから。

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……

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……

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夜になり、僕は昨夜と同じように、枕に針を刺したまま、オマジナイの言葉を唱えながら目をつぶりました。

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――くらやみ様、くらやみ様、

――満たしてください、満たしてください、

――捧げます、捧げます、

――くらやみ様、くらやみ様、

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……

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……

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……

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目を開けると、真っ白な部屋の中にいました。

壁も、床も、天井も、一面真っ白な、壁に木製のドアだけがある、あの部屋です。

ドアの前には、川野さんがいました。

目を泣き腫らしています。

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聞けば、突然僕の姿が消えたのだ、というのです。

そして、長い時間、彼女は一人でこの白い部屋にいた、というのです。

木製のドアの向こうには黒いモヤモヤが溢れてきているはずで、怖くて覗けなかった、というのです。

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これは夢だという認識がありました。

そして、昨日の夢の続きのようになっていることに、不思議な感じを覚えました。

しかしその疑問も、淋しかった怖かったと僕の手を握る彼女の姿に、すぐにどうでもよくなってしまいました。

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僕は彼女と色々な話をしました。

趣味の話、ペットの話、部活の話、テレビの話。

それまでの淋しさを紛らわすように、彼女はよくしゃべりました。

僕も、どうせ夢だという認識から、気負いなく、普段よりも元気に話すことができました。

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僕が勝手に見ている夢ではあるのですが、どんどん彼女のことを理解していくことができているような気がして、とても満足でした。

彼女も僕のことを、話してみるととても面白い人ね、と言ってくれました。

満足感と恍惚感で、僕の視界は真っ白に染まっていきました。

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……

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……

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……

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翌日も、彼女は学校を休みました。

その翌日も、翌々日も。

聞けば、彼女は病気で入院をしているというのです。

噂では、ずっと目を覚まさないのだというのです。

それで僕は分かりました。

彼女の中身は今、僕の夢の中に閉じ込められているのだと。

あのオマジナイは、好きな子の夢を見る、というものではなく、

夢と夢とをつなげるものだったのだと。

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それに気づいて、僕は興奮しました。

状況だけ見れば、僕は彼女を監禁しているようなものです。

現実でそんなことをすれば犯罪ですが、夢の中のことなので罪にも問われません。

彼女はただ、病気で目が覚めないだけ。

オマジナイのせいだなんて、誰も気が付きません。

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僕は、夢の中の彼女に、あえてオマジナイのことは伏せていました。

そして、現実の彼女がどういう状況であるのかも。

夢の中の彼女はひとり、あの白い部屋の中にいます。

僕以外に話し相手はいません。

僕が目覚めている間は、彼女は完全にひとりぼっちです。

彼女の僕に対する依存度は、どんどん上がっていきました。

今ではすっかり、僕に頼りきりになっていました。

夢の中で、僕は彼女を手に入れたのです。

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………

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………

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………

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そんな状況がひと月ほど続いたある日のこと。

夢の中に異変が起きました。

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真っ白な部屋の、ひとつだけある木製の扉から、あの黒いモヤモヤが溢れてきたのです。

おそらく、最初の夜に彼女の部屋の扉から漏れ出していたそれは、いまや隣の部屋を覆い尽くし、こちらまで押し寄せてきたのでしょう。

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彼女はその黒いモヤモヤをとても恐れました。

そして、僕に寄り添い助けを求めました。

しかし僕にはどうしてよいかわかりません。

僕の部屋にはそのドアひとつしかないのですから、どこかに逃げることも隠れることもできません。

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僕は焦りました。

あれは、あの黒いモヤモヤは、おそらく「くらやみ様」です。

彼女があれほど恐れるものです。

なにかとても良くないものなのはわかります。

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あれがこの部屋に入ってきたら。

この部屋を満たしてしまったら。

僕らは一体どうなってしまうのでしょう。

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焦る僕の耳に、声が聞こえてきました。

低い低い、つぶやくような声です。

声はドアの向こうから聞こえます。

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――川野麻衣……

――川野麻衣……

――かわのまい……

――カワノマイ……

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その声は彼女を呼んでいました。

僕の隣で震える、彼女のことを。

くらやみ様は彼女を求めているのでしょうか。

くらやみ様に捕まったら、一体どうなってしまうのでしょうか。

彼女と一緒にいる僕は、どうなってしまうのでしょうか。

僕らは一体どうすればいいのでしょうか。

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彼女が僕の手を強く握ります。

僕は、そんな彼女の手を握り返し、その手を引いてドアの前まで歩いて行きます。

確かめたいことがある、と言って。

震える彼女を無理やり引きずって行きました。

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ドアの前まで来ると、扉の向こうにくらやみ様の存在感をより強く感じました。

僕は思い切ってドアを開けました。

ドアの向こうは闇一色でした。

そして、モヤモヤ、モヤモヤとこちらの部屋に闇が溢れてきます。

彼女の名前を呼びながら。

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彼女は僕の顔を見ました。

僕は彼女ににこりと微笑みかけ、

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その身体を無理やり隣の部屋に押し込みました。

彼女は驚いた顔をし、悲鳴を上げ、それから抵抗しようとしましたが、あっという間に闇が彼女の手足と身体に巻き付き、闇の本体に彼女を引きずり込みました。

彼女の身体が見えなくなった瞬間、悲鳴は聞こえなくなりました。

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僕はドアを閉めました。

二度と開けたくないと思いました。

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………

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………

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………

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目が覚めると、僕はひどく寝汗をかいていました。

最悪の気分です。

枕に刺さっていた針は、すぐにゴミ箱に捨てました。

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僕は彼女をくらやみ様に捧げてしまいました。

あれだけ僕のことを信じて頼ってくれた彼女を裏切って。

僕のしたことを、他に人間は誰も知ることはできません。

あれは夢の中の出来事なのですから。

罪に問われることもありません。

夢の中の出来事なのですから。

ただ、彼女がどうなってしまったかが気がかりでした。

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………

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………

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重い気分のまま、遅刻すれすれの時間に学校に着きました。

教室のドアを開けると、ひとつの机に人だかりができていました。

皆が集まっているその席は、川野麻衣さんの席でした。

肩を震わせ、泣いている女子もいます。

彼女はもう――、

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学校に来ていました。

クラスメイトたちは彼女の周りに集まり、笑いながら彼女に話しかけています。

感激屋の女子が、彼女の退院を喜んで嬉し泣きをしていました。

誰かが彼女の身体を気遣うと、もう平気と、笑って彼女は応えました。

すっかり以前の彼女でした。

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ホームルームが始まり、先生が彼女の復帰を喜ぶと、教室はわっとにぎやかになりました。

そんな中、僕だけは自分の席でじっと下を向いていました。

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彼女は、夢の中のことを覚えているのでしょうか。

覚えているとしたら、僕のしたことを恨んでいるでしょうか。

くらやみ様に包まれた彼女は、その後どうなったのでしょうか。

疑問と不安が、頭をぐるぐると巡りました。

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でも、不意にこんな考えも湧きました。

現に彼女は目覚めて、こうして学校に来られているのです。

あの行動は、結果としては良かったのです。

それに、例え彼女が夢の中のことを覚えていたとしても、僕が同じ夢を見ていたと認めなければ、それは彼女ひとりが勝手に見た悪夢ということにならないでしょうか。

その夢に、たまたま僕が悪役で出てきただけということになるのではないでしょうか。

そう思うと、少し心が軽くなりました。

そうです。

平気なのです。

所詮は夢の中のことなのですから。

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僕は顔を上げて、窓際の席に座る彼女の方を眺めました。

まぶしい日差しが彼女のきれいな顔を照らしています。

彼女の方も、ちょうど僕の方を向いたようです。

目が合いました。

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その目は、真っ黒でした。

白目の部分も含めて、全部真っ黒。

ニコリと開いた、その口の中も。

真っ黒。

真っ暗。

くらやみ様。

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ああ、そうか。

僕はやはり、許されないことをしたのです。

Concrete
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貫一さんの書かれるお話、でる度でる度面白くなっていきますね**素晴らしいです(´▽`)ノ

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