小学4年生の時の話です。
私は当時仲のよかった友達AとYとTと4人でよく遊んでいました。
みんな今まではクラスがバラバラでしたが、4年生になってからは、私とAは同じクラス、YとTはそれぞれ別のクラスでした。
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毎日、飽きもせず縄跳びをするか、かくれんぼをして遊んでいたたのを覚えています。
たまに喧嘩する事はありましたが、このメンバーじゃないとどうも落ち着かないので、誰も他の子は加えず外さず必ず4人でした。
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ある日、学校から4人で下校していると、いつもおしゃべりのAの口数が珍しく少ない気がして、私は具合でも悪いのかと尋ねました。
するとAは、そんなわけないじゃんと笑って見せましたが明らかにいつもとは違います。
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Tも気にしていたらしく、なに?どうしたの?とさらにAに聞いてみると、実は……とポツリポツリと話し始めました。
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話を聞いてみると、最近家のリビングに置いてあるパソコンが勝手に夜中動いているそうです。
自分がさわってるわけじゃないのに、お母さんにも夜中にパソコンするなと怒られると真剣に悩んでいました。
怖い話が苦手なYとTは、やめてよー!と私とAから大袈裟に距離をとりました。
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当時パソコンを持っていなかったのでイメージがわかなかった私は、特に怖い事とはとらえず、大丈夫だよ気のせい気のせい!と軽くあしらってしまいました。
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Aは、気のせいじゃないんだけどなぁ……と首をずっとかしげていましたが、そのうち元気になり、いつもの学校近くの大きな公園でかくれんぼをして、私達は帰宅しました。
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次の日、学校へ行くと昨日よりも暗い顔でAが座っていました。
私がAの肩を叩き、おはよう!と声をかけると、Aは今にも泣き出しそうな声で、
ランドセルを落とすの……あたしの……どうしよう。
と呟いています。
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どうしたの?と聞くと、幽霊が恐いので、ネットで対処法を調べてパソコンのまわりに塩を盛ったらしいのですが、今度はパソコンではなく、Aの部屋の机に置いていたランドセルがグチャグチャに荒らされ、ランドセルが机の下に落ちていたそうです。
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全部話終えるとAはポロポロと泣きはじめました。
私はさすがにAが心配になり、お母さんに話したの?と聞くとまだ話してないというので、帰りにAの家に行き、Aのお母さんに話すことにしました。
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下校時間。YとTにも事情を話し、4人でAの家に向かいました。
Aの家は比較的学校から近く、よく4人で集まらせてもらっていました。
おじゃまします。
家にあがると、空気がいつもとは違い、Aの家がとても冷たく感じました。
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靴を並べていると、Aのお母さんがエプロンで手を拭きながらでてきました。
あら、いらっしゃい!
私達は皆で顔を見合わせ、Aが悩んでいる事を打ち明けました。
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Aのお母さんはしばらくの間、幽霊なんて……と、怪訝そうな顔をしていましたが、Aの本気で怯えている表情を見て、
わかった。対策を考えてみるわね。とAの頭を撫でました。
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せっかくだから夕飯みんな食べてってね、とAのお母さんはハンバーグを作ってくれました。
Aのお母さんのハンバーグはとっても柔らかく、皆大好きです。
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Aも話したことで安心したのか美味しそうに夕飯を食べています。
A以外の私達3人は先に食べ終え、日も暮れてきたので帰ることにしました。
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私は、玄関へ向かう途中にふと、その問題のパソコンが気になり、リビングを見渡すと窓際にポツリと1台パソコンが置いてありました。
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あれがそうなの?とAに尋ねるとAは神妙な面持ちでコクリと頷きました。
このキーボードがね、カタカタ鳴るの……Aがパソコンに近づきキーボードに触れたその時、
突然Aが悲鳴をあげました。
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どうしたの?!
Aのお母さんが駆けつけると、Aは両手で顔を覆ってしゃがんでいます。
塩が……塩が……!
そう言いながらAが指さした先を見ると、そこには黒ずんだ粉とドロドロの液体がありました。
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なに……これ。Aのお母さんも言葉を失っていました。
YとTは耳を塞いで怯えています。
……まさか!Aは何か思い出したように家中を走り回り、ここも!ここもだ!と叫びました。
どうやらAは家中のいたるところに盛塩をしたらしく、その全てが黒い粉と液体に変わっていました。
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Aのお母さんは、明日早急に神社に相談してみるとの事で、とりあえず私達3人はAの家を出ました。
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次の日、Aは元気に登校してきました。昨日あんな事があったけど、Aのお母さんがなんとかしてくれるって言ってたし、よかった。
そう思い、私は胸を撫で下ろしましたが、言いようのない違和感があったのを覚えています。
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下校の時間になり、YとTと合流して4人で帰っていると、いつもの公園でかくれんぼをしようという話になり、私達は公園に向かいました。
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じゃんけんでAが鬼になり、私達は思い思いの場所に隠れました。
私は滑り台に寝そべって隠れていました。
遠くの方でAの、もういいかい。という声が聞こえました。
私はなぜだか凄くソワソワしていました。
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じっと待っていると、足音でAがゆっくり歩いてくるのがわかります。
どこー?
Aが叫んでいる声が近い。いまどの辺にいるんだろう?と寝そべっていた身体を起こしたその時、
みーつけた。
と、私の目の前に、映像を早送りしているかのように頭を上下左右に高速で振り乱しながら立っているAがいました。
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一瞬見える口元には白い歯が覗いており、どうやら笑っているようです。
いけない。Aに捕まってはいけない。とっさに判断した私はYとTの名前を叫びながら一目散に走りました。
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YとTは遠くからAの様子を見ていたらしく、すぐに変だと察知して私に追いつきました。私達はAの事を家の人に知らせなければと思い、そのままAの家まで走りました。
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Aの家のインターホンを押すと、ハーイというAのお母さんの声が聞こえました。私達は、Aが!大変なの!おばさん!とインターホンごしに叫びました。
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それでも一向に誰も出てくる気配がありません。
Yは今にも泣き出しそうです。
私達はもう1度インターホンを押しました。
ハーイ。また声が返ってきました。
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おばさん!早くきてよ!
そう言うと、インターホンから
ガーーッというノイズが流れはじめました。
私達はビックリして仰け反った拍子に転んでしまい、ついにYは泣き出してしまいました。
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もう帰ろう……もう帰ろうよ……。泣きながらYは訴えてきますが、Aをこのままにしておくわけにはいかないので、もう1度インターホンを押そうと立ち上がったその時、
二階の窓の磨りガラスごしにピッタリと張り付いて、家の中から誰かがこちらを見ていました。
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磨りガラスなのでハッキリは見えませんでしたが、その背格好、服の感じから恐らくAのお母さんでした。顔までピッタリと窓に張り付いており、その様子から、ニッコリ笑っているようでした。
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YとTは悲鳴をあげながら走って逃げました。私は、なんとかAを助けて欲しいという思いで、もう1度ノイズが流れているインターホンを押しました。
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しかし、また
ハーイ
という声しか返ってきませんでした。
どうしよう……焦りながらまた二階の窓を見た私は、悲鳴をあげながら走って逃げました。
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二階の磨りガラスには、たくさんの顔が窓をうめるようにピッタリと張り付いており、どれもこれもニッコリと微笑んでいるようでした。
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家に帰ってからAの事を親に話すと、からかわれてるんだろと相手にしてくれず、私は不安なまま次の日を迎えました。
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次の日、Aは学校に来ませんでした。そしてその数時間後、霊体験をした友人宅に対処法を聞きに行く途中だったAのお母さんが、早朝に交通事故で亡くなった事を知りました。
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また、Aは山で倒れているところを発見され、現在入院しているそうで、退院したらお父さんの実家がある県外に引っ越すそうです。
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盛塩で四方向を囲ってしまうと、霊の逃げ道が無くなるためその場所に停滞すると聞いたことがあります。
Aの家も、その状態に陥っていたのでしょうか。
私は、あれからAには会っていませんが、公園でみた頭が上下左右に高速で動いていたAの様子が未だに頭から離れません。
作者杏奈-3