お初にお目にかかります、僕の名前はマルと申します。
子供の頃からオカルト好きで、怪談噺を収集してきました。
高校時代なんて、怪談同好会なんて怪しい部活動もしてたんですよ。
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…あ、だからと言って僕自身に霊感があるわけでは御座いません。
所謂[霊感さん]なのは、僕の同居人です。
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彼を仮にシンと致します。
幼い頃からやたらとアチラに引っ張られるので、お寺さんに籠ったり神社詣に精を出したり…なかなかハードな日々を送ってきました。
シンの面白い所は、霊の存在を感じた時…え~と…女性には大変失礼なお話なんですが……
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……勃っちゃうんです…いや、マジで。
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なんでそんな因果でお下品な体質になってしまったのか?
本日はそのお話を語らせて頂きます。
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シンの育った家は田舎では名の知れた所謂旧家で、屋敷森に囲まれた木造平屋造り。
屋敷の奥には[回]の形をした文字通りの回廊がありまして、その真ん中の箱庭には古い井戸があったそうです。
井戸は注連縄が張られていて、四方を朽ち掛けた鳥居で囲まれていたと云います。
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鳥居には
南鳥居 ウツセバシ
北鳥居 モウデバシ
東鳥居 トコヨバシ
西鳥居 オゴザバシ
と、ちゃんと呼び名があったそうです。
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井戸には男と子供は決して近付いてはいけないと、きつく定められていたそうで、普段は家の女達によって、掃き清められていたと云います。
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シンが13歳の夏。
日照り年だったその夏、何十年か振りに『雨乞い』の神事を行うとお達しがあり、シンは同年代の従兄弟達と共に、大婆(真の曾祖母)の待つ大広間に呼ばれたそうです。
大婆は集められた子供達を前に、『雨乞い神事』は回廊の井戸で行う事、シン達はこの神事に参加しなくてはならない事を告げると、『雨乞い』と『井戸』の由来について語って聞かせたと云います。
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曰く……
井戸には、水の女神様が住んでいる。
水の女神は汚れなき、美しい乙女故に、不浄を極端に嫌っている。
その為、逆に井戸で[不浄な行為]を行う事で、女神を怒らせて雨を降らして貰う。
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この神事を執り行うのは、性に目覚めたばかりで、まだ女を知らない少年が4人。
介添人として、年長の女の肌を知った青年4人が顔に白い布を掛けて参加する。
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神事の流れは、以下の通り。
1.参加者全員が白装束に着替えて、神主による御祓が行われる。
2.鳥居[モウデ橋]を潜って箱庭に入り、井戸の四方を囲む様に立つ。
この時、少年達が井戸の前に、青年達は少年の後ろに並び、祝詞を言上する。
3.少年達が井戸の上から、下半身を剥き出しにして卑猥な言葉で囃し立てる。
4.少年達が自慰をして、井戸の中に種子を放つ。
5.青年達が祝詞を上げ、少年達を連れて鳥居[ウツセ橋]から家屋に戻る。
1~5は、雨が降るまで何度でも行われる。
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雨が降ったら家の女性達によって、清めの儀式を行い、御神酒と野菜の供物が捧げられる。
清めの儀式は7日間。
この間、大任を果たした少年等が解放されるかというと、そうではない。
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実は怒り狂って雨を降らせた女神、清めの儀式によって徐々に、落ち着きを取り戻してくるのだが、今度は少年達が欲しくなってくるという。
そうなった女神は、夜な夜な鳥居[ウツセ橋]から出てきては、少年達を拐かし、井戸に引き込もうとする。
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女神に手を引かれ、鳥居[トコヨ橋]を潜ってしまうと、もう戻れないので、少年達は共に井戸に行った介添えの青年に、特別な腕の組み方で対象者を護る『身固め』をして貰って眠る。
無事に7日を過ぎるまで、毎晩『身固め』は行われる。
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以上が、神事の全てです。
本当は、もう少し細かい決まり事があるそうですが、省略致しました。
シンはこの儀式に、汚し役の少年として選ばれたそうです。
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儀式当日……。
早朝に起こされたシンと従兄弟達は、禊を行いお祓いを受けた後、件の井戸へと向かったと云います。
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初めて間近で見る井戸は、別段不気味に思う事もなく、“古いなぁ…”くらいの感想しか浮かばなかったと云います。
それよりも、今にも朽ちて倒れてきそうな[ウツセ橋]の方がよっぽど怖かったと、シンは語りました。
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さて……青年達が祝詞を読み上げ、いよいよシン達の儀式が始まります。
囃し立ても滞りなく終わり、いざ仕上げの段に進み……
……まぁ、これは流石に大変だった様ですが、何とか事を成すに至ったそうです。
(余談ですが通例儀式として、やり方のレクチャーも前もってあるそうです。)
無事、井戸の中に自分を吐き出し、ボンヤリする意識の中で、シンは井戸の違和感に気付き……
見てしまったのだと云います。
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井戸の内壁に引っ掛けられた、枯れ木の様な指…
カサカサで茶黒く汚れた膚の色…
髪はゴワリと広がり、ざんばらで乱れたまま…
開けた口から覗く歯は、殆ど残っておらず、黄ばみ汚れている…
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井戸に張り付く老婆の姿を。
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老婆は少年達が放ったモノを、悦に入ったニタニタ顔で、舐め上げ…啜り…見るに耐えない醜猥な有り様だったと云います。
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……これが“女神”?!
……穢れない、美しい乙女?!
……不浄を嫌う?!
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聞いていた話と余りにかけ離れた光景に、頭の中が大混乱に陥ったシン。
悲鳴も出てこないまま……幼い精神は限界を迎え…シンは、その場で卒倒したそうです。
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目覚めると、そこは仏間の隣…普段は、大婆が寝起きしている部屋でした。
状況がイマイチ思い出せず、ボンヤリ辺りを見回すシン。
自分を取り囲む様に、心配そうな大婆・父親……そして何故か目隠しをした母親が座り、その背後に障子を開けて外を眺める兄のジン・従兄弟で儀式の介添えをしたアキラの姿が。
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ジンとアキラの後ろ姿の向こうは、バケツをひっくり返した様に降り頻る雨……
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……!
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…………!!
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『雨乞い神事』での出来事を思い出し、大人達に訴え様と慌てて身を起こしたシン。
しかし……
「井戸で見たモノの事を、絶対に口にするな!」
口を開こうとするのを無理矢理押さえ付け、大婆が声を荒げたそうです。
その余りの剣幕に、シンが固まると、大婆はジンとアキラを側に呼び、その場の全員に語り始めたと云います。
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『雨乞い神事』では極稀に、見てはいけないモノを視る者がいる。
今回はシンがそれ……他の子供達には視えなかった。
そういう子がいた場合、必ず早くから雨が降るが、魅入られた子は執拗に狙われ、井戸に連れて行かれる。
だからシンは、特別強い『身固め』を行わなければならない……。
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通常、1人の少年に対して1人の男がやる『身固め』を、シンの場合は介添人のアキラと、儀式には参加していなかったジンの2人で行い、7日の祓いの間は大婆が祓いの祝詞を言上する隣室で、3人で眠る形となったそうです。
更に7日の間は1人になる事も許されず、特にトイレや風呂といった水回りでは、『身固め』をする2人と体を紐で結んでおかなければならないのだとか。
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女性と接するのも禁止。
母親は、息子が倒れたと聞いて居ても立ってもいられず、無理を言って両目を覆い、姿を見ない事を条件に、シンが目覚めるまでの付き添いを許されたそうです。
この7日間は、両目の視力を失っている大婆以外の女性とは会う事は許されず、身の回りの事も全て、ジンとアキラが担う事となっていたと云います。
母親が父親に付き添われ、退出していく姿を見送りながら、シンは漸く大変な事になったと実感したそうです。
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続く……
作者怪談師Lv.1
長い駄文にお付き合い頂き、有難うございます。
色んな意味で問題作。
ご気分を害された方がいらっしゃいましたら、お詫び申し上げます。
後半はもっとえげつない内容ですので、ご気分を害された方はお止めになられる事をお勧め致します。
後編
http://kowabana.jp/stories/26638?copy