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中編4
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『 八つ当たり 』

嫁が肝試しに行きたいと言ったので、俺はしぶしぶ付いて行くことになった。

嫁「あそこマジで出るらしーよ」

俺「俺、今日 眠てーんだけど…」

嫁「いいじゃん!今晩だけ!」

最近の嫁はやけにふてぶてしいし、図々しい。

俺の意見など全く聞きやしない。

内心、俺は嫁にムカついていて、肝試しどころじゃなかった。

目的地 近くに着いたとき、どこからともなく見知らぬ女性が近づいて来た。

このクソ暑い夏の日に、なぜか冬に着てそうな白い着物。

しかもやたら髪 長げーし。

正直、季節とミスマッチ過ぎて「この人、感覚 大丈夫か?」と一瞬 熱中症の心配をした。

女「×××××」

女は俺たちに話し掛けてきたが、声が小さ過ぎて聞き取れなかった。

嫁は聞こえていたのだろうか?

なぜか動こうとしない。

というより、全く動こうとしなかった。

なんか震えてるし。

どこまでふてぶてしいんだ。

内心、俺はムカついていた。

そんな嫁をよそに、俺は仕方なくその女性に対応した。

よく見たら頭をケガしているようだ。

俺「何でしょう?俺たちに何か用ですか?頭から血が出てますけど…」

女「…助けて」

俺「は?」

全く意味が分からなかった。

というより、若干 俺はイライラしていた。

俺「あのねー、いきなり何の前ぶれもなく そーゆーこと言われると困るんですよねー。ケガした理由とかも、ちゃんと分かるように言って頂かないと」

女「返して…、返してよ…」

この女、目がイッちゃってるし。

意味の分からんことばかり言う女に、内心 俺はムカついた。

俺「いるんだよなー、こーゆー訳のわからんヤツって。変態っつーか、変人っつーか…。どうせその辺で頭ぶつけたんだろ。ぶつけた衝撃で頭のネジも数本とれたなコリャ」

チラと嫁を見たとき、完全にうわの空だった。

たぶん自分の世界にでも入っていたんだろう。

人任せにしやがってと腹が立った俺は、赤の他人と会話することが面倒くさくなってきた。

ネジがぶっとんでる訳の分からん女なので、適当に応じることに俺は決めた。

女「…見えてるんでしょ」

俺「はぁ?何がよ!?ハッキリ見えとるわ、てめぇの汚ねー血がな!俺が目ぇ悪いように見えんのか!?顔で判断すんな!それって先入観ってヤツじゃねーの!?失礼っしょ、どう考えても!」

俺はだんだん本気でムカついてきた。

ヒートアップしてきた。

熱中してきた。

ある意味、俺が熱中症だった。

女「…連れてって」

俺「ふざけんな!てめぇなんざ連れてく金ねーわ!帰って屁ーこいで クソして寝てろ!」

イラ立ちで体が震えだした。

嫁が震えていたのは こーゆーことか。

そこだけは何とか理解できた。

女「今度はあたしが連れてってあげようか?」

俺「いやいや頼んでねーし!そもそも会話が成りたってないっしょ!「連れてって」の後に「あたしが連れてく」って訳わかんなくね!?よく考えてみ?矛盾してるっしょ!しかも「今度」って(笑)、今まで一度もねーわ、ボケ!」

俺は女をまくし立てた。

女「私は、助けてほしかったの…」

そう言って女は暗がりな方向に消えていった。

俺「バーカ」

最後に言ってやった。

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アホな女をよそに、俺はとりあえず先に進むことにした。

すると嫁が、俺の手を掴んで制止した。

俺「なんだよ、肝試し行かねーのかよ!」

嫁「もういい、帰ろ」

俺「お前が行きてーって言ったんじゃねーのかよ!」

嫁「そうだけど…、もういいや…」

なんか嫁は疲れていた。

俺も肝試しなんて興味ないから、さっさと帰りたかった。

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嫁「あんた凄いわ…」

俺「え?何が?」

嫁「なんか逆に怖いわ」

何が逆なんだろう?

ムカついてたのが顔に出ていたのだろうか?

俺「そ、そうか?」

嫁「うん、そう」

顔に出ていたのだろう。

帰りの車の中でも、嫁はうわの空だった。

また自分の世界に入っているのだろうか?

ふてぶてしさが半減した気がして、内心 俺は気分が良かった。

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嫁「『知らぬが仏』って知ってる?」

俺「そりゃー…、有名だしな」

嫁「だよね…」

嫁の言わんとしていることは分かっている。

たぶん「俺がムカついていたことを知ってしまい、若干 傷付きました」的な感じだろう。

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女心は難しい…。

いくらムカツク奴でも八つ当たりしたことは良くなかったと、俺は少しばかり反省した。

眠かった俺は、さっさと帰って寝ることにした。

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