〜ミサライ様-----その後〜
あの恐怖の出来事から8年が経ち、俺、誠司、愛子は28歳になり詩織さんも29歳になった。
詩織さん、愛子はそれぞれ結婚して幸せな毎日を過ごしていると誠司から聞いた。
誠司は少しずつ前には進んでるものの、公明を亡くしたショックから完全には立ち直れていない。ただ生活は普通に送れていると本人から聞いたので安心した。
俺は… 実を言うとあれからずっと夢に魘されている。
ミサライ様に… いや、隆臣さんと公明にと言った方がいいかも知れない。
それが8年間続いている。
体重も2〜30キロ落ち、両親が心配し病院に連れて行ってくれたが原因は不明…
当たり前だ。。。 俺はどこも悪くない。
ただ夢に魘されて体が衰弱しかけているだけ。
そしてさらに2ヶ月が経った。
俺『俺… 死ぬんかな… …愛子に相談しようかな…』
そう思ったものの、愛子には家庭がある。
それに俺1人の事でこれ以上仲間を犠牲にしたくない。
だけど… やっぱり怖い。
俺『やっぱ皆に迷惑かけれねぇよな… ミサライ様か… 呪いたきゃ勝手に呪って殺せよ…』
もう投げやりというか諦めがついていた。
と、その時。
【〜チロリン♪〜チロリン♪】
俺の携帯が鳴った。
画面を見ると《誠司》からだった。
俺『…もしもし、どうした…?』
誠司『おぅ、元気してっかなと思ってな。元気か?』
俺『…ああ。お前は大丈夫か?』
誠司『少しずつ落ち着いてるよ。ってかお前声おかしくない?どうした⁉︎』
俺『ん…?あ〜… ちょっと風邪引いてよ… 』
俺は無理な嘘をついたが、当然誠司には通じなかった。
誠司『何かあったな⁉︎隠さず言えよ‼︎』
俺『……俺… 死ぬかもしんねぇ……』
俺はこの8年間続いている悪夢を正直に話した。
あの日から夢にミサライ様が出ること。
隆臣さんと公明が手招きしていること。
それがほんの少しずつ近づいてきていること。
全てを話した。
誠司『バカ野郎‼︎ずっと1人で抱えてたんかよ⁉︎仲間じゃねーのか俺らは!』
俺『すまん…。これ以上巻き込みたくなくてよ…』
誠司『ちょっと待ってろ!今からお前ん家行くから!変な真似だけはすんなよ!』
そう言って電話は切れた。
俺は誠司を巻き込んでしまった罪悪感と助けてくれる安心感が入り混じり、変な感覚でいた。
そして1時間程経ち、インターホンが鳴った。
玄関を開けるとそこには誠司はもちろんのこと、詩織さんと愛子の姿もあった。
詩織さん『誠やんから連絡もらった。何でもっと早くに相談しなかったの⁉︎』
俺『すいません…。 迷惑かけたくなくて。』
愛子『〇〇←俺、今からお婆ちゃんとこに行こう!きっと何とかしてくれるよ!』
誠司『今度は俺らがお前を助けてやるから!早く行くぞ』
皆の言葉に感謝し、誠司の車で愛子のお祖母さんのとこへ向かった。
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40分後、無事お寺に着いた。
ここへ来るのは約10年振りだ。あの時、俺らはお祖父さんに助けてもらった。
その後、お祖父さんが亡くなり愛子の言った言葉もしっかり覚えてる。
《結界が弱まる----ミサライ様は忘れてはいない》
お祖父さんが亡くなって、お祖母さん1人に助けてもらうべきなのか…。お祖母さんにまで負担をかけることになるんじゃ……
そんな事を考えてか、なかなか足が進まない。
いや、というより体が重い。。
誠司『ほら!肩貸すよ!』
誠司が抱えてくれ、ゆっくり本堂に向かった。
愛子は先に走って本堂の扉を開けて何やら話していた。
そして3人の住職?らしき人達がこちらに向かってきた。
愛子『〇〇←俺、この人達はお爺ちゃんの血縁にあたる人達だよ!今はお爺ちゃんの弟さんが継いで神主様になってるって!』
俺『すいません… よろしくお願いします』
神主『…これはひどいな。とにかく中へ。』
神主様達は俺を抱え、本堂の中央へ寝かせてくれた。
誠司ら3人は別部屋で待つように言われた。
そして神主様は奥の部屋からお祖母さんを呼び、計4人で俺を囲むように座った。
お祖母さん『よくここまで我慢したね。もう大丈夫だよ。
あんたは解放される。』
解放⁇助かるのか?それとも逝けるってことか⁇
今の状況ならどっちでもいいから楽になりたいという思いしかなかった。
お祖母さん『例のものをもってきておくれ。』
神主様『はい。ただいま。』
お祖母さんに言われて神主様が持ってきたのは大きな布の包みだった。
お祖母さん『今からある物をあんたに見せる。目を背けずにしっかり受け入れるんだよ。』
そう言って神主様と一緒に包みを開けた。
中身はバラバラの骨の塊だった。
俺『これは…?』
神主様『ミサライ様の骨です。』
俺『…え⁉︎』
お祖母さん『ミサライ様の遺骨だよ。ジイさんが去ってから皆で探したのさ。結界が弱まりその後の被害を考えてね。見つかって良かったよ。』
俺『じゃあ俺は助かりますか?』
お祖母さん『…私らの力が上回ってればね。ジイさんから聞いたと思うがミサライ様の力は凄まじい。全力は尽くすがね。』
神主様『夜になったら現地に向かうので、それまではゆっくりしていてください。』
神主様に言われ俺は重い体を起こし、外にタバコを吸いに行った。
俺が外に出たのがわかったのか、皆も別部屋から出てきた。
誠司『どうなった⁉︎上手くいったのか⁉︎』
俺『いや、夜になったらあの場所に行くらしい。後は神主様に直接聞いてくれよ。』
そう、何か喋っちゃいけない気がして事の内容は言えなかった。
俺はこの時【死】を受け入れつつあった。
公明、隆臣さんを見殺しにして逃げた。当然の報いだと。
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3時間後、外も暗くなり始めた頃、神主様が俺と他の皆を呼び出したので皆で本堂に入った。
神主様『これより現地に向かい、〇〇←俺さんの心身除霊及び、ミサライ様焼身封印を行います。お連れの方は現地までは同行いただいて構いませんが、中には当人と我々だけしか入れませんので車内でお待ちください。』
誠司『彼、助かりますよね?』
神主様『全力は尽くします。』
詩織さん『〇〇←俺、気をしっかりね!頑張って。』
愛子『皆待ってるからね!』
そして神主様4人、お祖母さんと現地に向かった。
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1時間後、現地に着いた途端に異変が現れた。
手足が痺れ、息苦しい。。
お祖母さんはあの当時のままのビルを強く睨んでいる。
お祖母さん『〇〇←俺、感じ取ったか?』
俺『はい… 姿は見えないけど、ずっと見られてます。』
お祖母さん『今は車で待っておれ。一度説得に当たってみる。』
お祖母さんと神主様が車から降りて、入り口付近に並んでお経?のようなものを唱えながらブツブツ話してるのを俺らは黙って見ていた。
15分程して神主様が俺を呼びに戻ってきた。
神主様『〇〇←俺君、降りて来なさい。』
神主様のこの言葉に、説得は失敗に終わったんだとわかった。
お祖母さん『すまないね。奴は成仏する気はないようだ。予定通り焼身封印する。〇〇←俺、ここからはお前の精神力の問題だ。気をしっかりな。』
俺『もし、負けたら…』
お祖母さん『その時は死だ。』
あまりにも即答で、かつあっさり言われたので不思議と恐怖感はなかった。
そしてビル内に入り3階の鏡張りの部屋へ。
10年近く経ってるというのに部屋内はあの時のままだった。
お祖母さん『〇〇←俺、部屋の中央に座りなさい。』
言われた通りに中央に正座して座った。
神主様『これからミサライ様を呼び出します。〇〇←俺さん、どんな障害が起きようと惑わされずに。頑張ってください。 それでは始めます。』
《$〆£∃〻仝*¢……》←(下手な表現ですいません。)
聞いたことのないお経か念仏かわからない言葉を唱え始めた。
その時だった。
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【オカエリ】
その声は俺の真後ろから聞こえた。
……ミサライ様だ。
あの時の… 9年前の恐怖が蘇る。
俺は震える体を抑え、お祖母さん、神主様に言われた通りに気を乱さないようにするのに精一杯だった。
神主様『〇〇←俺さん、そのまま耐えてください。』
お祖母さん『ミサライ様よ、あなたを苦しめたのはこの者ではない‼︎害なき者から離れよ!さもなくば貴方を焼身封印する!』
お祖母さんが脅迫ともとれる怒鳴り声で叫ぶ。
唱えるお経に力が入っていく。
俺は姿こそ見ていないが、あの無表情のミサライ様が怨念の眼で睨んでる姿を想像させられた。
お祖母さんの言葉がミサライ様の怒りに触れたのか、さっきよりも強い息苦しさが襲ってきた。
身体中が…痛い。
こんな状態なのに意識が飛ぶこともない……地獄だ。
お祖母さん『やむを得ん。やれ!』
お祖母さんの合図で神主様が骨に火を付けたのだろう。
俺の目の前が赤色に染まった。
燃え上がる炎の前でお祖母さん、神主様のお経も強まる。
【ォオォン… ォオォ…】
ミサライ様が苦しんでいるのか、不気味な唸り声が聞こえる。
のたうち回り、その姿が俺の目の前に現れた。
まさに人が火達磨になってる状態だ。
恐怖なのに俺はその姿から目が離せずにいると、炎の中からミサライ様の眼がカッと見開き…
【口....惜しや…】
と、消え入りそうな言葉を発して炎ごと消えた。
お祖母さん『…ふぅ…。終わったぞ。』
神主様『〇〇←俺さん、よく頑張りましたね。もう大丈夫ですよ。』
お祖母さん、神主様の言葉に安堵と同時にその場にへたり込んだ。
終わった… 今度こそ本当に終わったんだ…。
お祖母さん『ミサライ様はこの世から消えた。〇〇←俺、何ともないか?』
お祖母さんに言われ、立ち上がった時。。
……ん?左手が動かない!痛みはないが肘から下が動かない。
俺『左手… 左手が動きません!』
お祖母さん『ミサライ様の最後の抵抗だったかも知れんな。案ずるな、永久封印したのだ。じきに元通りになる。』
俺『はい。あの、本当にありがとうございました。』
神主様『さぁ、帰りましょう。そしてこのビル、ここ一帯は立ち入りを絶対禁止にします。』
俺とお祖母さん達はビルを出て車に戻ると、誠司ら皆が車外で待ってくれていた。
誠司『上手くいったんだな!良かった!本当に良かった!』
詩織さん『〇〇←俺、よく頑張ったね!』
愛子『助かって良かった(泣)』
俺『皆… ありがとう』
お祖母さん達にそれぞれ家に送ってもらい、俺だけはもう一度本堂に入り浄化行事をしてもらってから帰った。
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あれから3年経つが、もう悪夢は見なくなった。
誠司、愛子、詩織さんも変わらず元気で、お祖母さんや神主様も元気に過ごされてると聞いた。
公明と隆臣さんのお参りも欠かさずさせてもらっている。
ただ… 俺の左手はまだ動かない
【完】
作者ともすけ
ミサライ様の完結編です。
多分誤字脱字があると思います。
そして7月のアワード受賞、皆様のお陰です。
本当にありがとうございました。