これは俺が28年間生きてきて消えることのない恐怖を植え付けられた話です。
最後までお付き合いいただけたら幸いです。
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8年前の初夏、大学2年だった俺は《心霊研究会》というサークルに所属してました。
部員は俺を含めわずか6人だけ。3年で部長の隆臣さん、副部長の詩織さん、後は部員の俺、誠司、公明、愛子。(この先は部長、副部長は名前で書いていきます)
人数が少ないのもあるせいか、皆とても仲が良く都合を合わせてはよく心霊スポットに出向いてました。
結果は全て何も起きず終了というのが現実ですが。
そんな時……
隆臣さん『おい!皆んなこれ見てみろ!』
隆臣さんがパソコンで何かを見つけたらしく皆に画面を見せてきた。
そこにあったのは【井戸に住むミサライ様】という内容だった。
俺『ミサライ様⁇何ですかこれ』
公明『井戸って書いてあるし貞子とかそういう部類ですかね』
隆臣さん『下の内容見てみ?結構本格的じゃね?しかもここから近いし♪さらに下に行くとこれがまた不思議なんだよ』
隆臣さんに言われ下にスクロールして見てみると、俺の頭の中は『???』でいっぱいだった。
その内容はこうだ。【場所は〇〇県〇〇郡一部取り壊し後新建設予定地の製造会社の地下のミサライ様がヤバい】
と書き記されており、さらに
【あそこは洒落にならん。行かない方が身の為。マジで行かない方がいい。】とのコメントもありました。
要は廃ビルに霊が出るからやめとけということなのだろうが、何がどうヤバいのか意味不明でした。
愛子『これって怖い話読んだ人が〇〇様とかを真似してるだけじゃないですかぁ?私こんな場所知らないですし』
隆臣さん『いや、〇〇郡は確かにあるよ。行ったことはないけど(笑)』
詩織さん『ないんかい‼︎(笑)』
俺『どうします?皆行ったことないなら試しに行ってみます?』
公明『でも何もなくただの悪戯だったら無駄足ですよ?それに期限明後日でしょ?』
公明の言う明後日ってというのは大学の文化祭のことで、各サークルのメンバーがそれぞれ作品公開やら模擬店やら出す日。まぁお祭りみたいなものです。
隆臣さん『とにかく行くだけ行って見よう!何もなけりゃそれなりの雰囲気ある場所を撮影してPCで上手く合成すりゃいいし!どうせお前ら他に良い案ないだろ?』
確かに隆臣さんの言う通りこれと言ったネタはなかったので、その廃ビルに決めました。
隆臣さん『決行は明日、時間は23時半大学前に集合な!機材は俺と詩織で用意すっから!』
その日は各自家に帰り明日に備えて色々準備をした。
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俺はリュックにLEDライトと小型のビデオカメラ、携帯、それから機関車の汽笛並みの大音を出す特殊な笛、塩、清酒、最後に爆竹。←(もし霊が出たら爆竹で怯ませようという安易な考え)
バタバタと準備をしていると親父が入ってきた。
親父『さっきから何バタバタしてんだ?こんな時間にどっか行くのか?』
俺『明日サークル仲間の家に泊まるんだよ。当日焦って忘れもんすんのも嫌だし余裕もって今から準備してんだよ。』
親父『母さんも寝てんだからあまり騒がしくすんなよ!』
そう言って親父は部屋へ戻った。明日廃墟に行くなんて口が裂けても言えない。バレたら親父のメガトンパンチをもらう羽目になる。
そして持ち物を確認し、準備を整えた俺は風呂に入った後布団でゴロゴロしながら1人ボヤいていた。
俺『ミサライ様ねぇ。。ミサイルみてえだな。プッ(笑)』
つまらない事を想像しながら俺は眠りについた。
。
。
次の日、眼が覚めると外は夕焼けになっていた。夜更かししていたとはいえ、かなり寝すぎた。
おかげで目はパッチリ冴えたので、今日の廃墟探索は良いテンションで行けそうだ。
夕飯を済ませ、リュックを持ち大学に向かった。
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着いたのは23時過ぎで、誠司、公明、愛子の3人は既に大学前に集まっていた。ちなみに俺ら4人は大学までかなり近いので皆徒歩で来れる。
俺『先輩らは?』
誠司『もうじき来るんじゃね?まだ23時過ぎだし。』
公明『直前でビビってすっぽかしたりして(笑)』
俺『それはないな!お前と違って先輩ら肝っ魂座ってるし!
』
公明『俺ビビりじゃねーし!』
そんなくだらない言い合いをしてた時、2つのライトが見えた。
愛子『あっ!先輩達じゃない?』
確認すると隆臣さんと詩織さんだった。
隆臣さん『悪ぃ、待たせちまったな!』
公明『2人で車で来るなんて怪しいっすよ〜』
隆臣さん『バカかお前。帰りは全員送ってやろうと思ってわざわざワンボックスで来てやったんだよ。じゃ、お前は乗せねえし歩いて帰れよ』
公明『冗談っすよ、、すんません』
俺『まぁまぁ。とにかく現地に向かいましょう!』
2人を宥めて全員車に乗り込み目的の〇〇県に向かった。
ネット情報によれば車で2時間ほどかかる場所らしいが、これから廃墟に行くとは思えないくらい車内は笑い話で盛り上がっていた。人間不思議なもので多人数だと仲間の温かさで恐怖は薄れるんだろう。
隆臣さん『いいかお前ら、今回の文化祭は何としても優勝してみせんぞ!』
誠司『何でですか?』
詩織さん『知らないの?優勝商品は各1万円分の食事券だよ?』
愛子『マジですか⁉︎それめちゃ欲しい‼︎絶対良い画をとらなきゃ!』
俺『愛子ってほんと金にはがめついな……』
相変わらず車内は雑談で盛り上がっていたが、ひとつ問題が起きた。それは車を走らせてから2時間弱経ったころだろうか、隆臣さんがナビを見て首を傾げながら言った。
隆臣さん『おっかしいな… 〇〇県の〇〇郡には入ったけどそれらしきビルがねえな』
公明『やっぱ悪戯だったんすよ。適当な話でっち上げてビビらしただけだったんすよ(笑)』
他の皆も半ば諦めかけた時…
俺『ちょっ、先輩あれ!あの看板がそうじゃないですか?』
それはとても道とは呼べない山中に無造作に置かれた岩と岩の間に立てかけられた看板に【〇〇建設・製造会社・私有地につき立ち入り禁止】と書かれていた。
こんな舗装もされてないとこに会社建てんのか?と思うほどの場所だった。
隆臣さん『〇〇←俺、ナイス!よく見つけたな!でも車では無理だから歩きで行くか。』
とりあえず全員車から降り、持参した特殊ライトで看板の先を照らす。LEDかつ高性能だけあってかなり先まで見えるがビルらしきものまでは見えない。
隆臣さん『詩織!アレ持ってきたか?』
詩織さん『ちょっと待ってね!え〜っと…あ、あった!はい!』
詩織さんが渡したのはピンポン玉のようなものだった。
よく見ると中央部分に出っ張りのようなものがあり、押すと玉全体が光るようになっていた。
俺『これ凄いっすね!で、何に使うんですか?』
隆臣さん『目印だよ。大丈夫だろうけど万が一迷った時用にな!10メートル間隔で置いていけばいいだろ。』
用意周到な先輩に感謝しつつライトを置いていき、700メートル程進んだ所に5回建てくらいのボロボロのビルが見えた。
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恐らくネットに載っていたビルがこれだろう。
ネット上コメントを載せてるだけあってかなり迫力がある。
外壁は部分的に剝がれ落ち、あちこちに蔦がはっている。
とにかく入り口を探そうと全員はぐれないようにくっついてビルの周りを歩いた。
誠司『先輩!あそこの出っ張ってるとこが玄関じゃないですか?』
裏側に回った時に誠司がそれらしき場所を見つけた。
□□□
□ 壁 □
□□ 壁 □
玄関 壁 □←こんな感じ。わかりにくかったらすいません
□□ 壁 □
誠司『ヒィィ‼︎‼︎』
先に玄関に向かった誠司が声を震わせ腰を抜かしている。
隆臣さん『どうした⁉︎大丈夫かよ⁉︎』
誠司『あれ… あれ見てください‼︎』
誠司の指差す方を見た全員が思わず声を上げる。
そこには玄関の端から端にわたって注連縄に紙垂がいくつも吊るされていて、その全てに【呪】と書かれていた。
隆臣さん『こいつぁすげえ……』
詩織さん『ネットに載ってあった通りみたいね。ここに、そのミサライ様っていうのが?』
隆臣さん『恐らくな。ここまで来て引き返せねえな。お前ら準備いいな?』
誠司『マジで行くんですか…?やめといた方が…』
隆臣さん『大丈夫だよ!ネットに載せた奴も無事だったからコメントしてたんじゃん!何かあっても俺が守ってやるって!もちろん皆もな!』
こういう時の先輩はほんとに心強い。だから今までの神霊スポットも切り抜けれたんだと改めて思った。
こうして【ミサライ様】探索が始まった。
玄関は当たり前的に鍵はかかっておらず、入ってすぐが大きなロビー、壊れた自販機、喫煙所になっていた。
隆臣さん『ネットの話だと問題は地下だったな。時間はあるし上から順に見て行くか。』
その声に一同頷き2階へ上がる。ビル内は長年放置されてたため、床は劣化しているが歩いて穴があくほどではなかったのでまず一安心。
飛び回る虫が鬱陶しいくらいで2階は特に大きな変化はなかった。
続いて3階に上がると大部屋が2つあり、まず1つ目の扉を開けると壁一面が鏡だった。
隆臣さん『うぉ‼︎』
公明『どうしたんす……っ、うわ‼︎』
隆臣さん『何だこれ…全部鏡じゃねーか。おい詩織!ビデオ回してるか?』
詩織『もちろん!ちょっと驚いたけど鏡だけで特に変化ないね?』
隆臣さん『とりあえず鏡含めて部屋全体撮っとこうぜ!』
隆臣さんの指示で詩織さんはゆっくり左側から撮影していき、右端まできたとたん詩織さんの動きがピタリと止まった。
隆臣さん『どうした?』
詩織さん『静かに。部屋は見ないで。カメラ画面見て』
詩織さんはライトを消して赤外線モードに切り替え、全員にカメラ画面を見るよう促す。
赤外線にしたおかげで部屋がくっきり見えたのだが、詩織さんが撮ってる画面の右下… 何かいる。。。
体育座りをしてる子供…か?うな垂れた状態で動きはない。
と、その時隆臣さんが詩織さんからカメラを取り上げ皆に手で退がれとジェスチャーしだした。
全員が離れたのを確認し、隆臣さんはゆっくり扉を閉めた。
公明『どうしたんすか⁇』
隆臣さん『さっきのやつ… 首が逆だった… 俺らに背を向けて座ってたのに顔はしっかりこっち見てたよ』
愛子『私…無理かも。。帰りたいです』
隆臣さん『いや、何かしてくる感じでもなかったし害はないだろう。扉閉める時に心の中で謝っといたし』
俺『そういう問題じゃないと思いますけど?ってかあれがミサライ様ってやつかな?』
誠司『絶対違うだろ。ネットでヤバいって書いてあったじゃん』
隆臣さん『よし!とにかく次の部屋行こうぜ。』
気を取り直し次の部屋に向かうも、そこは南京錠でキッチリ固定されており《金庫部屋》と書かれていたので諦めて4階に向かった。
4階に着いた瞬間さっきまでの空気が一変、とても冷んやりしていて体がゾクゾクする。
詩織さん『何かやけに寒くない?』
隆臣さん『ああ。何か一気に空気変わったな。』
愛子『私も寒い……』
誠司、公明『俺も…』
どうやら全員が同じ感覚に襲われていた。ここにきてやっぱり来ちゃいけなかったんじゃないかって本気で思えてきた。
何かとんでもないのがいるんじゃないかと俺の直感が教えていた。
4階は部屋の扉、壁が完全に崩されており、だだっ広い部屋みたいになっていた。そこに……いた!
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部屋にじゃない。窓に顔と手をくっつけてジッとこちらを見つめている。しかも首から下がない!
その表情は怒りでも悲しみでも笑いでもない、ただの【無】。
ライトを当ててるのに眩しがることもなく一切表情を変えない。
全員声も出せず固まっていると…
shake
ガツン‼︎ガツン‼︎
その音で弾かれたように全員悲鳴を上げた。
顔しかないそいつが窓に思いっきり頭をぶつけている。
しかも【無】の表情で。
入ってこようとしてるのか、ぶつける速度と威力が増して窓が割れ始める。
隆臣さん『逃げろ!早く!』
皆一気に階段を駆け下り1階に辿り着き全員の無事を確認する。
隆臣さん『皆無事か⁉︎』
誠司『公明… 公明がいないです‼︎』
詩織さん『戻ろ!キー坊助けないと‼︎』
隆臣さん『当然だろ!皆、絶対離れんな!それぞれしっかり腕掴んどけよ!』
皆慎重に周りを警戒しながら1階から順に向かった。
隆臣さん『公明ー!どこだ⁉︎返事しろー!』
誠司、俺『公明ー!出てこいよ!』
それぞれ呼ぶが返事がない。さらに2、3、4、5階と見て回るが公明の姿はなかった。
隆臣さん『どうなってんだよ… 何でどこにもいねえんだよ…』
詩織さん『落ち着いてよ!皆冷静になんなきゃ。』
誠司『この状況で冷静になんかなれないっすよ‼︎公明は… もしかしたらさっきの奴に…』
俺『バカな事言うな‼︎んなわけねーだろ!とにかく探し続けねえと!』
隆臣さん『地上階はなしだな。となると後は地下しかねえな。絶対公明を助けんぞ‼︎』
隆臣さんのその言葉に一同気合いを入れ地下に向かった。
このビルの地下は1階の床蓋を開けてハシゴで降りるようになっている。
降りるのは順に隆臣さん、詩織さん、誠司、愛子、俺の順番。
こういう時でも女性を安全な位置にしておかなきゃならない。
それにしても深い。降り切るのに2〜3分はかかったと思う。ハシゴを降りた先は部屋も何もなく周りはコンクリートで固められ一直線の通路だけ。
真っ暗というより、ここだけ暗黒の世界みたいだった。
隆臣さんと俺のLEDライトの明るさを最大にして進んで行く。
最後尾の俺は正直かなり怖かった。
《もしさっきの奴が後ろから来たりしたら…》
そんな恐怖がずっと頭を過る。
愛子『〇〇←俺、大丈夫?ちゃんと後ろに居てね?』
俺『心配すんなって!その為に最後尾歩いてんだから!』
ほんとはチビるくらい怖かったが女の前だし無理やり強がった。そんなこんなしてるうちに、隆臣さんが何かを見つけた。
隆臣さん『おいおい…マジかよ。。』
詩織さん『何?どうしたの⁇』
隆臣さん『…井戸だ……。』
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確かにそこには大きな井戸があった。人が3人くらいはいれそうなくらい大きい。
そもそも何でビルの地下に井戸があるのかさえ意味不明だ。
誠司『隆臣さん、ライトで底まで見れそうですか?』
隆臣さん『一台じゃ無理だな。誠司、〇〇←俺、手貸してくれ!』
隆臣さん、俺、誠司は井戸を囲むようにしてライトを最大にして照らした。
深さは15メートルくらいか、さすがに3台のライトだから底まで見れる。その底に何やら白いものが見えた。
隆臣さん『白いもんがあるけど何かわかんねーな。お前らゆっくり周辺照らしてみて』
隆臣さんの指示に俺らはその白い物体の周辺を照らした時、隆臣さんが叫んだ。
隆臣さん『公明!!嘘だろおい!!うわぁぁ!』
誠司『隆臣さん!どうしたんすか⁉︎しっかりしてください!』
俺『隆臣さん!ライト貸してください!』
俺は隆臣さんからライトを取り上げ、隆臣さんが何を見たのか確かめた。 そこには……
白骨化した遺体があった。そして隆臣さんが悲鳴を上げた理由もわかった。
遺体は服を着たままだったのだが、その服は紛れもなくついさっきまで一緒にいた公明の服だった。
俺『き…公明。。死んでる…。骨になってる…』
詩織さん、愛子『いやあぁーーー‼︎』
後から覗いた女子達は発狂寸前。
誠司は声を荒げ泣き崩れていた。誠司と公明は幼稚園からの幼馴染で何をするのも同じで親友の中の親友だった。その友が… ついさっきまで一緒にいた親友が見るも無惨な姿で死んでいたのだ。しかも井戸の底で。
俺『誠司!しっかりしろ! 隆臣さん、大丈夫ですか⁉︎とにかくここから出て警察に行きましょう!』
隆臣さん『ああ… 少し落ち着いた。そうだな。探索は中止だ。早く出よう。』
隆臣さんは誠司を抱え、また女子を真ん中に挟み俺が先頭を歩いた。
ハシゴに辿り着きいざ上がろうとした時、《ビチャ‼︎》っと手に何か落ちてきた。
俺『うぉ‼︎』
詩織さん『何⁉︎どうしたの⁉︎』
俺『いや、何か液体みたいなんが手に…』
そう言いながらライトで手を照らすと何か薄黄色っぽいネバネバした液体だった。
俺『何だよこれ… 気持ち悪いな』
詩織さん『これで拭きな?』
俺『あ、ありがとうございます』
詩織さんが持ってきてくれてたタオルで拭き取り、変な液体が落ちてきた原因を探るため真上にライトを照らした…… そこに奴がいた。
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表情は相変わらず【無】。だが明らかにさっきと違うのは体のようなものがあったこと。
さっき見た時は間違いなく顔と手しかなかった。
なのに今は体がある。あるというより上半身だけ。まるでテケテケのようだった。
俺『うわぁ‼︎た…隆臣さん!さっきの奴がいる!上から見てる…!』
隆臣さん『〇〇←俺!!そこから離れろ!皆井戸の方に戻れ!』
詩織さん『戻れって… 井戸の先は行き止まりだよ⁉︎逃げれないよ‼︎』
隆臣さん『どっちみち上にはあがれねえよ!誠司と詩織、愛子は俺らの後ろにいろ!〇〇←俺、何か持ってきてねえか?』
俺『えっと… 笛、塩、清酒、あと爆竹です。隆臣さんは⁉︎』
隆臣さん『俺はスタンガンとナイフ』
隆臣さんの持ち物を聞いて、俺は1番ビビっていたのはやはり隆臣さんだと思った。
俺『で、どうすんですか?!』
隆臣さん『効くかわかんねえけど俺らの前に塩を撒こう。で、奴が近付いてきたら酒をぶっかける!駄目なら爆竹とスタンガンで攻撃しよう!』
俺『それでも駄目なら…⁇』
隆臣さん『……』
返答のない隆臣さんは恐らく《死》を覚悟したんだと思う。
俺は何も言わず塩を撒き、清酒を握りしめて震える足で奴が来るのを待った。
が、なかなか降りてこない。いなくなったかと思った時だった。
【アト…ヒトリ……】
⁉︎奴の声なのか、人の声をスローカメラで流してる様なほんとに不気味な声で同じ言葉を繰り返している。
【…アト…ヒトリ…アトヒトリ……】
そう言いながら奴はハシゴを使わず、まるでゼリーのように落ちてきた。もはや幽霊じゃない。こいつは妖怪だ。
隆臣さんは後ろの3人に《声は出すな》とジェスチャーし、奴の方にライトを向けた。
性能が良いため、奴の顔がくっきりとわかる。
あの【無】の表情が恐怖で俺は失禁してしまった。
足がガクガク震え、涙が止まらない。死にたい衝動に駆られる程だった。
そんな俺を見て隆臣さんは俺から清酒を奪い奴にぶっかける。……当然だが効果はなかった。
隆臣さんは俺にしっかりしろと言わんばかりに、俺の肩を掴む。
俺は震えながらも2〜3この爆竹に火を付け奴の周りに放った。 《パンッ‼︎パパパンッ‼︎‼︎》
激しい音と煙で奴の姿がわからない。まだそこにいるのかどうかも。《頼む…効いてくれ‼︎》と祈るばかりだった。
その願いが通じたのか、煙がなくなったそこに奴の姿はなかった。
やった…効いたんだ。安堵からか、腰に力が入らずフラフラする俺を愛子が支えてくれた。
愛子『〇〇←俺… ありがとう…ありがとう。』
俺は何も言わず愛子の頭を撫でてやった。愛子こそ怖くてたまらなかっただろうと。
隆臣さん『よし!今のうちに出るぞ!〇〇←俺、上はどうだ⁉︎』
俺『大丈夫です!何もいません!』
ライトを口に咥え、俺を先頭に→愛子→詩織さん→誠司→隆臣さんの順に急ぎ足でハシゴを登った。
幸い、途中何かあるわけでもなく1階に出た俺らはすぐにビルを出て皆無事か確認した。
俺…いる。愛子…いる。詩織さん…いる。誠司…いる。隆臣さん… 隆臣さんがいない!
俺『隆臣さんがいない‼︎』
詩織さん『何で⁉︎さっきまで一緒にハシゴ登ってたのに⁈』
誠司『絶対さっきの奴に捕まったんだよ……』
俺『クソがぁ‼︎』
この時は恐怖を通り越して怒りしかなかった。公明を殺し、今度は隆臣さんだと?絶対にそんなことさせまいと皆に戻ろうと言おうとしたが、皆はビルの入り口を見つめガタガタ震えていた。
俺『皆、どうした⁇』
誠司『…隆臣さんは多分死んだよ…』
俺『はぁ⁉︎勝手に決めんなよ‼︎まだわかんねえし助けなきゃいけねえだろ‼︎』
誠司『あれ…… 見ろよ』
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誠司の指差す方向、ビルの玄関に奴がいた。
今度は足… 下半身もある。奴はこちらに向かっては来なかったが、ジッとそこに立って俺らを見てまたスローモーションのように喋っていた。
【…デキタ… デキタ…】と。
その言葉を聞いた俺らは無我夢中で車まで走った。
目印に置いてたライトのお陰で迷う事無く車に乗り込み、詩織さんの運転で急発進した。
車内は無言だった。詩織さんは涙を流しながらひたすら飛ばしている。
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10分程走りコンビニの駐車場に車を停めたので、俺だけ降りて皆にジュースを買って渡した。
詩織さん『ありがと。。 私、皆を送り届けてから警察行くわ。』
誠司『何言ってんすか‼︎詩織さん1人で行ったって警察は何も信じませんよ‼︎』
俺『詩織さん、皆いるんですから皆でどうするか決めましょう。警察に行くにしろ1人より皆で行けば信用するでしょうし。』
愛子『あの… 私の家、家っていうか私のお爺ちゃんお婆ちゃんが先祖代々からの神主なんですけど、〇〇市の神宮にいるので1度相談してみませんか?』
詩織さん『愛ちゃん神の家系だったの⁉︎』
愛子『私はそういう力はないですよ?お爺ちゃんお婆ちゃんが先祖代々から受け継いでるって。お母さんからいつも聞かされてたので。』
詩織さん『そうだったんだ。。 愛ちゃん、今からそのお爺さん達の所に行っても大丈夫かな?』
愛子『はい!きっと力になってくれると思います!すぐに行きましょう‼︎』
愛子の言葉で車を発進させて急ぎで神宮へ向かった。
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愛子の道案内の末30分程走らせると、大きな鳥居が見えた。お爺さん達はまだ起きてるのか、先の部屋の灯りは点いていた。
邪魔にならないとこに車を置き、皆部屋に向かい愛子が扉を開けると既に大きな数珠を首にかけ、白装束のような格好をしたお爺さんが立っていた。
お爺さん『来ると思っておったよ。大変な事態になってしまったな。』
俺は、⁇?になっていた。今来たとこで何も説明してないのに、全てがわかってるような言い方に首を傾げた。
愛子『お爺ちゃん… ごめんなさい…。』
お爺さん『起こったことは仕方あるまい。そちらは友人の方かな?』
詩織さん『初めまして。夜分に大変失礼します。今回のことで愛子さんに相談の上、ご迷惑なのは承知ですが助けていただきたくてお伺いしました。』
お爺さん『わかっておる。先に言っておくが、あなた達が何かに取り憑かれているとかそういうのはないから、まず安心なさい。とにかく本殿へ来なさい。』
お爺さんの案内で俺らは本殿に入り並べられた座布団に座った。
後にお婆さんもやってきた。格好からして巫女さんだったと思う。
お爺さん『これからあなた達が行った場所の真実、出くわしたものの正体を教えます。心を乱さず、落ち着いて聞きなさい。
まず、あなた達が行った場所、あのビルはビルではなく処刑場です。』
俺『処刑場…?でも外観、館内も見ましたけど普通のビルでしたよ?自販機とかもありました。』
お爺さん『処刑場だから自販機を置かないわけではありませんよ。あなた達は3階にある鏡張りの部屋に入りませんでしたか?』
俺らはギョッとしながらも頷いた。
お爺さん『その部屋は自身の公開処刑として使われていた部屋です。鏡に映る処刑人を見させながら殺害するという残虐な部屋です。』
詩織さん『私達、そこで佇んでる子供みたいなのを見ました。』
お爺さん『恐らく処刑人の霊でしょう。あなた達に直接の害は無かったと思いますが。』
お爺さんの言う事が当たりすぎてて逆に怖かったが、俺は思わず聞いてみた。
俺『じゃあそのビルは1階から5階全てが処刑部屋になっていたんですか?』
お爺さん『いいえ。処刑として使われていたのは3階と4階だけです。5階まで造ったのはカモフラージュだったのです。表向きは某製造会社としていたのです。』
誠司『待ってください!そんな殺戮があったのに警察は動かなかったんですか⁉︎住所もわかってるのに?』
お爺さん『あの場所に住所はありませんよ。これを見てみなさい。』
そう言ってお爺さんは地図を見せて、俺らが行った場所を指差す。確かにその場所はただの荒野になっており、〇〇郡すら存在していなかった。
俺『どうなってんだ… ちゃんと看板もあったのに…』
お爺さん『あなた達は呼ばれたんですよ。霊魂、怨念には実態がない分、そういった力はあります。』
俺らは黙って聞いてるしかなかった。
そして話は本題、公明と隆臣さんを襲った奴の話に。
お爺さん『あなた達が見たものはミサライ様です。その正体を私が知ってる限り教えましょう。』
詩織さん『やっぱりあれがネットに書いてあったミサライ様だったんですね…。』
誠司『お願いします!教えてください!俺、2人の仇をとりたいんです!』
お爺さん『落ち着きなさい。ミサライ様というのはその言葉のまま、【身を攫う】という意味からきています。正体は霊体とかではなく説に言う妖怪みたいなものです。ミサライ様の力は凄まじく、祓うことは出来ません。』
俺『攫う…?じゃあ友人が白骨化していたのは、そのミサライ様ってのが食べたってことですか⁉︎』
お爺さん『ミサライ様は人を喰らったりはしません。簡単に言うと身を剥ぐ。奪ってしまうということです。もうわかっていると思いますが、ミサライ様に何か変化があったのは気付きませんでしたか?』
お爺さんのその言葉に全員ハッ‼︎っとした様子で顔を見合わせた。
体だ!見るたびに体の一部が増えていた。
俺『まさか………』
お爺さん『わかりましたね?そうです。先程も言ったようにミサライ様は身を攫う。お連れの方は身を奪われミサライ様の一部となっているのです。』
俺『ミサライ様は元々妖怪なんですか?ずっとあそこにいるんですか?』
お爺さん『元は人間です。処刑人の1人だったんです。私もご先祖様から聞いただけですが、バラバラに惨殺された後に色んな場所へ捨てられたそうです。その後処刑自体が終わりを告げ、処刑された方の親族がそれぞれ埋葬にやって来られたのですが、ミサライ様の首、両腕以外はどこにも見当たらなかったそうです。』
お爺さんのその言葉に俺は確信した。最初に見た窓に張り付いていたあの姿。
体を探し求めていたところに俺らがその地に踏み込み、公明と隆臣さんが犠牲になった。
俺『ミサライ様を倒す方法はないんですか?』
お爺さん『ありません。ですが、あの地から出れないようにはしてあります。皆さんも見たと思いますが、入り口から動けなかったはずです。』
詩織さん『⁉︎何故わかったんですか⁉︎』
お爺さん『四方に結界を張ってるんですよ。暗くてわからなかったでしょうが、代々伝わる特別な石で出れないようにしてるのです。あそこまで念が強いとお祓いも封印も出来ませんが、その場に留めることは可能です。それから、ミサライ様は昼間は出ませんので、夜が明けたら警察の方に捜査はしていただきましょう。私も立ち会うのであなた達も同行しなさい。これで話は全てです。今日はお祓いを受けて、本堂でお休みなさい。』
お爺さんに促され、皆お祓いしてもらいその日は皆寄り添って寝た。
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翌朝、お爺さんの声で目覚めた俺らは用意してくれた朝食を早々に済ませそれぞれ現地に向かう準備をした。
この時ほど無言で重い空気になったことはなかった。
玄関に向かうと既にパトカーが2台来ており、お爺さんと警察が何やら話しており、1人の警察が俺らの方に寄ってきた。
警察『おはようございます。事情はある程度聞きました。君達に特に何かしてもらうわけじゃないけども、現場証拠も含めて同行してもらえますか?』
詩織さん『もちろんです。連れて行って下さい。』
警察『では、行きましょうか。』
こうして俺らはあの恐怖の地に再び向かった。
現地には昼頃に到着し、明るいのと警察数人、お爺さんがいてくれてるおかげで恐怖は薄らいでいた。他の皆の顔色も悪くなかったので安心した。
ただ一同玄関に入った瞬間、やはり昨日の今日である為か身体が震える。
お爺さんは《昼間は出ない》と言っていたが、この場にいるだけでその安心感が吹き飛ぶ。
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警察『まず1人目の被害者の場所を教えてもらって良いかな?』
詩織さん『玄関入ってすぐ右の突き当たり、ハシゴの下の井戸の中です…』
詩織さんの声は震えていた。
警察『地下か… 応援がいるな。悪いけど〇〇署に緊急応援要請を。』
と、もう1人の警察に指示し、30分後にさらに4台のパトカーがやってきた。
総勢10人の警察が中に入ってきて地下へと向かった。
警察『ここからは我々だけで行くので、そこで待っていて下さい。』
そう言って警察5〜6人が何やら道具を持って降りて行った。
しばらくして3人の警察が上がって来て、下にいる警察に合図を送っていた。
警察『君達の証言通り白骨化した遺体があったよ。これから遺体を引き上げるから、辛いと思うけど確認してくれるね?』
警察の言葉に誠司はまた泣き始めていた。俺と詩織さん、愛子は深く頷いた。
それから引き上げられた遺体に誠司が縋り付きずっと泣いていた。
誠司『公明ぃ…. ごめん… ごめんな…』
警察『君、落ち着いて。遺体は公明君で間違いないね?』
俺らは黙って頷き、警察が運ぶ公明の遺体を見送った。
警察『神主さんの話ではもう1人の友達もいると聞いたけども、間違いない?何処にいるかわかる?』
俺『いえ… 皆で脱出したと思ってビルを出てから彼がいない事に気付いて、助けにいこうと思ったら… その…』
言いにくしてる俺を察したようにお爺さんが割って入る。
お爺さん『事情は先程説明した通りです。この子達は恐ろしいものを目の当たりにしてるので、そこは察してやってください。もう1人のお連れはこのビルの4階にいます。私も同行します。』
お爺さんはそう言って俺の肩に手を置き、大丈夫だからと言ってくれた。
そして警察、お爺さん、俺らで4階に上がり、奴を最初に目撃した大部屋に向かう。ここでお爺さんが口を開いた。
お爺さん『お連れの方は恐らく同じ状態で死んでいる。皆さん、決して取り乱さないでください。』
お爺さんの言葉を胸に、部屋に入る……… 部屋の中央からやや左手側に横たわっている白骨化した遺体。公明の時と同じように服は着たまま… それは紛れもなく隆臣さんだった。
詩織さん『隆さん… ウゥ…』
詩織さんは耐えかね涙を流していた。俺も泣いたし愛子も誠司も泣いていた。
お爺さん『この方はだいぶ抵抗したようですね。』
詩織さん『抵抗⁇』
お爺さん『ええ。きっと皆さんを逃がす為に精一杯抵抗したんだと思います。ミサライ様に捕まればその場で身を攫われます。
あなた達の話では、この方は地下から出た際にいなくなったんですよね?恐らく4階までおびき寄せた後に力尽きたのだと思います。』
その言葉に俺らはその場に泣き崩れた。数人の警察が宥めてくれ、隆臣さんの遺体を運び出しビルを出る。
パトカーに乗り込む時、俺の耳にハッキリと聞こえた。
【…マッテルヨ…】
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思わずビルの方を振り向く。奴は… いた。
3階の窓からずっと見ていた。俺は逃げるようにパトカーに乗り込んだ。
2度とここには来ない。いや、心霊スポットには一切行かないと心に誓った。
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それぞれ家まで送ってくれて、各自お爺さんと警察に深々とお礼を言って今回の件は終えた。
あの事件から数年経つがあの時のメンバーは皆元気で、毎年公明と隆臣さんの墓参りに行っている。
ただ俺だけかも知れないが、あれからずっと夢にミサライ様が出てくる。あの時の言葉…
【…マッテルヨ…】
と。。。
皆には言わない。いや、言えない。これでもし死ぬことになったとしても、仲間を犠牲にするくらいなら俺1人の死で充分だと。。
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後日談……. 愛子のお爺さんはあの事件の1年後、不慮の死を遂げたと聞いた。
もしかしたら結界が弱まるかも知れないと。。
そして… ミサライ様は俺らの事を決して忘れない……と。。
【……マッテルヨ…】……この言葉も忘れることはない。
作者ともすけ
皆さんこんばんは。ともすけです。
やっと3作目が出来ました。誤字、脱字があると思います。すみません。
自分の中で今月の最高傑作のつもりですが、つまらなかったらすみません。
読んでいただけたら幸いです。
部分的に修正しました。