長編9
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夢と現…

私はよく、夢を見る方です。

夢の中では、まだ幼い私が、ものすごいスピードで車を運転していたり、なぜかゴジラを飼っていたり、宿題が終わらないと泣きながら机に向かっていたり、空が飛べたり、川で溺れそうになっていたり、よく分からない、怖いモノに追いかけられて逃げていたり…。

現実的なものから、 非現実なものまで、

夢の中では、当たり前のように映し出され、

当の私は、寝ながら笑っていたり、慌てて飛び起きたり…。

そして、私は、夢をしっかりと覚えて目覚める子供でした。

どんな夢を見ていたか、誰が出てきて、何といったか、どう行動したか…、

しっかり覚えているのです。

なので、目が覚めても、夢なのか、現なのか、一瞬わからなくなる事がよくありました。

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そんな私が、必ず、夏に見る夢がありました。

必ず、夏に、1回、見る夢…、

それは、妹の夢でした。

普段、よく夢を見て、家族も多く登場する私の夢に、

妹は現れませんでした。

父や母、ばあちゃんやじいちゃん…、従姉妹達や遠縁のおばさん達まで出てくるにも関わらず、

妹は、出てこないのです。

ばあちゃんにその話をした時、

「日頃の拒否反応だと思っておけば良いよ。夢の中まで、アレに振り回される事は無いしね。」と、

笑って言ってましたが、

そうやって、ばあちゃんに話すほど、妹の存在は、夢の中に出てはこないのです。

ところが、ある年の夏にふと、気付きました。

私…、去年もここで寝てて、妹の夢を見たよね…。

去年見た夢は…、そうそう…、

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私と妹は、小学生でした。

どこのお家かわからない、とんでもなく大きなお屋敷のようなお家の、長い長い廊下に私と妹は手をつないで立っています。

あまりに長くて、奥の方は全く分からず、何だか霧がかかったように、白く煙っていました。

私は、ここから先は行けないと言うのですが、妹は、

「何が?行こう、早く!」と

私の手を引っ張ります。その力がとても強くて、

握られている私の手は、見ると、血が止まっているかのように、先が白く白くなっていました。

「痛いから話して!」

私は怒って手を振り払い、

「先には言っちゃダメ!そう言われてるでしょ?」と、

妹にきつい口調で言うと、

クルッと妹に背中を向けました。

すると、妹が…、

「どうして?どうして?」と聞き返しながら、

私の足の下から、ズルッと這い出てきました。

その顔が、楽しそうに聞き返す声を出す顔とは思えないほど表情がなく、何よりも、目が変に澱んでいました…。

「連れて行ってあげるよう〜。私が、お姉ちゃんを連れて行ってあげる。」

妹はそう言って、私の足の下をズルズルと這いずり回ります…。

驚いた私は、大声をあげ、父を呼ぶ…、

そこで、目が覚めたのを思い出しました…。

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去年、そんな内容の夢を見た事を、まるで先ほど見ていた夢のように鮮明に思い出し、

ゾクっと背中が冷えた感じがしました。

何となく、としか言いようが無いのですが、

忘れていた夢、ではなく…、忘れようとしていた夢のような感じです。

何故、普段見ない妹の夢を忘れていたのか、

どうして、一年経って、また妹の夢を見て、そして去年見た夢の事をこんなにも鮮明に思い出したのかが分からず、

ただ、気持ちが悪く感じました…。

それでも私は、

いや、もしかしたら、普段も妹の夢は、見ているのかも知れない。

見ているけど、夢の中でも、現と変わらない妹の事より、他に見た夢の方が勝っていて、そちらの方が印象深くて、ただ忘れているだけなのかも知れない。

去年見た夢も、その年に見た夢も、たまたま、妹しか出てこない内に目が覚めたから、印象深く覚えているだけなのかも…、

そう、思うことにしました。

去年見た夢と違い、その年に見た夢は、

妹は何故かお風呂に入っていて、

ケラケラとこちらを指さしながら、大きな声で笑っていました…。

「何がそんなにおかしいの?」

そう聞いても、お腹を抱えて、大きな声で、

口を大きく開き、真っ赤な口で、ケタケタと…、ただ、笑っていました…。

前の年に見た夢で、私の足元からズルッと這い出て来た時の妹のあの顔と、

先ほど見た夢の中の妹の顔は、全く違う表情でありながら、どちらも思い出すと、嫌な感じが止まらず、

ザワザワした、言いようの無い気持ち悪さが身体中に走りましたが、起きてしばらくするとそれも落ち着き、

現の妹には、夢の中の妹のような気味悪さは感じなかったので、いつも通り、妹と過ごしておりました…。

その後、思い出す限り、妹はまた、私の夢の中から、姿を消しました…。

どんなに思い出しても、妹が出て来る夢を見た覚えが無いのです…。

その事をたまに思い出し、

「おかしいなぁ。」と、

思ったりしていました…。

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ところが、次の年の夏が来て、

私は、また、妹の夢を見ます。

妹と私は、2人で畑の中を歩いていました…。

妹がふと立ち止まり、畑の中に、後ろ向きに反り返る様な格好で、ザクッと頭を突っ込むような事をするので、私はとても驚き、

慌てて妹の腰元を持って、畑から引き抜こうとしました。

私より、少し筋肉質な妹ではありましたが、私が妹の事を抱き起こせないほどではありません。

しかし、妹は、刺さったままの状態で、どんなに引っ張っても、一向に動く気配が無いのです…。

どうしたらいいか分からず、私はその場に立ち尽くし、妹の足をさすっていました。

刺さったまま、力が抜けるとこもなく、

まるで、新体操の選手の様な、見事な反り返りっぷりで、

全く動かない妹…。

私はハッと思いつき、

せめて顔の周りの土を掘り、妹が空気を吸える様にしてやろうと考えました。

そして、頭がめり込む方に周り、土を掘り返します。

すると…、

強烈な痛さが全身を貫き、

私は声も出せずに飛び上がりました。

全身に走った痛みは、手に集中している様なのですが、

どんなに見ても、私の手は親指と少しの掌だった部分しかありません。バタバタと、壊れた水道の様に、真っ赤なトロッとした血が止めどなく溢れてくるのです…。

「どうしよう、どうしよう。」

夢の中の私は、痛さと、自分の手から溢れる血の鉄臭い匂いと、「これでは、掘れない。」と言う焦りと、

どこからか、指が生えてくるのでは、と言う訳のわからない期待が一気に溢れ出して、

「どうしよう、どうしよう」しか言えませんでした。

その時…、

足元から…、

音が聞こえました。

…ゴクッ、…ゴクッ、…ゴクッ、

喉を鳴らし、何かを飲む音です。

音のする方に目をやると、

妹が、さっきの姿と変わり無い格好でありながら、

私の手から流れ落ちる血を、

異常に長い舌をチロチロさせて、掬い、器用に舌の中で転がし、喉に運んでいました…。

驚いた私は、

「何してるの?」と妹に聞くと、

「食事してるんだよ。もう少し、こっちに来てよ。食べ辛いじゃ無い。」と、

目だけギョロギョロ動かしながら、

長い舌を足元に這わしてきました。

私が「私はあんたのご飯じゃ無いよ。こんなことはもうしないで!」と大きな声で怒ると妹は、

チッ、と舌打ちし、

「いつか全部、食べちゃうからね?」と言い、

長い舌で私の頭を、まるで鞭で打つかの様に殴ってきました。

グラッと目の前が歪んで見え、

飛び起きると、私は夢の中でなく、

現実にいました…。

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現実にいる事を確認するため、私は手を見ましたが、

小さなかすり傷1つもついてはおらず、安心したのと同時に、妹がどこにいるのか気になりました。

自分の部屋から出て、妹の部屋に確認に行くと、

寝ている妹がいて、

妹の顔には、もちろん血などこれっぽっちも付いていませんでした。

やっぱり、ただの夢なんだ。

私、妹を、ケダモノの様に思っているから、

だからこんな夢を見るんだ…。

そう思うと、私は、日頃振り回されてはいるものの、

妹にとても申し訳ない気持ちになりました。

なぜか毎年、必ず、夏の夜に見る、覚えてる限り、1年に1度の妹の夢…。

奇妙で、後味も悪いこの夢の事を、私はまた、ばあちゃんに相談しました。

ばあちゃんは、

「そんな夢を見るの?それはあまりよく無いね。切り離さないとね。」と言うと、

私に、

「アレは、ケダモノではなく、確かにあんたの妹だよ。

人だ。

かといって、純粋な子供、ということも無いんだよ。

『取って返してやる。』と心の中が黒いんだ。

よく聞いて、

これからもしまた、あの子が夢に出てきて何もしても、

驚いてはいけない。

話してもいいけど、自分から声をかけてはいけない。

助けようとしてはいけない。

あの子よりも、涼しい顔で、言う事する事を

黙って見ていればいいよ。

やれる事は、こっち、現でやりな。

夢の中まで、振り回されてはいけない。

どうにかして、あんたに取って返したいと思うたび、あんたを引きづりおろしたいと思うたび、

あの子は夢に出てくるだろうけど、

絶対、心をざわつかせてはいけないよ。

これはずっと、これから先、あんたとあの子が、姉妹でいる上での、

ばあちゃんとあんたの約束だよ。」と言いました。

妹はどうして、夢の中で私に何かしようとするの?

そう聞く私に、

ばあちゃんは、

「さぁねぇ、本当は、あの子の方が、先に生まれるべきモンだったからかな?」と言いました。

本当は、妹は私のお姉さんとして生まれるはずだったの?と聞く私に、

「どうかなぁ。生まれるべきというより、生まれようとしてた、のかねぇ。」と言い、

それはあまり考えなくていいと言われました。

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それからまた、次の夏がやってきて、その次の夏、その次の夏と…、

妹はやはり、夢に現れ、

ある時は酷く泣き、ある時は強引に私を引っ張り、ある時は私に馬乗りになって殴りかかってきた事もありましたが、

私はその度に、ばあちゃんに言われた事を守り、

「これは夢だ。これは夢だ。」と自分に言い聞かせ、

夢の中の妹の言動を、何をされても、何を言われても、

気にしない様に努めました…。

それでも、1年に1度の夢は、

実際に、妹との関わりを一切断つと、私が固く宣言する年まで

毎年見続け、年応ごとにその後必ず、現では人やお金の絡んだ厄介ごとを持ち込んでくる様になりました。

ばあちゃんの言ってた、

「私を引きづり降ろそうと考えるたびに…。」と言う

、それこそ夢物語の様な言葉が、私の中で確実たるものに変わっていったのです…。

私が妹との関わりを断ったその年から、

父母、ばあちゃんに伯父、じいちゃん、

それから娘たちに主人、友達などの夢はしょっちゅう見ますが、

私は、妹の夢を、見る事は無くなりました。

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この夏、

私が1人で家にいると、

住所も知らないはずの私の家に、妹が不意に現れました。

驚き、声の出ない私に、妹は、

「探してたんだよぉ?」と笑いかけてきました。

その顔は、

左右の目が、溶けて繋がっており、

左の頬骨の辺りにもポッカリと、溶けた様な穴が空いていて、そこにはもう1つ、目玉がギョロギョロと動いていました。

私はとっさに、

「あんた!その顔どうしたの?」

声をかけてしまいました。

妹は、そんな私を、とてもいやらしい目つきで見て、

ニダァ〜と笑い、

「どうしてかなぁ。こんなになっちゃった…。」

そう言って、私の手を掴み、私に頬骨の目玉を触らせようとする…、

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そこで、目が覚めました…。

夢と分かっているのに、慌てて飛び起き、玄関まで走って行って、外を確認し、鍵をかけ直し、家の中をあちこち確認して回りましたが、

妹の姿は、当然どこにもありませんでした。

それでも私の心臓は、早鐘の様に打ち、手は震え、

背中には汗をドッとかいていました…。

携帯の電話番号まで変えて、引越しの際も伝える事なく現住所に変えた私の居場所を、妹は知るはずはありません。

しかし、また見た妹の夢が、

私を厄介ごとに引きづり混みそうな気がして…、

その際は、断固たる決意の元、知らぬ存ぜぬを貫きとうそうと、心に誓っております…。

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にゃにゃみさん、夜分にすみません。
作品読ませていただきました!
怖い…
夢とはいえ、何故妹がそんなことを…
妬み、恨み、憎しみ、はたまた寂しさが一転して…
様々なことを考えさせられる凄い作品でした!
ありがとうございました!

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