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短編2
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「絵を、描いてくだい。」

知らない人だ。路を歩いていただけの私に、突拍子もない事を願ってきた。

「絵を、私の絵を描いて下さい。」

構う必要はないだろうと、返事もせずに歩みを進める私に、再度願ってきた。

「お願いします。」

3回目、私は少しイラつきながら、どうして私が?と尋ねた。

「絵を、私の絵を描いてくだい。」

話にならない。少しの沈黙の後にでも、理由を説明するだろうと待ってはみたが無駄だった。

「絵を描いてくだい。」

私はまた歩き始めた。

「絵を描いてくだい。」

今度は何処から取り出したのか、スケッチブックとペンを私に押し付ける形で迫って来た。

私は立ち止まり、それを受け取った。なにか描かなければ、こいつはずっと私に付き纏うだろうと思ったからだ。予め捲られているページに、ペンを押し当てそいつを見た。

画力のない私が、一生懸命そいつを描いた所で、幼稚園児が描くような丸を何個か描いて、髪を線でめちゃくちゃに描いて終わり程度なので、私はそいつを見ながら、紙を一切見ないでそいつを書き上げた。

そして私は、描いた物を見ずに、スケッチブックとペンをそいつに渡したのだ。

なにも言わないそいつを背に、私はまた歩き出すと、背後から御礼が聞こえた。さぞかし残念な顔で言っているのだろうと、振り返ると…

「私はこの様な死に方だっのですね…復讐は必要ないのですね…。有難うござ…」

最後まで言い切る前に、そいつは消えてしまった。

現実離れした状況に、その場に立ち尽くす。

暫くして、そいつが立っていた位置に、スケッチブックとペンが落ちていた事に気付いた。

おもむろに拾い上げ、近くにあったベンチに腰掛けた。

私は、あいつを見ずにあいつを描いただけ。なのにあいつの最後の言葉が、あいつが消えた事実より気に掛かり、スケッチブックを捲くってしまう。

描かれていた物は、酷く惨い死に方…車に轢かれ、胴体と首が千切れた絵。斧が頭部にめり込んだ絵。ナイフで腹部を裂かれ、内臓が全て出ている絵。首をロープで締められ目玉が飛び出しそうな絵。そして、おそらく私が描いたであろう最後のページの絵は、羆が腹を喰いちぎる絵。…

静かにスケッチブックを閉じ、自分を落ち着かせる様に、周りを見渡す。

すると、先程まで気が付かなかったが、ベンチ以外が真っ白な空間で何もないのだ。

そして、わからなくなったのだ。

此処は何処なのか、私が何者なのか、何処に行こうとしていたのか…

だが1つだけわかった事がある。

「私の絵を描いてくだい。」

Concrete
コメント怖い
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お久しぶりです。
流石!!の一言に尽きます。
ここまで裏切ってくれるとは。

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