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中編6
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呪いの飴屋さん

「ねえ、きみちゃんはなんでぬいぐるみの中に封じられてるの?」

背中の専用リュックに入ったお巫女さんのぬいぐるみに話しかけましたが、何も答えは返ってきません。

いつもこうです。

都合の悪い質問や気が向かないときは少しも話をしてくれません。

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私はその日神社のお祭りに来ていました。

この神社で一年前生きている狐巫女のぬいぐるみと出会いました。

私はそのぬいぐるみにきみちゃんという名前を付けて大事にしてきました。

きみちゃんは本当にたまにしか話しかけてくれませんが、それは本人が言うには面倒くさいからではなく、自分は今ぬいぐるみの中に封印されていて力がほとんど使えないので、念話で頭に語りかけるのがものすごく疲れるからだそうです。

だから本当の姿は狐耳のかわいい女の子なのにその姿になってくれたのも二回しか見たことがありませんでした。

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「パパにおこづかい五百円もらったし、何を買おうかな?」

私はお金を一枚握りしめて、色々でている屋台を見て回りました。

そのうちに神社の隅の離れた暗がりにある一軒の屋台に気が付きました。

近寄ってみると、それはアメ屋さんのようでした。

色とりどりのおいしそうなアメが並べられています。

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「あら、お嬢ちゃんいらっしゃい、やっと一人目のお客さんね」

お店にいたのは赤紫のリボンが印象的な着物の女の人でした。

初めてのお客さんと言いましたが、神社には人がたくさんいたので不思議に思いました。

「ああ、このお店は小さい女の子にしか見えないようになってるから、お客はなかなか来ないのよ」

女の人に言っていることの意味が分からなかったので、私はそのままお店のアメを眺めました。

色とりどりのアメはどれもおいしそうで私は気になったものをいくつか尋ねてみました。

「このアメ、紅くてきれいですね」

「これはザクロ味の十年飴よ、十年なめ続けることができるわよ」

十年もなめ続けることができるとは冗談が好きな人だなあと思いました。

「じゃあ、この白い大きなアメは何味ですか?」

「これは豊乳飴といって、なめるとおっぱいが大きくなるアメよ」

なんだか子供だからからかわれているのかと思えてきました。

「じゃあ、とりあえずこの紅い十年飴をください、いくらですか?」

「お嬢ちゃんはかわいいから一つサービスであげるわよ」

女の人の物言いにちょっと気持ち悪いものを感じましたが、一つ味見させてくれるというのならと思い、お礼を言って赤い十年飴を一つ口の中に放り込みました。

それを見た女の人の口が半月状に気味悪く変化しました。

「ああ、そうそう、言い忘れたけど、その飴は十年間の間ずっとかみ砕いたらだめよ、呪いで死んじゃうから」

背中がぞっとするような冷たい笑みでした。

「もうすぐ、あなたの肉の一部となって吐き出せなくなるわよ」

私はその言葉を聞いてすぐにアメを吐き出そうとしましたが、金縛りにあったように体も口も動きませんでした。

そのとき、背中にリュックから何かの衝撃と音がはじけました。

そして、次の瞬間、目の前に狐耳の巫女装束を着た少女が降り立ちました。

きみちゃんと私は叫ぼうとしましたが、口も動かないので何も言葉を出すことができません。

きみちゃんはアメ屋の女の方ではなく、私の方を振り向くとそのまま頭を押さえながらくちびるを合わせてきました。

くちづけをされるのは初めてだったので、すごく驚きましたが、私にはきみちゃんのやわらかいくちびるの感触がなぜかとてもいとおしく思えて、全身にとろけるようなしびれが走りました。

きみちゃんの舌の先端が口の中に入ってきて、すこし甘い味のするさらさらした唾液が口の中に広がりました。

唾液の湿った音を立てながらきみちゃんは強引に私の口からアメを転がして吸い出しました。

そして、私の口から吸いだしたアメを自分の手に吐き出しました。

「なによ、あなた、どこから現れたの?」

アメ屋の女の人は突然現れたきみちゃんに狼狽しているようでした。

「まったく、一度私が滅してやったのに、性懲りもなくよみがえりやがって」

きみちゃんのその言葉を聞いて、女の人は何かに気づいたようでした。

「あっ、お、おまえは・・・むぐっ」

言い終わる前にきみちゃんの右手はアメを女の人の口の中にたたきつけていました。

ぐしゃっとアメか女の人の歯かは分かりませんが、何かの砕けた鈍い音がしました。

衝撃で女の人は口を押えてひざまづきました。

「これで飴をかみ砕いたのはお前になるな」

きみちゃんはにやついていました。

きみちゃんの言葉を聞いて、口をおさえた女の人は哀願するような目こちらに向けていましたが、とつぜんその身体に大きな亀裂が入りました。

「く、くそっ、こんなことになるなんて!

でも、これで終わりではないわよ!」

女の人に入った亀裂はどんどん広がっていましたが、さらに続けて絶叫しました。

「まばゆい美少女のあるところ、必ず暗い変態淑女の煩悩あり!

私は絶対にまたよみがえる、その時こそお前の魂を奪ってやるぞ!」

叫び終えると、女の人の体は砂のようにさらさらと砕けて散っていきました。

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女の人が消えて、私の体も動くようになっていました。

「な、なんだったの、あれは?」

「煩悩の塊が集まって生まれた妖怪、女の子をたぶらかして苦しむ姿や魂を集めて楽しんでるやつよ、前に一度退治したのに、よみがえってるなんてね」

また、妖怪に襲われているところを助けられたことと少女の姿に戻ったきみちゃんを見ることができたので少し感激していましたが、あることに気が付きました。

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「わ、わたし、きみちゃんにファーストキスを奪われちゃった」

「あ、そういや、そうね」

きみちゃんはすこし頬を染めてひどく複雑そうな表情をしました。

「・・・椎奈のはじめて、おいしくいただきました」

「そ、そこは女の子同士だとか人命救助だからノーカウントとかごまかしてよ!

・・・それに手を使って取り出してもよかったんじゃないの!」

「う~ん、さっきは飴の呪いが発動しかかってたからなあ、椎奈の命を救うためにたちまちこの方法しか思いつかなかったよ」

口惜しいですが、きみちゃんも必死になるぐらい危ない状態だったという雰囲気は伝わってきました。

そして、主のいなくなったアメの屋台を見ると、どろどろと闇の中に溶け込んで消えていっていました。

「なんかもったいないなあ、十年飴も味はおいしかったのに」

「あの飴はみんな何か効果がある代わりに代償を払わないといけない呪われたものばかりよ、闇の狭間に還った方がいい」

けど、一つだけ気になっていました。

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「・・・豊乳アメの代償は何だったんだろう」

「なんだ、おっぱいの大きさが気になるのか?」

「うん、たぶんママの体型を見たら私も将来は期待できないし・・・」

私のママのおっぱいはとても小さくて、手の平のくぼみほどあるかどうかというものでした。

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「おっぱいの大きさで女の魅力は変わってくるしねえ」

そう言うと、きみちゃんはまたはじけた音を立ててぬいぐるみに戻ってしまいました。

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「ちょっと! そこは女の魅力は胸の大きさじゃないよって慰めるところじゃないの!」

私はアメ屋さんが滅びたとき以上の悲痛な絶叫を上げました。

ぬいぐるみに戻ったきみちゃんはもちろん何も答えませんでした。

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おでん屋様、ご感想いつもありがとうございます。

私はお姉さん好きな傾向があるのですが、あくまで一般論としてですが、子供は可愛いですよね。
昨今の事件のせいで子供を愛でることすら怖がられるというのは気持ちはわかりますが、少々行き過ぎなところもあるのかなとも思います。
きみちゃんも椎奈も単純に可愛いと感じながらお話を楽しんでいただけると嬉しいです。

飴をあげてついてきた場合、社会から抹殺される恐れが強いと思われます。

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黒田様、コメントをありがとうございます。
なんだかこのシリーズの各キャラのやり取りは登場人物が勝手に動いてしまうので、私自身最後の掛け合いを読み直して確認してしまいました。
・・・うん、すごく嫌なこと言ってますね。

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怪談師様、あらためましておめでとうございます。
そして、もったいないコメントをありがとうございます。

私は怪談師様の作品から怪談の本流というものを再認識させられたとも感じています。
そのような受け継がれているものに怪談師様の独自の演出と物語が加わって皆により愛される作品へとなっていくのだと思います。
これからの怪談師様の作品を楽しみにしています。

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最後のツッコミ最高です!確かに女性は胸の大きさは気になりますからね♪

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