【重要なお知らせ】「怖話」サービス終了のご案内

長編15
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とんすう

大学二年の秋の話だ。

「おーいみっきー。あっそびーましょー。」

学校の帰り道、信号待ちをしていると大変懐かしい呼び名が聞こえた。

俺が小学生くらいの時に呼ばれてたあだ名と同じだ。

「おーい?みっきー。みっきーってばー。」

同じあだ名って結構いるよなーと、間も無く青に変わりそうな信号をぼんやり眺める。

「ちょっと!?みっきー!光輝くん!古賀くん!無視しないで!!」

必死な声ではたと気がつく。

呼ばれたのは俺だ。

声の主は右に止まる乗用車の中から叫んでいたようだ。

車にも、中の人にも多少見覚えがある。

「あ…ナズさん。」

「やっと気がついた!!おっさんはデリケートなんだぞ!」

彼は、以前書いた話…【ちょうだい】で、ワカさんを家に送り届けた後、車で俺を送ってくれたナズさん。

ワカさんの叔父さんだ。

ナズさんは叔父さん、と呼ばれる割にはまだ若い気がする。

お兄さんとおじさんの間って感じだ。

俺がナズさんに気がついた直後、信号が青に変わってしまった。

「まっすぐ行って左!ファミレス集合!」

ナズさんはそれだけ言い残し、車を発進させて行った。

 

***** 

 

 

「いやー悪いね!偶然見つけてテンション上がっちゃってさ!」

指定されたファミレスに着くと、ナズさんは車から降りて手をぶんぶんと降っていた。

そのままファミレスに連れ込まれ座らされる。

ナズさんは喋り方が結構ライトな感じだ。だからこそ更に〝叔父さん〟って感じがしない。

俺に確認した後、ナズさんはタバコに火をつけた。

何か食べるか聞かれ、特に腹は減ってなかったのでコーヒーを頼む。

ナズさんも同じ物を頼んだ。

「さて。」

注文が終わりナズさんが2本目のタバコに火をつけ、話を切り出す。

「みっきーはさ、うちの姪っ子ちゃんとどんな感じ?上手くいってる?」

上手くいってる…

まあ前に比べたら話せる様になったし…

毒舌に耐性もついてきたなー。

「それなりに仲良いと思います。」

「おお!そっかそっか!」

ナズさんはどこか上機嫌だ。

「いやー嬉しいね!おじちゃん嬉しいよ!ほら、あの子愛想悪いじゃない?友達も少ないし花の女子大生なのに女の子らしい事あんまりしないし!どこのカフェのスイーツが好きだのSNSに写真上げるだの可愛らしい恋バナだの全然しなくて!」

ナズさんはテンション高くにこやかに続ける。

「だからもう!彼氏お家に連れてくるなんて!やっと女の子らしくなって!おじちゃん浮かれちゃってさー!」

ああ、だからえらく嬉しそうなのか。

彼氏…彼氏?

「…ワカさんって彼氏いたんスか?」

初耳だ。

あの威圧感の強い毒舌の人に彼氏…相手はMか。

俺が言った瞬間、謎の間があった。

ナズさんがキョトン顏になる。

「…へ?」

「え?」

「みっきー…あの子の彼氏と違うのん…?」

目に見えて落胆した表情。

何故か関西弁。

そして恐ろしい勘違い。

「ち…違います。後輩です。」

「…。」

ナズさんがポロリとタバコを落とし。

「なんだぁぁああ!!がっかりぃぃい!!」

とてつもなくわかりやすく落ち込んだ。

ここまで来るといっそ清々しい。

ちなみに落ちたタバコは灰皿に着地している。

ナズさんがテーブルに突っ伏した直後店員さんがコーヒーを運んできた。ビクッと肩が震え引き気味にコーヒーをテーブルの端に置く。ほんとすみません。

店員さんがそそくさといなくなり、ナズさんが顔を上げる。

「なんだなんだー。おじちゃん勘違いー。でもうちの子かわいいでしょ?どう?だめ?」

「いや…それはワカさんにも選ぶ権利があると思うんで。」

ついでに俺にも選ぶ権利があるので。

大げさにがっかりした割にナズさんはケロッとした表情でコーヒーを啜る。

「まあそうねー。おじちゃんとしては、恋人でも出来てればあの子が変わったのかなーって安心できたんだけどね。」

「はあ。」

まあ確かに。

口は悪いし目つきも悪いし愛想も悪いし。

親類としては、目に見えた変化があれば安心できるものなんだろうか。

でも…いう程心配しなくてもいいような。

「大丈夫じゃないですか?」

「ん?」

「そらワカさん口悪かったりしますけど、(一応)友達もいるし、なんだかんだ面倒見いいし。」

俺は初め苦手意識が高かったけど、慣れたらいい人なんだってことはわかった。

俺のささやかなフォローを聞いて、ナズさんはふっと笑った。

「やっぱ俺はみっきー推しだなー。あの子も懐いてるみたいだしね。」

「?」

「ねえみっきー。怖い話って好き?」

ナズさんが微笑みながらコーヒーカップをソーサーに置く。

反して俺は、コーヒーを静かに啜った。

 

 

 

*****

 

 

 

ある夏の話。

その地域も世間の暦にのっとり、夏休みが始まっていた。

そこは田舎というには店や遊び場が多く、都会というには寂れている…そんな半端な地域だ。

だからこそ子供達には遊ぶ内容が多い。川に釣りに行き山で虫取りをする日があれば、ゲームセンターでお小遣いを消費したりする。

そんな遊びに事欠かない場所でも、子供たちは何かと珍しいことをしたがるものだ。

 

「なあ、今日肝試ししよーって話してんだ。お前らもくる?」

遊ぶために解放された小学校の校庭の一角で、そんな話が行われていた。

同じ小学五年生のグループだ。

「今日星見会があるじゃん?あれが終わったら帰ったふりして隠れて、学校に忍び込もうぜ。」

星見会というのは、自由参加の学校行事だ。

学校の先生と地域の大人が協力して、子供たちに星の話をしたり、実際に星座を見たりする。

この時代、さらにこの地域ではあまり過剰なものがなく、保護者が一緒でなくとも参加できるものだった。

「えー。でも子供だけで夜遊んだら怒られるよー。」

「だから今日なんだろ。大丈夫だって。星見会が長引いたとか、ちょっと喋りすぎて遅くなったとか言えば!」

「私お母さんがいいっていったら行く。」

「ばか!オレたちが行くのもばれるだろ!行くやつも行かないやつも聞いたからには連帯責任だぞ!大人には内緒だ!」

大人には内緒。ばれたら怒られるような悪いこと。

そんなものがこの年頃の子供たちには楽しいことになる。

だがやはり、踏み出せない子供も多くいるものだ。

結局参加することになったのは、言い出しっぺのケンヤ、その親友のダイチとユウジ。そして。

「私も行きたいなあ。ねえ、ミオちゃんも行こうよー。」

「えー?」

「楽しそうだもん大丈夫だよ。」

「でも怒られたくないし…」

「ばれなかったらいいじゃん!私たち友達でしょ?」

「…うん。」

「じゃあ決まり!」

「え。」

あまり乗り気ではないミオと、参加したいが女の子一人なのは嫌だったユリだ。

ユリとミオは友達同士だが関係はユリの方が少し上だった。大体気の強い方が主導権を握るものだ。

子供たちの作戦会議は楽し気に行われ、一度家に帰った後学校に集合となった。

まずは星見会が終わらなければいけない。

行事は滞りなく行われ、肝試しメンバーは早く終わらせたい事もあり熱心に参加していた。

大体予定通りに終わり、参加者には駄菓子が入った袋が手渡される。これを目当てに参加する子供も少なくない。

教師や地域の人たちが見送る中、一行は帰るふりをして学校の外から様子をうかがう。

しばらく校庭で話し込んでいた大人たちも、少しずつ姿を消していった。

「まだかよー。おっせーな。」

「もう少しだ。我慢しろ。」

大人がなかなかいなくならずケンヤが呟き、ダイチがたしなめる。

「なあ、お前ら、“とんすう”ってしってる?」

暇になってきたのか、そう言いだしたのはユウジだった。

「知らない。なにそれ?」

すかさずユリが食いつく。

興味を持たれて嬉しいのか、ユウジは楽しそうに話し出した。

「昔、オレらの学校に出たらしいよ。兄貴が言ってた。」

「お化け?」

「たぶんな。三階に音楽室があるだろ?そこであることを言うと出るらしい。」

「あることって?」

ユリが尋ねると、ユウジは歌うように言い出した。

 

 

 

みんなでいっしょにあそびましょう

あなたもいっしょにあそびましょう

おともだちになりましょう

そのしるしにはんぶんあげる

わたしのをはんぶんあげる

おともだちだからはんぶんあげる

だからいっしょにあそびましょう

 

 

 

「半分ってなにを?」

「さあ?しらね。」

「とんすうって変な名前だな。」

「あーなんか、そいつが出ると“とん、すう、とん、すう”って音がするらしい。」

「なにそれ鳴き声?こわくねー!」

暇つぶし程度の怪談話。

それが終わった後、大人たちがいなくなった事に気が付いた。

「よし、いこう!」

ケンヤの声を合図に、全員が動き出した。

 

 

 

***** 

 

 

まずどうやって学校に入るか。

それは悩む間もなく解決した。

一階の廊下にある掃除用具ロッカーの裏にある窓の鍵を、あらかじめケンヤが開けていたのだ。

ロッカーは鍵の部分を含め窓の右半分が隠れるほどの横幅があり、窓を開けてしまえば左側には子供が余裕で通れるスペースがあった。

ロッカーで隠れているし、普段締まっている鍵なので気づかれなかったようだ。

こそこそと学校に忍び込む。

みんな星見会で使うと言って家から持ってきた懐中電灯を照らした。

外に明かりが漏れないようなるべく下向きに。固まって行動する。

初めはそれなりに怖がっていた一行だったが、慣れてくるにつれて次第に怖さは引いていった。

それもそうだ。暗いだけで怪しい足音はしない。理科室に動く人体模型はいない。図書室には鍵が掛かっていた。保健室で怪しい実験は行われていないし、トイレに花子さんはいなかった。

一階、二階と見て回り、とうとう最上階の三階にやってきた。

「結局七不思議なんかうそなんだなー。」

「体育館は見てないけど、音楽室のピアノも聞こえないねー。」

子供たちが音楽室に到着する。音楽室も、図書室と同じく鍵が掛かっていた。

「なんもなしか。帰ろうぜ。あんまり遅いと親にばれるかも。」

「そうだな。」

「あ、そうだ。最後にあれやらねえ?」

皆が帰ろうと来た道を歩き出した時、お化けが見られず人一倍残念がっていたケンヤが言う。

「あれって?」

「ほら、お前がさっき言ってただろ?とんすうのやつ!」

「ああ!あれか。」

全員が思い出し、再び音楽室の前の扉に集まる。

「どうせ出ないと思うけどな。」

「やるだけやろうぜ。」

半信半疑のまま、ユウジに先ほどの言葉を確認して、全員で言った。

 

 

みんなでいっしょにあそびましょう

あなたもいっしょにあそびましょう

おともだちになりましょう

そのしるしにはんぶんあげる

わたしのをはんぶんあげる

おともだちだからはんぶんあげる

だからいっしょにあそびましょう

 

 

言い終わり、皆が皆の顔を伺う。

一秒

二秒

三秒…

 

 

「ほら、なんもおきねーじゃん。」

口を開いたのはダイチだった。

皆少しだけ変化がないか様子を伺っていたが、なにも起こらない。

 

「しゃあないな。帰ろう。」

そう言って下に降りる階段に向かった時だった。

 

 

 

…ぺちん

 

するする

 

…ぺちん

 

するする…

 

 

  

「え?」

さっきまでいた、音楽室の方から音がする。

 

 

 

…ぺちん

 

するする 

 

…ぺちん

 

するする…

 

 

「ねえ…なに」

なに、あれ。

そうつぶやいたのは、誰かはわからなかった。

皆、思考が止まっていた。

 

突き当りに音楽室のある、廊下の闇。

誰かが照らす懐中電灯の光に、それは照らされていた。

 

廊下に突っ伏して倒れる様な体。

黒髪に覆われた顔。

それは

手を伸ばし、廊下を叩き

手の力で身を引く

手を伸ばしてはまた廊下を叩き

そしてまた、手の力で身を引く。

 

廊下に手を当てるぺちんという音。

身を引いたことで、服がすれるするするという音。

手の力だけで這いずってこちらに寄ってくるそれには

 

足が、無かった

 

ぺちん

するする

ぺちん

するする

 

繰り返し音を立ててある程度近付いてきたそれは

ゆっくりと顔をあげ

にたり…と、子供たちに笑いかけた。

 

「わああああああ!!」

「きゃああああ!!」

子供たちは悲鳴を上げ、階段を駆け下りていく。

誰も、互いの事を気遣ってはいられなかった。

声を掛け合う事もなく、出口に向かって走っていった。

「きゃあ!」

「!ユリちゃん!!」

一階に降りきってすぐ、ユリが躓いて転んだ。

懐中電灯がカラカラと音を立てて転がる。

「痛い!足が…」

転んで、足を挫いたらしい。

だが、もうすでに男の子たちは見えなくなってしまった。

なんとかミオはユリをささえ、近くの教室に逃げ込んだ。

窓の付近にユリを座らせ、自分の持っていた懐中電灯のスイッチをきる。

あれが、とんすうなのだろうか。

あれは足がなかったせいか、素早く追ってくる気配はない。

でも、このままここにいるわけには…

 

「…ユリちゃん、私助けを呼んでくる。教室の鍵を閉めて窓からでれば…」

「嫌!そうやって自分だけ逃げるの!?」

「そうじゃなくて…このままじゃどうしようもないでしょう?」

確かにここにユリ一人残るのは心細いだろう。

でも一階とはいえ、ユリを抱えて窓から出るのはミオ一人には不可能だ。

廊下に出て昇降口に向かうのも時間がかかる…もしまた、あれがきたら。

「絶対戻るから…急がないと…」

「嫌よ!ミオちゃんがどうにかしてよ!」

「どうにかって…」

「私ケガしてるんだよ!あれが来ても逃げられないんだよ!ミオちゃんがあれどうにかしてよ!」

ユリの言い分は無茶苦茶だった。

恐怖に追い込まれた子供だ…無理もないだろう。

「友達でしょ!?」

ユリに凄まれ、ミオは困り果てた。

ユリがパニックな分、冷静な部分があり…

「…。」

なにか、不思議な感覚に陥った。

 

「ひっ…!」

 

ミオがぼうっとユリを見ていると、ユリがひきつった声を上げる。

ガタガタと震えるユリの視線を追うと、それはいた。

いつの間にやら、音もなく戸を開いていたそれは相変わらずニタニタ笑いながら近づいてくる。

同じ音を立て、ゆっくりと。

それに加えて。

『ハンブン…ハンブン…』

そう、呟いていた。

「やだ…ミオちゃん…」

怯えるユリを、もうミオは見ていなかった。

すっと立ち上がり、それに近付く。

「…半分、ほしいの?」

それの近くに自ら近寄り、しゃがみ込む。

「ごめんね。半分あげられそうなもの、今はこれしかないの。」

そう言って、先ほど星見会でもらったお菓子を適当な種類、半分ほどそれの前に置いた。

ミオは実際直感で、これが言っている“半分”は、“足一本”の事だと思ったらしい。

「さっき言ったもんね、友達になりましょうって。そのしるしにそれを上げる。でも足はダメ。足がなくなったら遊びに来られなくなっちゃうから。」

静かに言うミオに、それは満足したようで、嬉しそうに両手でお菓子を抱えた。

『トモダチ…トモダチ…アリガト。』

それはそう言ってすう…っと消えて行った。

 

しばらくすると、大勢の足音が聞こえてきた。

先に逃げた男の子たちが呼んだ大人だった。

ユリの落とした懐中電灯の光を見つけて、すぐにここがわかったらしい。

大人が来て安心したのか、ユリは泣き崩れながら

「ミオちゃんありがとう…ありがとう…ごめんね…!」

そうミオに言い。

「いいよ。友達なんでしょ。」

ミオはそう返した…が、

その言い方と表情は、物事が解決してにこやかなものというより

仕方がないこと、しょうがないこと。そんな、物言いだった。

 

 

*****

 

 

無事みんなが帰宅し、怒られ、すべてが日常に戻ったと思ったが、あることが起きた。

夜な夜な、ある頻度で、ミオが家を抜け出すようになったのだ。

何度言ってもいう事を聞かず…行先は決まって学校だ。

事情を聞くと彼女は

「友達だから。」

「約束したから。」

と、やはり“しょうがないこと”と言った口調で述べた。

ミオはあの日学校で出来た“友達”に、会いに行っているのだという。

あの夜子供たちに起きたことを、大人は信じてはくれなかった。

夜の怖さに幻覚を見たのだと。

更にミオは自分が考えた解決策で自己暗示にかかっているのだと。

説き伏せ、叱り、病院にも行ったが、ミオは治らない。

そんな中、彼女の叔父だけはミオの話をしっかりと聞いてやった。

聞いた上で、提案した。

 

「なあミオ。おじちゃんの家にお引越ししようか。」

「なんで?」

「おじちゃんが一人で寂しいからだよ。」

「…でも、友達とお別れしないと。」

「そうだね。おじちゃんの家から今の小学校にはいけないから。でもお願いだよミオ。駄目かな?」

「…いいよ。別に。」

「そうか、ありがとう。じゃあ今日の夜にでも、お友達にお別れしに行こうか。」

「…うん。」

そう言って、叔父はミオと夜の小学校に出向いた。

ミオは音楽室の前に立つと、何かと話しているようだった。

引っ越すことになった事。

お別れに来たという事。

話を終え、持ってきたお菓子を足元に置いた。

「わかってくれた。かえろうおじちゃん。」

「うん。帰ろうか。」

ミオの手を引き、叔父は歩きながら先ほどミオがお菓子を置いた場所を見た。

なぜか、すでにお菓子は消えていた。

 

 

*****

 

 

「ミオのご両親はミオに大分手を焼いていたみたいで、叔父…まあ父親の弟の事だけど。その提案を許して引っ越しをさせた。それでミオの精神が安定するならってね。」

コーヒーカップを握ったまま、俺はナズさんの話に聞き入ってしまっていた。

「結果で言うと…ミオの奇行は治った。引っ越した先の小学校で夜に忍び込んだりはしなかったよ。でも、未だに叔父の家で暮らしている。」

「…どうして?」

「地元じゃ、有名になっちまった。一緒に肝試しをした子供たちはミオが取り憑かれたんだと騒いで、大人たちはミオが精神を病んだんだと噂した。ミオの為にも、両親はこちらに戻ってこない方がいいと、判断した。」

すっかり冷めたコーヒーカップを握りしめた。

皮肉な話じゃないか。

大人に信じてもらえないのはしょうがないかもしれないけど…

一緒に怖い目に遭って、なおかつ逃げるために助けた子まで、彼女を受け入れてあげなかったのか。

「…それは、ワカさんの話なんですか。」

「…さあね。ただの怖い話だよ。」

そこまで話して、ナズさんはしらばっくれた。

さすがの俺も…これがワカさんの話なのだという事は、察している。

俺が黙り込むと、ナズさんがふっと笑う声が聞こえた。

「やっぱり俺はみっきー推しだよ。」

「…なんスかそれ。」

「君は置いて逃げなかったんだろう。」

そういわれ、なんの事なのかピンと来なかった。

「肝試し。君は逃げなかったんだろ?あの子を置いて。この間の事もそうだ。君はあの子を見捨てなかった。」

ナズさんはにこやかなのに、その声色は真剣で、俺は黙った。

肝試し…俺とワカさんが初めてまともに関わった時の事だろう。

確かに逃げはしなかった…助けた訳ではないけれど。

「…まあ。」

「俺には、それだけで十分なんだよ。…あの子にとって“友達”は“助けるもの”。なぜか無意志に暗示が掛かっている感じだ。俺の持論だけど、“友達”じゃ駄目なんだよ。それなら恋人かなーって思ったけど…後輩か。ま、それもまたいいのかもな。」

ナズさんは冷めたコーヒーを煽る。

ワカさんが時折言う

“友達だから”

という言葉。

彼女は友達に対してやさしい…んだと思う。

でもそれは、本心ではなくて…

彼女自身の暗示なのか。

なんだか“呪い”みたいだ。

俺が考え込んでいるとコーヒーを飲み終わったナズさんがそういえば、と呟く。

「この怖い話、後日談があってさ…肝試しのメンバーはミオちゃん以外、足を怪我することが多くなったらしい。」

「え…?どうして。」

「“叔父さん”はいろいろと調べた。“とんすう”っていうのは、昔小学校が木造の頃から噂されていたお化けで、廊下が木造だった時には『とん、すー』って音で追いかけてきたみたいだ。小学校が改装したことで音が変わったんだな。んで、ミオちゃんが察していたように、片足を要求してくるんだと。」

「なんでそんなものが学校に?」

「それについてはいろんな話がありすぎてどれが真実かわからなかったらしい。戦争で足をなくした子とか、事故で亡くしたとかな。」

「なるほど…。」

「で、話は戻るけど…とんすうは両足がなく、片方よこせと言ってくる。今回誰も足は上げていない。過去にあげたやつがいるのかも知らんがな。」

「でもそれはその…ミオちゃんも同じじゃ…。」

「そう。でもミオちゃんは、足の代わりにお菓子を上げたんだ。半分な。」

「それが、代わりに?」

「恐らくな。そして…ほかの子は、何も上げていないんだ。」

かちゃん、と、ナズさんはコーヒーカップを置く。

「だから今も…もらおうとしているのかもな。友達のしるしに、半分。」

ナズさんは意地悪く笑った。

どこか…その顔はワカさんに似ている。

話にぞっとする反面、小さくざまあみろだよ、と呟くナズさんにも…ぞっとした。

でも俺には、この人に怯える資格などないのかもしれない。

俺も一瞬ではあるが…自業自得だと、思ってしまったからだ。

Concrete
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むぅさん
コメントありがとうございます。
今後も楽しんで頂けるよう頑張っていきたいです!
俺のあだ名はハハッの方ではありませんでした(笑)
子供向けキャラクターで好きなのは、頭に乗せたアンパンを食わせようとしてくる彼です。

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はとさん
こんばんは。コメントありがとうございます。
幽霊も元を辿れば人間ですし、結局は人間が一番怖いのかもしれません。
そして冷静な考えを持てる大人だからこそ、子供が不可解な事を言っているんだとしても耳を傾けてやってほしいですね。偉そうには言えませんが、俺はなるべくそうありたいです。

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