この夏、10年ぶりに4歳になる姪っ子を連れて熊本へと帰省した。
抜ける様な青空に川のせせらぎ、一面に広がる田園風景、全てが変わらずに懐かしい。
満面の笑みで迎えてくれた祖父母の顔には深い皺が記憶よりも多く刻まれており、妙に刻の経過を実感してしまった。
「ほんに、遠いところをご苦労さんじゃったの。ほれリンや、お爺ちゃんに抱っこさせておくれ」
両手を差し出す祖父に、姪は明らかに動揺している。
「ほれ、どうした?」
「やだ!」
姪が堪り兼ねて泣き始めたので、仕方なく手を引いて奥の広間へと移動した。
高そうな絨毯の上に荷物を置き、姪と並んでソファに腰を下ろした。
「ほらリン、あれ見てみな」
障子の上段に飾られた写真を見上げたリンは、あっと声を上げた。
「あれはお前のひいお爺ちゃんだよ。お前が生まれた翌年に病気で亡くなったんだ」
写真の中の祖父は先ほど見せた悲しい表情ではなく、俺の知っている何処までも人懐っこい、優しい笑顔だった。
「お爺ちゃんな、リンに会いたい会いたいってずっとお婆ちゃんに言ってたんだってさ」
祖母が大皿に乗った果物を持ってきて、俺たちの向かいに腰を下ろした。
「ささ、喉が渇いたじゃろ?お爺ちゃんが大好きだった梨じゃ。リンちゃんは食べれるかの?」
リンは黙って祖父の遺影から目を離さなかった。
【了】
作者ロビンⓂ︎
こより様、この度はアワード受賞おめでとう御座います!