携帯が鳴っている…
霊感の強い母からだ。
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俺『もしもし?』
母『あんた最近体調大丈夫?』
俺『うん?特になんもないけど…』
母『あ、そ。じゃ来月に実家の井戸のお祓いするから休み取っといて』
俺『あ〜はいはい』
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と電話を切る。
流石に30年も親子をしてればその辺は慣れたものだ。
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取り敢えず休みを申請しその日に備える。
勿論理由は適当にでっち上げだ。
こんな事正直に話したら俺の居ない間に短編小説一冊分の噂話が出来上がる事だろう。
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後日母に理由を聞くとこういう事らしい…
⚪︎母の足に原因不明の内出血が現れ、大学病院の医師にも原因が判らず病理検査をさせてほしいとの事
⚪︎妹が突然鼻血を出す様になり、急いで耳鼻科向かうが到着する頃には止まっている為原因が判らず
⚪︎両方共血液に関する事だから血液=龍神様=井戸
という結果になるそうだ。
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当日実家に戻ると地元の神主さんが忙しなく準備を始めていた。
築100年を越える昔ながらの平屋だ。改めて眺めるとなかなか趣があり懐かしくもある。
その実家には日常的に使っている井戸と過去に使っていて使わなくなった井戸がある。そのどちらかが正解だろう。
そして準備を終えた神主さんと問題の井戸へ向かう。
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まずは普段使ってる井戸からだ。
井戸の前で神主さんが暫く目を閉じ瞑想をしたかと思った矢先
神主『これじゃないですね』
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どうやら2分の1を外した様だ。
そしてもう1つの問題の井戸へ向かう。
又同じ様に神主さんが暫く目を閉じ瞑想をする。
すると思わぬ言葉が出て来た。
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神主『この家にある井戸はこれだけですか?』
母『はい。』
神主『おかしいな…この井戸でもない様なんですが』
と言われてもこれ以上この家に井戸はない…筈。
というか一般的に井戸ってそんなに何個もある物なのか?などと考えてた所に近くに新しく建てた家にいた祖母がやって来た。
祖母『なんがでっきょんな?』
訳すとどうしたの?の意だ。
方言という物は活字にするとなんとも奇妙な感じになるので以後は省く。
その丁度良い所に来た祖母に他に井戸がないか母が尋ねてみる。
祖母は暫く考え込んでいたが遠い記憶からなにかを思い出した様で
祖母『そう言えば納屋の台所に姉が勝手が悪いという理由で掘った井戸があった気がする』と、言うのだ。
その納屋は今は使っておらず物置きとなっている。
昔ながらの薪で調理するかまどがある台所の事だ。
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早速その納屋へ向かうが日中にもかかわらずとても暗かった。
照明も裸電球1つのみ。
昔は普通に遊び場として使っていたが今となってはなんとも気味が悪い。
すると先頭を行く祖母がここがそうだと指を指す。
その先は丁度押入れの下段のみの大きさ位の窪みがあり、工具やら使わなくなった物が山積みになっていた。
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言われてみれば確かにいきなり壁に現れるその窪みには不自然さがある。
その向かい側が丁度かまどがある台所だから確かにここなら勝手が良い。
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早速全員でその工具やらを取り除くと何枚かの板で底が作られていた。
本当にここなのか?などと話しながらその板を1枚ずつ剥がして行くとそこに…
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その井戸が顔を現した。
その途端、誰も言葉を発せず静寂の時が一同を飲み込む。
その静寂の中、ため息まじりに言葉を絞り出すかの様に神主さんが呟いた。
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神主『あぁ……これ、ですね…』
ですよね?
霊感ゼロの俺でも分かりますよ。
某映画に出てくるこのいかにもな井戸の佇まいを見たら…それ以外の答えが俺には見つかりません。
と言うか目を閉じたり瞑想の下りはどこいった?
と、それはともかく無事?問題の井戸が見つかった為準備にとりかかる。
なにやら井戸を埋める際の一通りの手順を無視してたらしく(水神様が空気を吸える様に管を通してなかったとか)それを今からやるらしい。
その間に俺は丁度良い話のネタができたとばかりに携帯で写メを撮っていた。
しかし、あまりの暗さが原因なのかフラッシュを焚いてもなかなかピントが合わない。
と、色々苦労してると突然
shake
母『あんたなにしてんの!』
といきなり背後から怒鳴られビクッとする。
ちょっとこの状況でその行動はご勘弁願いたい。
俺『いや、いかにもな井戸だから話のネタに写メを…』
母『すぐやめなさい』
普段声を荒げる事がない母のその様子に俺はすぐに従った。
そして一通りお祓いが進み二礼二拍手一礼で全てが終わる。
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翌日帰った俺はこの見事なまでの土産話を一通りの友人にして回った。特に井戸の写メはインパクト抜群で反応が良かった。
しかしその中の1人、天然キャラの女の子にこの話をして写メを見せた時である。
怖がる事を期待してたがどうにも反応が悪い。
あれ?ちょっとリアル過ぎて引いちゃったかなと反省していると…
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女の子『これ写ってるんだけど…ここ…』
とか言ってきた。
俺『またまたぁ〜(笑)』
こちとら散々人に話した挙句、何度もその写メを見てる訳で…
さてはドッキリを仕掛けてきてるのか?
などと考えながら彼女が言う場所をまじまじと見るがやはりただの暗闇だ。
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俺『ここ?なにが写ってるの?』
女の子『え?……着物きた…おかっぱ頭の女の子…』
言われるがままその場所を再度凝視する。
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!!!!!
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今まで暗闇にしか見えてなかったソレがそう言われた途端、輪郭が明確になり俺の眼に飛び込む。
確かに白い着物を着たおかっぱ頭の女の子がそこには居た。
俺『マジか…』
たまたま陰影の感じでそう見えるのかもしれない。
だが一度そう見えてしまったらソレ以外の何者でもない。
急いで母に電話をする。
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俺『あ、おかん?こないだ撮ってた井戸の写メなんやけどな…』
母『あぁ。携帯でも撮れた?』
俺『はい?携帯でも?』
母『白い着物を着たおかっぱ頭の女の子やろ?』
最早流石としか言いようがない話の早さだ。
耐性がある俺ですらも置いていかれてしまった。
何故か負けじと冷静を装う。
俺『お、、おう、それそれ。で、これどうしよう?』
母『特になんかある訳じゃないしそのままでいいんじゃない?』
俺『え?そんなもんなん??』
母『あ、今出かけるところだから切るわ』
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呆気なく電話を切られてしまった…拍子抜けもいいとこである。
この様子を見ていた女の子にも、そのあまりにも的確で短いやり取りに内容が分かったらしく苦笑いをしていた。
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そんな事があった一週間後、母からの不在着信があった。
うん。嫌な予感しかしない…
こうなると不在着信ではなく不幸着信だ。
折り返し話を聞いてみると、どうやらあの電話をした夜から家でラップ音が絶えなくなったらしい。
なので近くの神社に行ってその写メを開き、すみませんでしたと謝り、二礼二拍手一礼をして消してくれ。うるさくて寝不足だとの苦情だった。
つかよく一週間もラップ音の主と同居できるものだ。
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そして言われた通り神社に行き写メを消した。
すると翌日からラップ音は鳴らなくなったそうだ。
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そんなこんなで原因不明の病気も治り平穏な日々が訪れた。
でもこんな事でも久し振りに実家に帰ればそれなりに懐かく思えたのか、幼少期の事とかを思い出す様になった。
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そう言えば子供の頃お風呂入るのに小遣い目当てで薪で風呂を沸かしてたなとか
入浴中にミシッ、パキッって音が浴室に響いていた事とか…
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ん?ひょっとするとあれがラップ音という物だったのか?
その事を母に話すと古い家だからただの家鳴りだとか言われていたが…
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shake
そこで気付いてしまった…
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そのお風呂場の隣は納屋であり、例の井戸が隣接してる事に…
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どうやら霊感の強い母に丸め込められてたようだ。
作者ハロサン