中編4
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滑れない滑り台を滑る話

ここに、一台の遊具…滑り台がある。

見た目、何処にでもある滑り台だ。

所々赤錆が見え隠れしているが、子供が使用するぶんには、まだまだ現役だろう。

だが、今、この滑り台は本来の使用目的を全うすることはない。

滅多に人の立ち入る事のない倉庫の片隅で、鎖で縛られて保管され、使用ができない状態になっている。

何故、この滑り台はこのような状態で放置されているのか?

…。

理由は一つ。

曰く付き、だからである。

つまり、この滑り台で過去に、不幸な事故があったのだ。

数年前の事である。

幼い男の子が、この滑り台で遊んでいる最中に事故に遭った。

一人で遊んでいた男の子は病院に搬送されたが、手当が遅れ助からず、その幼い命を突然に失う事となった。

以来、この滑り台では不可思議な事故が多くみられている。

中でも特に多い事故が、

…行方不明である。

行方不明を事故と呼ぶか否かは、取り敢えず置いていく。

ともかく、この滑り台を使用した人間は、一切痕跡を残さず…、消えてしまうのだ。

消えるのは、子供だけではない。

曰く付きの滑り台に興味本位で近付いた大人達も、消えているのだ、

消えた人達は、いったい何処に行ってしまうのであろうか?

こんな噂がある。

この滑り台を『ある一定の条件』で使用した人間は、男女年齢問わず、

…異次元空間に吸い込まれるのだと。

この滑り台が撤去される一年前の事である。

ある男性が、好奇心でこの滑り台を見に来た。

何人もの人間を異次元空間に吸い込むなど言う噂のある滑り台とは、どんなものなのだろうか?

興味本位で滑り台に近付く男。

見た感じは、なんて事の無い普通に遊具だった。

この滑り台で遊んだ数人の子供や人間が消え去ったなんて、全く信じられない。

男は何気無く、滑り台の梯子を登り、何気無い動作で、金属板の斜面を滑り降りた。

この時、男は偶然『ある一定の条件』を満たしてしまった。

斜面を滑り降り、地面に着くまでの長さは2m半。滑り降りる時間は3秒程だろう。

その僅かな距離と時間の狭間で、男の体は、この世から消え去った。

…。

「何処だここは!!」

突然に闇に包まれた男は叫び声を上げる。

おかしい。男は確か、滑り台を滑り降りていた筈だ。

だが、ここは何処だ?

何も見え無い。真っ暗だ。

男は自分の横や上側に向かって手を伸ばす。

だが、その手は伸ばし切れずに壁に遮られる。

凄く小さいトンネルの中に閉じ込められているのだ。

体育座りのような姿勢のまま、足を伸ばす事もでき無い。

真っ暗で見えないが、足の先には何か歪な形のものが塞いでいて、窮屈な姿勢のまま身動きすら難しい。

男は深呼吸をして、周囲の様子を探る。

頭や手を動かすゆとりも無いし、前にも動け無い。

臀部の接する地面は金属の斜面であり、後方に下がる事も難しい。

つまり、自分は、滑り台を降りる最中に、細長いトンネルに移動し、その途中に、

詰 ま っ て い る、

事になる。

周囲の壁はザラつき、土なのか金属なのかすら、把握できない。

なんとか身を動かし、脱出できないかと男はもがく。

が、掴むもの一つないこの場所では、後方に戻るのは難しい。男の指が虚しく金属の斜面を擦る。

では、前方はどうだろうか?

男は自分の足を動かして、トンネルの先にある歪な形の物体を突く。

だが足の先の物体はビクともしない。

その時、男は、その物体の一部分が大きく飛び出ている事に気付いた。

飛び出ている部分は円形で、…サッカーボール程のサイズだろうか?

男はその突起物を強く蹴飛ばす。

柔らかいような、硬いような、奇妙な感触が男の足に伝わる。

男は更に強く突起物を何度も蹴飛ばす。

ガツンガツンと。

ボキリと青竹を砕くような音が聞こえ、突起物が折れた。

だが、突起物の根本は外れていないのか、ブラブラとしたまま本体にぶら下がっているようだった。

男は、身を捩って股の間からなんとか手を伸ばして、その丸い突起物に触れてみた。

ゴリゴリとした、毛むくじゃらの円形の物体が男の手に触れた。

毛むくじゃらの物体が、男の手に触れた。

手に、触れた、毛む、く、じゃら、の…

「うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

「だ、出してくれ!! ここからすぐに!! 出してくれ!!」

「嫌だ!! いますぐ、ここから、出してくれーーーーーーーーーーーーーー!!」

その時、

毛むくじゃらの球体の眼が、開いた。

暗闇に写る、真っ暗な二つの瞳。

その双眸が男を凝視する。

更に、その下で、

更に更に、その下で、

更に更に更に、その下で、

数え切れない程の数の瞳が次々に開いて、男を見上げる。

その時、男は悟った。

自分が、何に、『詰まっていた』かを。

それが、行方不明になった人達の末路である事を。

そして、この先の自分の行く末を。

「あ、あ、あぁ」

ゴキン!!

突然、男の体に強い衝撃が奔る。

男の上方から、何かが降ってきたのだ。

『それ』は、叫び声を上げる。

「出してくれ!! ここは何処だ!」と。

『それ』は何度も何度も、男を蹴飛ばした。

ガツンガツンと。

やめてくれやめてくれ

だが、男の声は届かない。

ただ、半狂乱に自分を蹴飛ばす『それ』を、睨み続けるしかなかった。

男 「達」の 耳 元 で 声 が 聞 こ え た 。

ね ぇ 、

も っと 、遊 ぼ ?

Concrete
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