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中編4
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ヨウカイ

えっちゃんは幸せだった。

友達のなっちゃんといつも一緒だったから。

小さな自分達にとってただ広いだけの何もないこの世界で、えっちゃんには、なっちゃんだけがいた。

えっちゃんはいつだってなっちゃんと手を繋いで、ずっと一緒だった。

なっちゃんが伸ばした両手をえっちゃんが握る。一人っきりでは無く、手を繋いでいる方が、二人は安定していた。

二人はこの世界がどんなに退屈でも、お互いが居ればそれでよかった。

外の景色は透明な壁に囲まれ、いびつに歪んでいる。

そのぐにゃりとした壁の外の世界を眺めては、そこから見える外の物体が、どんな形に見えたのか笑い合いながら話した。

切り取られたように、そこだけぽっかりと空いた天頂を見上げる。

少しだけ見えるはっきりとした景色に、繋いだままの小さな手を伸ばしてみた。

夢の中みたいなぼやけた空間からそこだけがはっきりと現実で、もし手が届くのならば、えっちゃんはなっちゃんと外へ出たかった。

この部屋の外から入る光は、やけに白っぽくて温かみが無い。

繋がったその手と手の間の温もりだけが二人にとっての全てだった。

そして彼女たちはこの幸せがずっと続く事だけを考えていた。

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「ねえ、あの影。」

なっちゃんが声を掛ける。

「どうしたの。」

「なんだか近づいて来てないかな。」

えっちゃんはなっちゃんが示す方を見つめた。

その影は大きな体を歩かせて、ずんずんと近づいてきていた。

「ホントだ、こっちに来てるっ」

たった数秒のうちに、規格外にでかいそいつがこちらの方へグイと近づく。

その巨体がかがむと、ぐにゃりと歪んだ顔が透明な壁いっぱいに映し出される。

「こわいよ、えっちゃん......」

なっちゃんが恐怖で身体を震わせる。

えっちゃんは怯える友達を励ますように、繋いでいる手に力を込めた。

「...大丈夫、大丈夫だよ。」

しかし、そう言うえっちゃんの声も震えてしまっている。

外からこちらを覗く歪んだ巨体は、かがんだ体勢から立ち上がったのか、気味の悪い顔を上の方へとスライドさせ、くるりと怯える二人に背を向けた。

そして、端の方から透明な容器を掴みあげると、その容器を、二人を囲む空間のぽっかりと空いた天井まで持っていき、逆さまに傾ける。

容器の中には透明な液体が入っていた。

何の変哲もないただの透明な液体...

しかしそれが二人のすぐ近くまで迫ったとき、彼女たちはその正体を知り悲鳴を上げた。

透明な液体はこちらに近づくごとに、それが気味の悪い生き物の集団であることが分かった。そして透明だと思っていたその色が、奴らの色に取ってかわって見える。

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容器の中にあったもの、それは”ヒヒオ”だった。

“ヒヒオ”は、頬がこけていて青白く、髪の毛が無い。

どんな光りが吸い込まれ、が落ち窪んだ様な眼がくっ付いているその頭には、首や胴体というものが付いておらず、骨格が出っ張ったエラのあたりから一対のミイラのような小さな子供の腕が生えている。

青白い頭はサッカーボール程の大きさなのに、その腕は不釣り合いに小さく、鬱血したような赤紫色をしていた。

そんな奴らが文字通り津波のようになって二人を飲み込む。

「いやぁ、いやぁ!」

“ヒヒオ”が逃げ場のない壁に閉ざされたこの空間に満たされ、なっちゃんがパニックに陥った。

ブンブンと暴れるなっちゃんが離れないように、えっちゃんは必死に繋いだ手を握り締める。しかし、まるで磁石の違う極同士引き合うように、二人はそれぞれヒヒオに吸い寄せられ、離された。

するりと解けた手を、ヒヒオが粘つく口を開いて噛みついてきた。先ほどまで温もりを感じていた手に泥水に突っ込んだような冷たさと嫌悪感が伝わる。

そして脇腹を、つま先を、鎖骨を、頬を、次々とヒヒオがえっちゃんを噛みつく。石膏のように固い歯の奥でぬめりと動く舌が気持ち悪い。

目の前で無数のヒヒオがひしめき合い、その奥でなっちゃんの身体が見えるが、その体にはやはりヒヒオが纏わり付いている。

細くつたないなっちゃん体に、赤子の腕のみたいに短くかさぶたに覆われたようにがさがさとしたヒヒオの双腕が、縋りつくように、撫でるように、嬲るように、ヒヒオ達が群がる。

何層にも重なったヒヒオ達が上にも下にも溢れていて、彼女らはその流動に抗う事が出来ずに流され続けた。

ずっとこのまま、二人仲良く手を繋ぐことはもう無いだろう。

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深い絶望に溺れ、ぐわりぐわりとたゆたう二人を、歪んだ巨人が見つめて笑っていた。

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ふたば殿の頭の良さに感心致しました(-̀ω-́ ;)
発想と転換が凄過ぎですな。
ある意味騙されましたぞ(๑¯ω¯๑)

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いっやあ 面白かったです👍 丑三つ刻にこれを読める事 かなりいい感じな夜です ありがとうございます

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