元来た道を戻っていくと、崖の遙か下にFの姿を見つけました。
「あいつ、滑落しやがった・・・」
私は全身の血の気が引いていくのを感じながらも、
「おーい!生きているか?返事しろーー!!」
と何度も叫びましたが返答はありません。
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とにかく一人では何もできないので、足早に山小屋に仲間を呼びに引き返しました。
山小屋に着くと仲間に事情を説明し、明朝すぐにFを引き上げに行くことになりました。
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もうすでに夕暮れとなっており、二次災害を防ぐため明朝捜索することになりました。
当時はまだ、ヘリコプターを呼ぶということが簡単に出来なかったので、
自分らで対処するのが一番早かったのです。
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その夜、仲間の一人が妙なことを言いました。
「Fの前を今日歩いていたんだけど、あいつずっとぶつぶつと独り言を言っているんだよ」
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「何を言っているのか、耳を澄ませると、、、お母さんに会いたいって、
そういうんだよ。
まぁちょっと、俺も疲れてたから反応はしなかったんだけどな、、、
ちゃんと聞いておけばよかったよ。」
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次の日、まだ日が昇る前から私たちはFのいる崖下に急ぎました。
ちょうど朝日が差し込むころにFを見つけた場所にたどり着きました。
Fは昨日と位置も変わらず横たわっていました。
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あー、これはもう本当にダメかもな・・・と皆がそう思いました。
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私たちはザイルを使って、Fのいる崖下まで下りました。
するとFは見るも無残に体中がおかしな方向にネジれてしまっていました。
「F、どうしてこんなことになっちまったんだよ」
皆、絶望で立ち尽くすしかありませんでした。
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これからどうFを運ぶか、、、どうすべきなのか、、、
それはとてもつらい選択でしたが、当時はそうすべき選択でした。
骨折り 中編-完-
作者ジンジン