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(怖要素無)5分で声出して驚け(下さい)どんでん返しショートストーリーを自作したらこうなった。

長編8
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(怖要素無)5分で声出して驚け(下さい)どんでん返しショートストーリーを自作したらこうなった。

目の前にそびえるビルの大きなガラス張りの入り口が、まるで競輪場のゲートのように私の前に立ちはだかる。

思わず前に踏み出す事を躊躇する自分の足に、私は心の中で叱咤した。

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(どうしたのよ。私。こんなところで立ち止まってはいけないわ。

私はここから新しい一歩を踏み出すの。

新しい、そう、充実したリア充のキャンパスライフを満喫するのよ!)

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肩に下げた真新しいグッチのバッグの紐を握りしめ、両の瞳に決意の炎を灯す。

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「・・・アスカちゃん、大丈夫?」

「緊張してるの?」

傍らに立つ、先月友人になったばかりのキョウコとクミがおずおずと口を開いた。

本日の合同コンパ、通がいうところの、いわゆる「合コン」をセッティングした張本人達だ。

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合コン・・・これをうまくこなせれば、輝かしいキャンパスライフが約束されるという、不定期開催のビッグイベントだ。

しかし、私はいままでそういうものに参加したことがなかった。

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小、中、高と部活だ習い事だに明け暮れていたし、自分はその・・・・・・あがり症というか、大事な場面になると頭に血が上ってしまうというところがあって、人とうまく話すことが出来ない性格なのだ。

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「うん、大丈夫よ、とっても楽しみ、キョウちゃんも一緒に盛り上がろうね」

私はかすかに強張った微笑みを無理やり顔に張り付けると、二人に努めて明るく返事を返した。

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「前に足を踏み込んだ時にしか道は開けない」

自分の今までの人生の中で、それだけは変わらない真実だったではないか。

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私は自分に言い聞かせ、正面のガラスの自動ドアのセンサーを作動させた。

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「こんばんはー」

普段行くことがない、小洒落たちょっと高級な居酒屋さんで、3人の男の人たちが私たちが来るのを待っていた。

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一人はツンツンヘアーに細面の顔をしていて、なんとなく漫画とかに出てくるホストを思い浮かべてしまう男、

もう一人はいかにもスポーツをやっています、という感じの、がっしりした体つきの日焼けした男、

そして残る一人は、メガネをかけたひょろっとして髪の長い、長身の男だった。

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ツンツンヘアがヒョウっと口笛を吹いたような声を上げる。

男達の舐め上げるような視線を感じて、思わず肩に力が入ってしまう。

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「こんばんはー」「今日はありがとうございまーす」

キョウコとクミは、その視線を意に介するでもなく男たちの対面の椅子に向かっていった。

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「アスカちゃん、どうしたの?」

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キョウコの声にはっと我に返った。

いけない。こんなことで躊躇していては・・・。

「よ、よろしくお願いしまーす」

私は声を半分裏返させながらバッグを肩から外し、上着を背後の壁のハンガーにかけた。

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簡単なメニューのオーダーの後、自己紹介が始まった

(いよいよなのね)

私は人知れず唾を飲み込んだ。

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自己紹介・・・それは合コンでの最初のイベント。

ここでうまく相手の心をつかみ、自分を売り込めば、その後の展開がとても楽になるという。

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(場を明るくして、軽く笑いを取って、第一印象を大事にして、広がる話題を振って……)

クミのレクチャーを頭の中で反芻する。

(広がる話題、話題、話題・・・・・・。駄目だ、政治ネタとか、芸能ニュースとか、全然わからない。どうしよう、一体どうすればいいの?)

頭の中に血が上ってくるのを感じる。思考が脳から抜けていく・・・・・・。

(ダメよ!このままでは!!)

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「西浦キョウコでーす。一年で、商学科でーす」

キョウコの自己紹介が耳に入って来た。そうだ、みんなはどうやって自己紹介するんだろう?ここは人のやり方を参考にするのが賢明だ。私は全神経を耳に集中させた。

「好きなV6は、岡田クンでーす」

「V6限定かよ!」

キョウコの言葉に、すかさずツンツンヘアーが突っ込みを入れて、みんながどっと声を上げて笑った。

(え?こんなことで?笑いって取れるの?)

私は内心驚いた。でもみんな笑っている。ツンツンヘアなんて、足をバタバタさせて、手を叩いて声を上げていた。

そうなのだ、みんなここに楽しみに来ているのだ。楽しそうなことを言えば、基本それで誰かが乗っかって来てくれるようになっているのだ。

そう考えたら、すっと肩の力が抜けていく感じがした。

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そのとき、

「キョウコちゃん、趣味はー?」

ツンツンヘアが話題をキョウコに振ってきた。

そろそろ自分も会話に加わっていくべきだろうが、さて、自分に会話に割り込む隙はあるのだろうか?

「え、っと、特にないんですけど、最近ロードレーサー買っちゃいました」

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ロードレーサー・・・って、自転車の?自転車でレースするやつ?

何とか話題に入ろうとしていた私は、思わず椅子から滑り落ちそうになった。

よりによって、なんでそんな話題なの?広がるの?その話題。

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「へー、どこの奴?」

日焼け男が食いついた。広げるんかい。

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「ガノーっていうメーカーです。ルイガノが出している競技用スポーツバイクで、ソニックスのスポーツタイプ、コンポはシマノのイチマルゴ、フルカーボンスペックで、ブラックホワイトカラーを選びました。エンデュランスタイプですが、将来レースを見越して思い切っちゃいました。今はホイールをアルテグラに履き替えようと思ってバイト中でーす」

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・・・・・・。

いきなりテヘペロぐらいの顔でキョウコが凄いこと語りだした。ナニコレ?急にマニアック。

これは…この話題に食いつけっていうのは・・・・・・。

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「あのさ」

ツンツンヘアが頬をポリポリ掻きながら声を上げた。

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そうだ、話題を変えてくれ。

あるだろう、最近のドラマがどうとか、だれそれのブログが炎上しただとかの時事ネタが。

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「ガノーもいいけど、やっぱここはジャイアントじゃね?女性用ホビーライダーにリブってブランド立ち上げたし。なんてったってコスパ最強だし。ジャイアントブランドはともかく、リブブランドは最近はデザインもいい。なんなら近くにオフィシャルショップあるから紹介するけど。シマノイチマルゴは正解だったね。

でも俺なら同じコストでアルテグラまで上げたい。ブレーキの利きが雲泥の差だから。ソニックスはブレーキだけテクトロだろ。初期でグレードを上げておいた方がいい。ダウンヒルの時のスピードが全然違うし、コーナーの攻めにも自ずと違いが出てくる。それにボトムブラケットはシマノのSM-BB71だろ?いかんせん足回りが弱い。最低でもここはBB386 EVOは欲しい」

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shake

お前も語るんかい!

というツッコミが頭の中を駆け巡る。学生がライトに語る話題ではない。

いけない。頭に血が上ってきた。

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「あ、あの・・・あのさ」

クミが慌てた感じで会話に割って入る。さすがにこの話題は合コンの話題には合わないと思ったようだ。

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よし、今度こそ、軽薄でノリの良い話題に移ろう。さっきのV6の続きでもいいぞ。

なにせここは合同コンパ。ロードレーサー同好会ではないはずだ。

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「コスパも足回りもいいけれど、やっぱりロードはブランドよ。決して安いものでは駄目っていうわけじゃないけれど、デザインやイメージも絶対に必要。そしてレースでの実績ね。

ロードに乗り続ければ絶対により早く、より遠くに行きたくなるものだし。そういう意味では絶対にロードはヨーロッパ製、とくにイタリア製ね。あの国の趣味に力を入れる気質は本物。デザインも性能もものが違うわ。車体がカーボン全盛になって、クロモリ、アルミ時代からのメーカーは撤退を余儀なくされているけれど、そのなかでも生き残っているコルナゴ、デローザ、ビアンキ、ピナレロは背負っているものが違う、確固たるワンオンリーを感じるわね。

もちろんクオータ、リドレーといったレースありきのロードもそれぞれ作り手の性格が出ているし、何よりもあの形状といい、塗装といい、デザインの魅力はアジア勢には遠く及ばないもの。なによりも走っていて楽しい。そこが一番よ。ロードに大切なのは、そこなんじゃあないかしら」

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shake

話題を変えるんじゃあないんかい!

クミよ、お前も話題に乗っかってどうする。っていうかよりマニアックになってお前らはどこに向かおうというのか?

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頭をかかえる私を尻目に、4人はなおも喧々囂々とスプロケがどう、ホイールがどう、コンポがどうとロードバイク談義を続けている。はっきりいって素人には宇宙語にしかきこえない単語の羅列だ。

いけない、頭が痛くなってきた。

話題を変えなければ、これ以上、こんな話題を続けるわけにはいかない。

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「・・・って、ねえ、聞いてるの?」

「・・・・・・え?」

唐突にクミに話を振られて、私は我に返った。

「だから、コンポをアルテグラにするぐらいなら、同じお金をかけてホイールをデュラエースにした方がいいって話、アスカもそう思うでしょ?」

「…え、あの、その……」

私は答えに窮して口ごもった。どうしよう。どうやって答えるべきなんだろう?

「違うよな、やっぱロードはコンポで決まるよな」

ツンツンヘアが顔を近づけてきた。

どうしよう、どうしよう…。

頭に血が上ってくる。耳が熱くなると同時に、思考が脳から溶け出るように消えていく。

(いけない、このままじゃ、このままじゃ・・・・・・)

「ねえ、どうなの?」

「どうなんだ?」

クミとツンツンヘアの声が頭の中に響いたとき、どこかで糸が切れるような音が聞こえたような気がした。

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「・・・・・・どいつもこいつもブランドだパーツだってどうでもいいところにこだわりやがって」

深く響く声が私の口をついた。

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「ア、アスカ、どうしたの?」

「な、なんだよ、急に」

クミとツンツンが勢いをそがれて戸惑いの表情を見せる。

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「どのバイクがいいかじゃない。ペダルを踏むんだよ。目の前のペダルを踏み込むんだ。

踏み込んだ先にしか道はない。

ペダルを踏んで踏んで、自分の感覚を研ぎ澄ませ。人の話じゃなくて自分の体と対話しろ。

その先に自分の求めていたロードは待っている」

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私はゆらりと立ち上がった。

その場にいる全員が私の迫力に身をすくませるのを感じる。

と、

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「『ペダルを踏み込んだ先にしか道はない』って、そのセリフ、ま、まさか」

最後まで沈黙を守っていたメガネ君が驚愕に目を見開いた。

「どうした?このコ、知っているのか?」

「そのセリフ、矢のような瞳、あ、あんたまさか、新海…新海アスカ!」

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「なにいいいいい!!!」

shake

その場にいた全員が立ち上がった。

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「新海、って、あの、ロードレース高校全国大会で3年連続優勝したっていう?」

「スプリントで敵なしの、『平原の鬼女』といわれた、あの新海アスカか?」

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チッ、私の事を知っていたのか。

せっかく変わろうとしたのに、普通の学生生活を送ろうと思ったのに、私が踏み出したその先に待っていたのは、やはりロードレーサー、お前だったのか。

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「ロード乗りがロードを語るときは、道の上でするんだよ。

さあ、自分を変えたい奴、もしもこの中にいるのなら、ついてきな。音速の世界を見せてやる」

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「う、うす!」

「自分、ついて行くっス!」

「声が小さい!!」

「おおお!!俺たちどこまでもついて行くっス!!」

shake

「お前らの本気はそんなもんか!!!」

「うおおおおおおおお!!!絶対離れねえええええ!!!」

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私たちは居酒屋を飛び出し、夜の自転車競技場へと走り出した。

この夜が、我が大学に競技自転車サークルが発足した日になった

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そして、その後長年にわたり学生レーサーたちに語り継がれる、同サークル全国4連覇への覇業の始まりになったのだった。

(了)

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トラトラトラ‼️
どんでん返しにビックリしました(^^)
面白かったです‼️

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