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中編5
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ループ 【A子シリーズ】

大学生活1年目の冬。

 街中がクリスマスだと色めき立っていた12月の下旬、私は蔓延るカップル達を寒風より冷やかな視線で貫きつつ、家路を急いでいました。

 私は、クノイチさながらのステップでカップル達をかわしつつ、帰宅を急いでいると、携帯電話の着信が入ります。

 ピリリリリ♪

 私は携帯電話の着信画面を確認してから、そっとポケットにしまいました。

 鳴り止んだ携帯電話に安心し、足早に歩く私の肩をガッと掴む者がいます。

 「出なさいよ」

 後ろからの声を聞いて、私は凍りつきました。

 振り返ると、ニヤニヤしているA子がいます。

 「メ…メリークリスマス」

 咄嗟に口から出た言葉に、A子はニタァっと笑いながら、小さな手提げ袋を掲げて見せました。

 「メリクリ♪」

 どうやら手土産のようでした。

 いつも手ぶらなA子が何かを持ってくるなんて、きっと明日は地球が滅ぶんだろうな……。

 そんなことを朧気に思いながら、我が家へ連行される。

 かと思いきや、違う道へと入るA子。

 かなり歩かされ、知らない道を進むA子に引きずられること数十分、とあるマンションに入っていきます。

 「今日はアタシんちで女子会するよ!!」

 私の意思確認は?

 5階の奥の部屋へ導かれ、初めてA子の住まう部屋へ来た私は、意外に綺麗な部屋に拍子抜けしてしまいました。

 「アンタ、何飲む?何でもあるよ?」

 上機嫌なA子に、私は控え目に「ウーロン茶」と答えると、A子は迫真の劇画調の顔で言います。

 「そんなモノないわよ?」

 今しがた何でもあると言った言葉が、彼方へと葬られたことに私は驚愕しました。

 「たった今、何でもあるよって言ったじゃん!!」

 「それはアルコールの話!!お子ちゃまドリンクなんてないわよ?」

 前から言おうと思っていたけど、私達って未成年だよね?

 そう言いかけましたが、A子には通じないでしょう……だってA子なんですから。

 私はいろいろ断念しつつ、缶チューハイを一本もらい、テーブルに着きました。

 「ジャンジャジャ~ン♪」

 A子からたまに飛び出す昭和のノリに辟易する私を他所に、手提げ袋から現れた黒くて丸い物体Xに、私は全身鳥肌が立ちました。

 「何で、おはぎ?!この流れはケーキとかじゃないの?」

 私は大嫌いな小豆色のおぞましい塊を指差すと、A子が「ケッ!!」と吐き捨てて言います。

 「西洋かぶれが……日本人なら小豆やろが?あんこやろが!?」

 物凄いA子の迫力に圧倒され、私は無言になります。

 「私、いらない……」

 伏し目がちに言った私の肩をグラグラ揺らして、A子が喚きます。

 「ちょっとアンタ!!どうしちゃったのよ!!日本人の心は!?和のスピリッツは何処に置いて来ちゃったのよ!!」

 もう、めんどくさい……。

 私は粉々しいモノが全般的に嫌いで、小豆がその最たるものだと、この場を何とか納めました。

 「何かツマミが欲しいわね……」

 ボソリと上目遣いで何事かほざくA子を華麗なるスルーでかわす私に、今度は駄々っ子のように喚き散らします。

 「つーまーみー!!つまみが無いと悪酔いしちゃうー!!」

 シラフでも質が悪いA子に観念した私が、何かを作る羽目になりました。

 冷蔵庫のモノは好きにして良いとの有難い言葉を頂戴し、有り合わせのモノで適当に作ってやります。

 一口食べて、満面の笑みを浮かべるA子が、私に言います。

 「嫁に来ないか?」

 全力でお断りします。

 深夜を回り、ほろ酔いの私が、ふと窓の方に目をやると、何か黒いモノが急速に落ちて行くのが見えました。

 「あれ?……今……」

 と、言いかけた時、ズシャッっと下に何か重い物が落ちた音がしました。

 嫌な音で急激に酔いが覚めた私は、悟りを開いたような半目のA子を揺すります。

 「ねぇ!!何か落ちた音がしたんだけど!!」

 頭を張り子の虎のようにユラユラさせるA子は「大丈夫、大丈夫」と、埒が開きません。

 音の正体を確かめるべく、私はカーテンを開き、窓を開けて下を覗き込みましたが眼下の通りは、うっすらと雪化粧をしているだけで何もありません。

 私が訝しく思いながら窓を閉めると、A子はヘラヘラしたまま言いました。

 「だから大丈夫って言ったじゃん」

 イマイチ腑に落ちない私に気づいたのか、A子が私に問いかけます。

 「アンタさぁ……何で外が見えたの?」

 A子の問いに私はハッとして、カーテンを掴みました。

 冬用の厚手のカーテンで、外なんか見える訳ないのに。

 でも、確かに私は黒い影が落下していくのを見たんです。

 「おめでとう♪ついにアンタにも見えたんだね」

 暖房がガンガンの室内にいながら、私は背筋が寒くなりました。

 「この部屋はね、今落ちてった人が住んでた部屋なんだよ。クリスマスに彼氏にフラれて自殺したんだ」

 そういうことをライトなノリで言うA子が本当に嫌いです。

 「でね?毎日、この時間になると落ちてくんだよ」

 何その、禍々しいイベント……。

 「ねぇ、自殺する人って何を思って死ぬんだろうね?」

 A子らしからぬ哲学的な問いに、私は閉口しました。

 「天国に行きたいとかさ、そういうんじゃないだろうし……」

 ぐびぐびと焼酎をあおるA子に、私が答えます。

 「人生をリセットしたい…苦しみから解放されたい……とかじゃないかな?」

 私の回答に、A子は笑って言いました。

 「甘いよ……」

 A子の暗く沈んだようなトーンに、私はビックリしました。

 「与えられた時間を自分勝手に終わらせるとね、最後の瞬間を永遠に続けることになるんだよ……」

 A子の言葉に絶句する私。

 「死は一度しかない魂のゴールなんだよ……それを勝手に横道に逸れてズルすれば、当然ペナルティがある」

 「ペナルティ?」

 私の問いに達観したような顔でA子が答えました。

 「そう……傷ついたレコードが同じ箇所を延々と再生するように、同じ行為、同じ痛みを繰り返し味わわなきゃならなくなるんだよ……今の人みたいにね」

 A子の言葉にゾッとした私が、A子に訊きました。

 「逃れる術はないの?」

 私の問いに、A子は黒い笑みを湛えて言います。

 「あるにはあるけど知った所で、本人にはどうしようもないからね」

 そう言って、A子はチキンをワイルドに噛み千切りました。

 「A子は……何とかしてあげないの?」

 そう悲しげに言った私に、A子はいつものヘラヘラとした笑いで言います。

 「焼き肉奢ってくれるなら何とかしてあげてもいいけどね♪でも、無理でしょ?死んでるんだから」

 そう言って飄々としているA子が、実は一番怖いと思いました。

 この日以来、A子の部屋に私が行くことはなく、私の部屋にA子が押し掛けてくる回数が増えたのは、また別の話です。

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月舟様

お気に召していただけて嬉しいです。

ちょっとだけでも怖さを入れとかないとビンちゃんが怒りそうなので、取って付けに無理やりねじ込んだ怖さですが良かったです。

こんなんばっかりですが、これからもよろしくお願いいたしますね。

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ふたば様

そんなに怖くないはずでしたが、申し訳ありません。

それなりにそれっぽくしとかないと、びんちゃんに怒られちゃうと思って、まぁまぁほどほどにしたつもりでしたが、再考の余地ありますね。

別に急いで読むようなはなしじゃありませんから、暇をもて余した時にでも、ゆっくり読んでください。

コメントをいただけるのはとても嬉しいですが、あまり気に病まないでくださいね。

いただいたコメントには必ず返信しますが、 わたしの作品になんて、そうそう書くことなんてないとおもいますから。

皆様、お優しい方ばかりでコメントをいただけると、わたしもつい、ストックを放出してしまいます。

このペースだと、一月もたずに品切れしそうです。

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来道様

コメントありがとうございます。

お…おぅ……。

誰に向けての言葉か分かりませんが、ありがとうございます。

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婿になりたい!

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いさ様

こういうノリでいくのが、このシリーズです。

小ネタで進みながら、怖くないことを如何にも怖そうにするトリックです。

そうでもしないとただの三文コメディですからね。

今でも十分、三文コメディだった‼

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