オルゴール 【A子シリーズ】

中編4
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オルゴール 【A子シリーズ】

大学生活を満喫していた二回生の時のことです。

 文化祭のフリーマーケットで、可愛らしい箱型のオルゴールを見つけた私は、売っていた男性に声をかけました。

 「これ、いくらですか?」

 私が指差したオルゴールを見て、困ったような顔をしながら、彼が言います。

 「コレね……壊れてるけどいいの?」

 彼の言葉を確かめるため、私はオルゴールの蓋を開きました。

 途中で何音かが切れはするものの、キレイな音色のチューリップが流れます。

 それくらいなら問題ないと思った私は、

 「大丈夫なんで、売ってください」

 私の申し出に苦笑いを浮かべながら、彼は言いました。

 「百円でいいよ」

 思っていたより格安だったので、私は喜んで百円を支払い、オルゴールを手に帰宅しました。

 早速、部屋のドレッサーに置いて、アクセサリーをしまいます。

 たくさん持っている訳でもなかった私ですが、イヤリングや指輪などの収まりが良く、ご機嫌な気分に浸っていた矢先、インターホンが鳴りました。

 「来たよ~♪」

 それは悪魔の来訪でした。

 これまでも多少の恩義を感じていた私は、招かれざるA子を部屋へ上げるという苦渋の決断をします。

 A子は部屋に上がるなり、顔をしかめて言いました。

 「臭っ!!」

 女の部屋に、否、私に対して失礼な言動のA子に、カチンと来た私はA子に強く抗議します。

 「ちょっと!!来て早々に失礼じゃない?!」

 私が言うと、A子はヘラヘラ笑いながら言いました。

 「いやぁ、そうじゃなくてソレよ!ソレ!」

 A子は買ったばかりのオルゴールを指差します。

 「ソレさぁ……ちょっとヤバいヤツだね」

 気に入って買ったばかりの物でしたが、A子は特異体質の子なので、流石の私もビビります。

 「何がヤバいの?」

 恐る恐る訊いてみると、A子は緊張感なく言いました。

 「ソレね、持ち主殺されてるよ。かなり残酷に」

 ムードもへったくれもない言葉でしたが、空気を読まない(読めない)A子だから仕方がありません。

 「ちょっと聴かせてみ?」

 A子に言われるまま、オルゴールの蓋を開けると、チューリップが流れ始めます。

 しかし、店先で確かめた通り、所々の音が切れています。

 「……なるほどね」

 A子は勝手に自己完結したように納得して言いましたが、私はそうはいきません。

 「何がなるほどなの?」

 私がすがるような目で言うと、A子はニヤリと笑って言いました。

 「あんた、ミステリー好きじゃない?自分で考えてみなよ。分かったら何とかしてあげるから」

 A子のこういう所が嫌いです。

 曲がりなりにもA子よりは成績がいい私は、A子からの挑戦状を受けてやることにしました。

 私はもう一度、オルゴールを鳴らしてみました。

 ドレミドレミ

 ソミレド

 レミレ

 ドレ ドレミ

 ソミ ドレミド

 ソソミソラ ソ

 ミミレレド

 音色はとても澄んでいて心地好さすら感じるのに、曰く付きだと言われると、複雑でした。

 しかし、いくつかの音が切れています。

 6小節目のミと8小節目のレ、11小節目のラの3音が鳴らない。

 ミ、レ、ラ……。

 和音階ならホ、二、イ。

 ドイツ式音階ならE、D、Aか……。

 いろいろと置き換えて考えてみましたが、何れもピンと来ません。

 「歌ってみ?」

 A子が憎たらしい余裕の笑みをたたえて言います。

 「わかった……」

 何だか悔しかった私でしたが、A子に言われるままに歌ってみました。

 さいたさいた

 チューリップの

 はなが

 ならん ならんだ

 あか ろきいろ

 どのはなみ も

 きれいだな

 歌ってみて気づいた私は、背筋に悪寒を迸らせて急いで蓋を閉じました。

 「分かった?」

 頷く私を尻目に、A子がオルゴールから私のアクセサリーを取り出して、小脇に抱えると、

 「返しに行くよ?こんな危ない物を売り付けるなんて許せない‼」

 A子がオルゴールを抱えたまま、玄関に向かったので、私も慌てて追いかけます。

 買った場所にまだいた男性に訳を話すと、「やっぱりね」と言って、すんなりお金を返してくれました。

 話を訊けば、男性もこのオルゴールを手に入れてから、毎晩幼女の悪夢にうなされていたそうで、どうにか手放したかったらしいのですが、良心の呵責はあったらしく、私に謝ってくれました。

 「で?どうするの?」

 A子は売主の男性に不気味なほくそ笑みを向けて言うと、男性は困った顔で途方に暮れていました。

 「焼肉奢ってくれるなら、何とかしてあげる」

 A子の取引に、藁にもすがる気持ちだった男性は、二つ返事で快諾しました。

 「じゃあ、契約成立ね♪」

 そう言って、A子はオルゴールの蓋を開けて、中の小物入れの仕切りを躊躇なくもぎ取り、剥き出しになったオルゴールの音の仕掛けに手をかざしました。

 そっと目を閉じたままのA子が何やらブツブツと言っていると、チューリップの歌が途切れることなく全部流れ出しました。

 「コレでよし!!じゃあ、叙々苑行こ♪」

 呆気に取られる男性と私を他所に、A子は颯爽と歩き出しました。

 この後、男性の財布からは数人の諭吉が失踪してしまったのは、また別の話です。

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ふたば様

ただただ歌のネタが書きたくて書いた話でしたが、楽しんでいただけたら幸いです。

たぶん、10:0でA子の方が怖いです。

経済的ダメージがハンパじゃないですから。

後々分かりますが、実はA子の実家は……。

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