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中編5
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人面犬の泣き声

お母さんは、また新しいお父さんを連れてきた。

お父さん達は、すぐ怒鳴ったりする。

でも上手く話しかけると、お小遣いをくれる事もある。

どっちにしろ僕に家から離れて欲しいからだ。

僕には行くあてなんかなかった。

夜遅いと、友達の家にも、学校にもいけない。

図書館もやってない。

誰かと会って、家に連れ戻されると、お母さんの機嫌はとても悪くなる。

僕には行くあてがなかった。

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公園に行くと、いくつかテントがあった。

テントがあったことはずっと知ってたけど、中に誰がいるかは知らなかった。

どんな人かも知らなかった。

ある日僕は、勇気を出して覗きに行った。

公園の近くまで来ると、テントの近くに明かりが見えた。

お酒の匂いがした。何人かのおじさんが飲んでいたみたい。

笑ったりしながら、タバコをふかしたりもしてた。

何となくだけど、僕は近づいてった。

おじさんの一人が僕に気づいた。

「何してんだ。ママのおっぱいでも吸いに帰れよ」

おじさん達は笑いながら、追い払うような身振りをしていた。

でも僕は近づいて行った。

「帰るとお母さんが怒るから、少しここに居させて下さい」

心細かったから、知らないおじさん達でも一緒が良かったんだ。

おじさん達は顔を見合わせていた。

「いいぞ坊主!こっち座れ!」

誰かがそう言い、石か何かに布をかぶせた場所を示した。座れって事だよね。

「お酒は大人になってからな」

そう言って、僕にはウーロン茶をくれた。

ぬるかったけど、それが美味しかった。

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なぜここに居るのか、繰り返し聞かれた。

そして、時々ここに来ても良いと言ってくれた。とても嬉しかった。

僕はふと気になって聞いてみた。

「どうしてこんな時間にお酒飲んでるの?」

苦笑いしながら、また顔を見合わせていた。

「この時間になると、変な叫び声出す奴がいて寝れなくてなぁ」

叫び声がどんなものか聞こうとしたら、ちょうど聞こえた。

『うわーん、うわんうわん、うわーん』

確かに大きい声だけど、それ以上にぞわぞわする変な声だった。

「誰の声?」

みんな知らないらしい。わかったら教えて欲しいとも言われた。

長いこと、僕らは話し込んだ。

眠くなると、妙な叫び声で起こされた。

明け方、ようやく叫び声が聞こえなくなり、みんなそれぞれのテントに戻っていく。

僕はテントがないけど、特別に端を貸してくれて、一眠りしてから帰った。

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それからは、お父さんが新しくなる度に、テントに行った。

たまに貰えるお小遣いを貯めて、スルメとかを買っていくととても喜ばれた。

テントの隅っこに、僕用のスペースもできた。

いく度に必ず、あの妙な叫び声が聞こえてた。そのおかげで寂しくない夜が来たんだ。

みんな腹を立ててたけど、僕はこっそり嬉しかった。

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また新しいお父さんが来た。

そのお父さんは、ひどく怒りっぽい人だった。お小遣いをくれないどころか、僕をぶった。

顔が腫れてしまったので、おじさん達の前に行きづらくて、公園の近くをふらふらしてた。

心配されても、心配されなくても嫌だったんだ。

そしたら叫び声が聞こえた。

『うわーん、うわんうわん』

何だか近いような気がする。

僕は声の方に向かった。

『うわんうわん』

逃げてる?そう思った。

どこかに移動してたみたい。

声を頼りに、叫び声を追いかけた。

団地の裏側についた。とうとう声の主を見つけた。

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多分犬だった。

日本語で言ってたと思ったのは、犬の鳴き声だった。

ただ、その犬は人の顔をしてた。

ヒゲは伸ばしっぱなしで、おじさんみたいだった。

すごくキモい。

テントに持ってくつもりだったおつまみをあげると、尻尾を振ってた。

やっぱり犬だ。

すぐじゃれてくる、顔以外は可愛い奴だった。

鳴き声も大きいけど、あんまり気にならなかった。

一緒に走り回って、二人で眠った。

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起きたらいなかった。

多分どっかに隠れたんだと思う。

そうでなかったらニュースとかになってると思う。

僕は家に帰った。

お母さんに話したら鼻で笑われた。

信じてくれなかった。

テントの人達なら信じてくれる。

初めて、新しいお父さんが来て欲しいと思った。

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テントに行って、僕はすぐに話した。

みんな信じてくれなかった。

連れてくれば信じると言ったので、僕は探した。

意外に近くて、すぐわかった。

向こうも僕を覚えたからかな。僕とわかったらこっちに来た。

「ね?ほんとでしょ?」

僕はちょっと胸を張ってみた。

おじさん達の顔は渋いままだったけど、一人が言った。

「確かにな。お手柄だ」

ますます嬉しくなった。

おじさん達が餌をあげると、アッサリ懐いて、叫ぶみたいに鳴きだした。

「なぁ、この鳴き声やめさせらんないのか?」

「うーんわかんない」

「そっか」

おじさん達はがっかりして、何かを話し合ってたみたいだった。

「しょうがねぇな」

一人が、棒を持ってきて、周りに配り出した。

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「どうしたの?」

答えてくれなかった。

「ちょっとこっちおいで」

よくわからないまま連れて行かれた。

公衆トイレの裏に連れてかれて、何でか聞いても、このまま帰るように促されるだけだった。

全然わからない。

「いいから帰れ!」

怒鳴られた。ショックだった。

帰ろう。そう思った。

『ギャン!』「なんだ犬じゃねぇか」

犬らしい叫び声と、笑い声混じりで囃すような声が聞こえた。

「始めるのはえぇな」

僕を連れてきたおじさんが呟いた。

僕は、嫌な予感がして、おじさんの制止を振り切ってテントに走って戻った。

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いつも僕らが集まるとこで、それは始まってた。

犬を囲んで、棒で叩いてた。

虐めるとか驚かすとかでない。

殺す気で。

滅多打ちだった。

「おぉ、坊主、お前のおかげで明日からは寝れるわ」

おじさん達は口々にお礼を言いながら、棒で叩いてた。

違う、違うのに。

慌てて間に入り、抱きあげる。

血だらけで背骨や足が奇妙に曲がってた。

恨めしそうに僕を見てた。

「違う、違うよ、そんなつもりなかったんだ」

聞こえたのかどうなのか。

人面犬は、唇を動かした。

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shake

『しね』

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聞こえなかった。でも間違いなくそう言っていた。

ショックだった。裏切ったと思われた。

「こらこら、見ちゃダメだよ」

おじさんに僕は引き離された。

それでも僕は居続けた。

首の骨を折る所まで見続けた。

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おじさん達とはそのあと、夜中に集まって話す事もなくなった。

僕はまた、一人ぼっちの夜に戻った。

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