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中編4
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奇病 【A子シリーズ】

大学三回生のある日、私は猛烈に具合が悪くなった日がありました。

 目は赤く腫れ、くしゃみ、鼻水、頭痛に気管支炎と風邪っぴきのフルコースが数日続いていました。

 大学は勿論、アルバイトも休まなければならなくなっていた私は、ほとほと困って、何度も病院に行きました。

 病院でもらった薬も全くと言っていいほど、効いてくれません。

 まさか……呪い?

 いや、この品行方正が服を着ているとの呼び声高い私が、呪われるなんて有り得ない……絶対にあってはならない。

 もしや、未知のウイルスにでも感染してしまったのだろうか……。

 一抹の不安が頭をもたげる私は、大人しく床に就いて、回復を待っていました。

 ピンポーン♪

 病に臥せっている最中に、鳴り響くインターホン。

 のっそりとベッドから起き上がり、インターホンに出ると、さらに具合が悪くなりそうな顔が映っていました。

 「お見舞いに来たよ♪」

 ご存知、A子襲来です。

 「私、今、絶賛具合悪いんだけど……」

 「知ってる。だから、お見舞いに来たんだよ」

 「うつしたら悪いから」

 「うつんないよ。アタシ超丈夫だから♪」

 つまり、帰る気はないと、A子は言っています。

 「分かったよ……入れればいいんでしょ?」

 私は仕方なく、A子を招き入れました。

 「元気無さそうだね」

 私の顔を見て、A子は当然のことを言い放ち、ズカズカと上がり込んで来ました。

 部屋に入るなり、コンビニ袋から缶を何本か取り出し、テーブルに並べていくA子に対して、私は何も言わずに、じっと見つめていました。

 「こういう時は、アルコールで消毒すれば治るんだよ」

 何処の民間伝承よ……。

 私は呆れて、ベッドに潜ります。

 寝てればいつか帰るだろうと、タカをくくったのもありました。

 病人の家主を差し置いて、一人で酒盛りを始めるA子の神経は常人の理解を越えています。

 ベッドに入ってから、少しすると、息が苦しくなって、喘鳴を起こしている私の側に、A子がヘラヘラと笑いながらやって来て、私の布団のお腹辺りの宙を掴むと、窓に向かい、窓を開けてから、何かを放り投げるようなアクションをしました。

 「明日には治ってると思うけど、心配だから泊まってくね」

 帰るのが面倒になったか、A子よ……。

 反論も出来ないほどに病状が悪化していた私は、好きにすればいいと思い、そのまま寝てしまいました。

 翌朝、目が覚めると、あれほど苦しかったのが嘘のように気持ちのよい目覚めを迎えました。

 「おはよ……」

 ベッド脇で寝ていたA子も起き出して、私に爽やかではない挨拶をしてきます。

 「あ、おはよう」

 明らかに具合の悪そうなA子を見て、私は、A子にうつしちゃったかな?と思いましたが、テーブルに積まれた缶タワーを見て、どう見ても二日酔いだ……と悟りました。

 「アンタ、治ったみたいだね……良かったよ……」

 蒼白なA子が、私に不吉な笑みを浮かべています。

 「A子の方が重篤じゃん」

 「アタシは大丈夫……呑みすぎただけだから……」

 そりゃ、あんなに呑んだら二日酔いにもなるよ。

 「お粥……お粥を所望致す……」

 A子がすがるように私の肩を掴みます。

 病み上がりvs二日酔いではどう見ても分が悪く、私は床に臥すA子のために、台所に立ちました。

 「おとっつぁん……出来たわよ」

 完成したお粥をA子の側に運んでやると、A子はヨロヨロと体を起こしました。

 「いつも済まないねぇ……ゴホッ」

 具合が悪くてもノリの良いA子は嫌いじゃありません。

 熱々のお粥をフゥフゥしているA子に、この状況を私は訊ねました。

 「私、何だったの?」

 私の問いにA子が答えました。

 「にょにゃぬのなにょ」

 A子……口の物を飲み込んでから言ってね。

 「野良猫だよ。アンタ、猫アレルギーでしょ?」

 猫なんて、いる訳ないじゃない……ペット禁止だよ?

 私の心の声が漏れ聴こえたのか、A子はニンマリと薄ら笑いを浮かべて言います。

 「野良猫の霊が、アンタに憑いてたんだよ……アタシが来た時は、アンタのベッドの上にいた」

 「やだ、何それ……」

 私が顔をしかめていると、A子がお粥のお代わりを求めるように、茶碗を突き出して言いました。

 「だから、窓から棄てた」

 昨日のA子のアクションは猫を棄てた動きだったのか。

 妙に納得した私でしたが、ふと気付き、ハッとしてA子に言います。

 「ここ7階だよ?」

 私がお粥のお代わりを渡しながら言うと、A子はふっと吹き出して返します。

 「いいじゃん♪生き物じゃないんだから」

 そういう問題?

 ともあれ病状が劇的に快復したことに、私がお礼を言うと、A子は魔女のような笑顔で言いました。

 「今アンタに死なれたら、アタシの卒業は危うくなる」

 情けは人のためならず。

 A子の場合、使い方が若干違う諺だと思いました。

 どうも、私はいろいろ憑かれやすい体質らしく、そんな悪霊たちから私を守ると言う名目で、最もタチの悪い生霊(A子)が、一層私につきまとうことになったのは、また別の話です。

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