グーグルマップで見ると、色々な物が見つかる。
人里離れた場所にポツンと現れる集落や村も見つかる。ついついはしゃいだ俺たちは、怪しい風習を期待して車で出かけていった。
あにはからんや、ただの温泉街だった。
まぁこんなもん。そう思っていた。
折角だからと、少し遠回りして帰る。
森、森、木、山、岩、自然に感激できる感性があれば違っただろうが、俺たちはそんな感性なかった。
ただただ、退屈で、休憩を挟みつつ事故に気をつけて帰るだけだった。その筈だった。
何度目かの休憩の時だった。
「おい、あれ見ろよ」
注意を促されてみると、立ち入り禁止の看板。
「見えたぞ、で?」
薄ら笑いを浮かべている。こいつがこういう顔するときは、大概下らない事考えてるもんだ。
「看板があるって事は、あの先になんかあんだろ?見てこようぜ」
顔を見合わせるが、存外、俺以外は乗り気のようだ。
「立ち入り禁止ってことは私有地か危ないかだろ、どっちにしろ辞めとこうぜ」
せめてもの抵抗を口にするが、多分無駄だろう。
「私有地でも何も壊さなきゃ良いだろ?ヤバそうだったらすぐ車戻れば良いさ」
ああ、なんも聞いちゃいねぇ。
そして興味ないと言えば嘘ではある。
俺たち三人は、看板を乗り越えて入った。
看板の向こうは道だった。殆ど人が通ってないのだろう。看板を立てた時点では車が通れる幅だったようだが、そのときは俺らは縦に並ばないと進まなかった。
道を進むと、そこは村だった。自然に浸食され、人が住んでいた面影は薄くなっている。
「ああ、ここ知ってるわ」
勝手に手近な小屋に潜り込んだあと、話し始めた。
「少し前になんかの記事で出てたわ。ここの最後の村人が、都内の病院で死んだとか何とか」
「結局都内で死んだのかよ。風情がないな」
どうでも良いような事を三人で話した。
「折角だしよ」
嫌な予感。
「泊まってこうぜ!」
やっぱり。
二人は完全に乗り気な上に、三人共春休みで暇だ。憐れな抵抗を試みるしかない。
「立ち入り禁止ってあったろ?多分クマとかイノシシとか出るぜ?危ないんだよ辞めよう」
馬耳東風とはこのこと。ろくに聞きもせず、泊まる用意をしてる。まだ明るいってのに。
用意がいいんだが悪いんだか、軽いオヤツくらいはある。絶対後から腹減るが。
火もあるし、火事に気をつければ問題ない。気をつければ。
あんだけ抵抗しつつ、はしゃいでしまった。酒がないのを悔やみながらも、バカみたいに騒いでいた。
「おい、静かにしろ」
突然、えらく剣幕で止められた。
「なんだよ。うっせぇな」
「ちょっと耳すませ」
何かを引きずりながら歩く音。
「管理人とかか?」
「よく考えたら、看板あるんだから誰かが管理してんだろ」
「ヤバくね?捕まんの?」
ヒソヒソと焦る俺たち。
「ちょっと覗いてくるわ」
そっと顔を出し、覗いている様子を、固唾を飲んで二人で見守った。
「動物だった?」
クマでも餌出せばなんとかなるんじゃね?とは思ってた。
「……」
無言で見つめ続けている。
「なんなんだよ!」
声を押し殺しながらも、確認をせっつく。
「……管理人ではないし人間だけど、見つかったらヤバイだろうな」
珍しく歯切れの悪い事を言う。
「そうだなぁ…あ!やべ!」
急に顔いろが変わり、転がしてた財布とスマホをしまった。
「逃げるぞ!やべえって!」
なんなんだ。
「管理人じゃなさそうなんだろ?ちょっと話せばわかんじゃないの?」
「マジでヤバイんだよ!良いから走れ!出ろって!」
なんだなんだ。怒ってんのか。
何かを引きずる音、早い。そして走ってるであろう足音。激怒ってやつかね。
さっきまで覗いてた癖に、もう小屋の反対側の脆そうな部分を蹴破って外に出てる。
「急げ!」
そう言い残し、残された俺たちを放って外に飛び出した。
話せばわかるのでは?と思って振り向いたが、一瞬で察した。
いつから切ってないのか、わからない長髪と髭、濁った目、洗ってなさそうな黒い服、穴の開いた靴、そこまでは良い。
右手にはデッカいナイフ。左手には古びた人形(だったであろう物)
ナイフを振り上げ、走ってる姿が見えた。
ヤバイ死ぬ。気がつけば飛び出していた。
ともかく無言で追ってくる。
車の、車の位置まで。
その一心だったのは皆同じらしい。
「エンジン入れとく!早く来い!」
置いてかれない事を願うばかりだ。
建物を縫うように駆け巡った。どこがどこやらわからない。恐らく広場だったのだろう。偶然三人集まった。
「来た道見つかったか?」
沈黙、それしかなかった。
逃げ回ってるからか、見つからない。
息を落ち着かせながら、相談しようとした。しかし時間はなかった。
回り込んで居たのだ。音も立てず。不意に足が熱くなった。ナイフの峰打ちで足を殴られた。近くで見ると錆びている。
動揺した二人も手際よくやられた。一人は金的を蹴り上げられ、泡を吹いていた。最後の一人は首を絞められ、失神した。俺が1番マシだった。
うずくまってやり過ごすのが良いのかも知れない。息を潜めて機会を待つ。
鼻息がかかる。近い。多分匂いを嗅いでいるのだろう。鼻でしきりにスンスン言ってる。
猛烈な悪臭と柔らかい感触が顔に当たる。持っていた人形を押し付けられていた。
わけがわからない。
薄眼を開けようとしたら、首に何かを巻きつけられた。意識があったのはバレてたらしい。
バタバタと暴れたのを最後に、記憶を失った。
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目が覚めた。
まず財布を確認。ある。スマホもある。
脚が痛いし首が痒いが、あとは無事だ。
「おはよう」
全員、車の脇に転がされていた。
ふと思う。
「猛烈に不器用な人で、帰り道教えようとしてくれただけだったのかもな」
四人で小さく笑い、車に乗り込んだ。
運転していた奴が全員に聞いた。
どこに行きたい?
一人が言った。
「おろして欲しい場所があるんだけど」
みんなで快諾し、そのまま進んだ。
車内はひたすら無言だった。
何時間かかったろう?待ち合わせをしてるらしい。そこで一人おろした。
そいつを残して車が出る。良い笑顔で手を振っていた。やっぱりあいつか、みな無言で思ってた。
二人は自宅を頼んだ。また暫く無言が続き、ポツリともらした。
「あいつは、いつから待ち合わせてたんだろうな」
「さあね」
また無言が続いた。
作者ぱやりすと
私が小さい頃は、気がつくといなくなってる子だったな。