中編6
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面付きミイラ

子供の頃、親父の生家に毎年行っていた。

近所の歳が近い子らと気が合って、良く一緒に遊んでいた。

都心では見れない山、人のいない廃墟、全部が珍しかった。何よりも、そこでしか会えない友達と会うのが楽しみだった。

今でも何人かとは連絡を取り合うし、休みが合えば飯くらいはいく。

時折話題になる事がある。

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よく遊んでいた広場があった。

一応神社の敷地内で立ち入り禁止ではあったが、構わず入って遊んでいた。

後から知ったが、神主さんも知っててほっといてたらしい。

そこにポツンと祠が建っていた。

祠というより小屋に近いサイズだったが、大人が寝泊まりできるような大きさでもなかった。

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当時、クソガキだった俺たちは、何度か開けようと試みていた。

壊すのは簡単そうだが、壊したらバレる。

鍵はなかなか頑丈な物が付いていた。こじ開ける試みは失敗に終わり、いつしか飽きていた。

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広場でいつもの四人で遊んでいた。

二対二に分かれてサッカーをしていた。

広場の中央付近に祠はあった。

俺たちはそこボールをぶつけて変化をつけるテクニックを開発していた。

それが完全にアダとなった。

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誰だったかは忘れたが、俺ではない。

ボールが祠の壁の薄い部位を突き破り、中に飛び込んだ。

そして、中で明らかに何かが割れる音がしていた。

全員の顔から血の気が引き、一人が走り去った後、釣られて全員走り出した。

因みに最初に走って逃げたのが俺だ。

神主さんはともかく、爺さんが怖くてパニクってたんだ。

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みんなでどうするか話し合った。

みんな俺の爺さんが怖いから黙っておこうとなった。

しかし中にまだボールがある。

それが残ってたら、誤魔化しようがないのは自明だった。

結局、みんなで取りに行こうと決まった。

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そして広場に戻った。

すると、ボールは外に転がっていた。

神主さんにバレたのか?と思ったが、特に人影はなかった。

人影は。

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何かはいた。

しかし、明らかに人ではなかった。

身長は当時の俺たちより、あたま一つ小さかった。

カラカラに乾いた背中、ヒョロリと伸びた手も乾いていた。

その全てに取って付けたような毛が生えていた。

そして顔に般若のような面を被っていた。

明らかに般若ではないんだが、般若が一番近いと思う。

後で話すが、手にとって確認する機会があり、確信はふかまった。

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恐らくは病気か何かのサルではないかと思う。

子供だった俺たちには不気味すぎて、声も出せずにいた。

悪いことに、俺たちのボールの近くにいた。

面付きミイラは明らかに何かを探していた。

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どうするべきか?顔を見合わせたまま、俺たちは黙っていた。

息を潜めていたという方が正しいだろうか?

何を言おうとしたのかもうわからないが、一人がみんなに声をかけた。

その瞬間、面付きミイラは探し物をやめた。

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やめたのではなく、見つけただけだった。

こちらを向いていた。

そして、離れていた俺たちの耳も痛い程に大きな叫びを上げた。

そして面付きミイラは、俺たちに向かって走り出した。

俺が逃げようと振り向いた時には、みんな走っていた。

恐らく、叫び出した時点で逃げていたのだろう。

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真っ直ぐ人里に向かえば良いものを俺たちはバカだった。

当時から空き家だらけだった地域を抜け、山道に向かっていた。

般若面はしつこかった。

たまに例の、奇妙で、大きな叫びを上げていた。

叫びは聞くたびに不安になり、汗だくの背中に悪寒が駆け巡った。

その叫びで俺たちは位置を知り、追われ続けているのを知っていた。

誰一人振り向かなかった。

叫びは余りに近く、なんの余裕もない事を肌で知っていたからだ。

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一人を俺は追い抜いたが、もちろん無視した。

怖かった、他人に構う余裕は無かった。

そこでささやかな幸運があった。

軽トラが通りがかったのだ。

先頭は迷わず飛び出し、俺たちはそれに続いた。

泣きじゃくり何を言ってるのか理解されなかった。

しかし、顔見知りだったこともあり、ただ事でなく乗せて欲しい事は伝わった。

遅れた奴も無事追い付き、トラックの荷台に乗った。

叫びは聞こえたが遠く、数分前の事が嘘のように感じられた。

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移動しながら落ち着き、俺たちはトラックのおじさんに話した。

そして、神主さんに話すよう促され、全員で謝りもかねて、全てを話した。

神主さんは俺たちの取り止めのない話を辛抱強く聴き、怒ったりはしなかった。

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神主さんは

「よく話してくれた。あそこはロクに手入れも出来ないから、危なくて立ち入り禁止にしていただけだ。

神様も最初は怒ったろうけど、こうして正直に話した子達を怒ったり罰を与えたりしないはずだ。

私からキチンととりなしておくから、安心して帰りなさい。」

と言い、怪我がない事を確認した後、家に帰るように言った。

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家に帰ると、開口一番、両親から経緯を話すように言われた

慣れたもので、神主さん相手よりよほど上手く話せた。

すると、罰が当たる、祟られた、と大騒ぎした。

今度は四人全員とその家族一同で神主さんを呼び出した。

四人にお祓いをして欲しいという事だった。

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今でも神主さんのポカンとした顔は忘れられない。

明らかに面倒くさがっていた。

四人一人ずつ行ったが、最後だった俺の時は最初唱えた呪文っぽいのもなかった。

頭上でパタパタと何かを振って終わった。

その適当さにかえって救われ、夜はすぐに眠った。

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その後、何事もなかったかのように四人はまた集まって遊んだ。

流石に広場にはいかなかったが。

そして都心に戻り、また次の年にきて…

と何度も繰り返した。

月日は経ち完全に忘れていた。

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進学、就職などで集まりはしなかったが、連絡は取り合っていた。

一人が都心で仕事を見つけたというので、久しぶりに会った。

色々話していたが、決心したように切り出された。

そいつは俺がそいつの住所を知っているのかと聞いてきた。

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意味がわからなかったが、行ったことはなかったので知らないと答えた。

何度も確認され、少し不愉快ながらも、知らないと言った。

するとお面を出された。

一瞬であらゆることを思い出した。

例のお面だ。

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言えなかったらしいが定期的に夢に出ていたようだ。

ある日、あの叫びを聞いた気がして、外に出たら置いてあったと。

捨てるべきか随分迷ったようだが、誰かのイタズラならその証拠にと持ってたらしい。

聞いて回った所、全員否定したと。

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木だと思っていたが、どうやら違う。

大きなツメ?のような物を乾かして、そこに色を雑に塗ったのだろう。

雑に塗ったというよりも、塗ってあったのが剥がれたのか。

俺には判断がつかないが。

あちこち塗装が雑でわからなかったが、泣き顔のようだったが、笑っているようでもあった。

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そいつは今では毎夜夢に出る、おかしくなりそうだと言っていた。

たまにやつの叫びが聞こえると。

精神科に通って薬も貰ってるらしい。

そんな一面を見たのは初めてだったが、できる限り励ました。

すると一言つぶやいた。

「また聞こえる」

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そんなバカなと否定し、耳をすますように促した。

すると、微かにあの叫びが聞こえた。

自分の居場所を誇示するように何度も繰り返された、あの叫びか確かに聞こえた。

俺は聞こえないと強がり、夜眠るように言って、重い空気の中解散した。

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暫くしてそいつは失踪した。

なんの連絡もなく、途中の物は途中のまま消えた。

色々と聞かれたが、例のお面のことも含めて話した。

だが特に進展もなかった。

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そして先日、ある朝玄関に出ると、例のお面があった。

追われた記憶、消えた友人、恐怖と怒りが混ざり、お面を叩き割って捨てた。

だが、俺が失踪したら、多分そういうことだろう。

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