子供の頃、親父の生家に毎年行っていた。
近所の歳が近い子らと気が合って、良く一緒に遊んでいた。
都心では見れない山、人のいない廃墟、全部が珍しかった。何よりも、そこでしか会えない友達と会うのが楽しみだった。
今でも何人かとは連絡を取り合うし、休みが合えば飯くらいはいく。
時折話題になる事がある。
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よく遊んでいた広場があった。
一応神社の敷地内で立ち入り禁止ではあったが、構わず入って遊んでいた。
後から知ったが、神主さんも知っててほっといてたらしい。
そこにポツンと祠が建っていた。
祠というより小屋に近いサイズだったが、大人が寝泊まりできるような大きさでもなかった。
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当時、クソガキだった俺たちは、何度か開けようと試みていた。
壊すのは簡単そうだが、壊したらバレる。
鍵はなかなか頑丈な物が付いていた。こじ開ける試みは失敗に終わり、いつしか飽きていた。
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広場でいつもの四人で遊んでいた。
二対二に分かれてサッカーをしていた。
広場の中央付近に祠はあった。
俺たちはそこボールをぶつけて変化をつけるテクニックを開発していた。
それが完全にアダとなった。
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誰だったかは忘れたが、俺ではない。
ボールが祠の壁の薄い部位を突き破り、中に飛び込んだ。
そして、中で明らかに何かが割れる音がしていた。
全員の顔から血の気が引き、一人が走り去った後、釣られて全員走り出した。
因みに最初に走って逃げたのが俺だ。
神主さんはともかく、爺さんが怖くてパニクってたんだ。
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みんなでどうするか話し合った。
みんな俺の爺さんが怖いから黙っておこうとなった。
しかし中にまだボールがある。
それが残ってたら、誤魔化しようがないのは自明だった。
結局、みんなで取りに行こうと決まった。
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そして広場に戻った。
すると、ボールは外に転がっていた。
神主さんにバレたのか?と思ったが、特に人影はなかった。
人影は。
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何かはいた。
しかし、明らかに人ではなかった。
身長は当時の俺たちより、あたま一つ小さかった。
カラカラに乾いた背中、ヒョロリと伸びた手も乾いていた。
その全てに取って付けたような毛が生えていた。
そして顔に般若のような面を被っていた。
明らかに般若ではないんだが、般若が一番近いと思う。
後で話すが、手にとって確認する機会があり、確信はふかまった。
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恐らくは病気か何かのサルではないかと思う。
子供だった俺たちには不気味すぎて、声も出せずにいた。
悪いことに、俺たちのボールの近くにいた。
面付きミイラは明らかに何かを探していた。
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どうするべきか?顔を見合わせたまま、俺たちは黙っていた。
息を潜めていたという方が正しいだろうか?
何を言おうとしたのかもうわからないが、一人がみんなに声をかけた。
その瞬間、面付きミイラは探し物をやめた。
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やめたのではなく、見つけただけだった。
こちらを向いていた。
そして、離れていた俺たちの耳も痛い程に大きな叫びを上げた。
そして面付きミイラは、俺たちに向かって走り出した。
俺が逃げようと振り向いた時には、みんな走っていた。
恐らく、叫び出した時点で逃げていたのだろう。
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真っ直ぐ人里に向かえば良いものを俺たちはバカだった。
当時から空き家だらけだった地域を抜け、山道に向かっていた。
般若面はしつこかった。
たまに例の、奇妙で、大きな叫びを上げていた。
叫びは聞くたびに不安になり、汗だくの背中に悪寒が駆け巡った。
その叫びで俺たちは位置を知り、追われ続けているのを知っていた。
誰一人振り向かなかった。
叫びは余りに近く、なんの余裕もない事を肌で知っていたからだ。
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一人を俺は追い抜いたが、もちろん無視した。
怖かった、他人に構う余裕は無かった。
そこでささやかな幸運があった。
軽トラが通りがかったのだ。
先頭は迷わず飛び出し、俺たちはそれに続いた。
泣きじゃくり何を言ってるのか理解されなかった。
しかし、顔見知りだったこともあり、ただ事でなく乗せて欲しい事は伝わった。
遅れた奴も無事追い付き、トラックの荷台に乗った。
叫びは聞こえたが遠く、数分前の事が嘘のように感じられた。
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移動しながら落ち着き、俺たちはトラックのおじさんに話した。
そして、神主さんに話すよう促され、全員で謝りもかねて、全てを話した。
神主さんは俺たちの取り止めのない話を辛抱強く聴き、怒ったりはしなかった。
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神主さんは
「よく話してくれた。あそこはロクに手入れも出来ないから、危なくて立ち入り禁止にしていただけだ。
神様も最初は怒ったろうけど、こうして正直に話した子達を怒ったり罰を与えたりしないはずだ。
私からキチンととりなしておくから、安心して帰りなさい。」
と言い、怪我がない事を確認した後、家に帰るように言った。
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家に帰ると、開口一番、両親から経緯を話すように言われた
慣れたもので、神主さん相手よりよほど上手く話せた。
すると、罰が当たる、祟られた、と大騒ぎした。
今度は四人全員とその家族一同で神主さんを呼び出した。
四人にお祓いをして欲しいという事だった。
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今でも神主さんのポカンとした顔は忘れられない。
明らかに面倒くさがっていた。
四人一人ずつ行ったが、最後だった俺の時は最初唱えた呪文っぽいのもなかった。
頭上でパタパタと何かを振って終わった。
その適当さにかえって救われ、夜はすぐに眠った。
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その後、何事もなかったかのように四人はまた集まって遊んだ。
流石に広場にはいかなかったが。
そして都心に戻り、また次の年にきて…
と何度も繰り返した。
月日は経ち完全に忘れていた。
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進学、就職などで集まりはしなかったが、連絡は取り合っていた。
一人が都心で仕事を見つけたというので、久しぶりに会った。
色々話していたが、決心したように切り出された。
そいつは俺がそいつの住所を知っているのかと聞いてきた。
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意味がわからなかったが、行ったことはなかったので知らないと答えた。
何度も確認され、少し不愉快ながらも、知らないと言った。
するとお面を出された。
一瞬であらゆることを思い出した。
例のお面だ。
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言えなかったらしいが定期的に夢に出ていたようだ。
ある日、あの叫びを聞いた気がして、外に出たら置いてあったと。
捨てるべきか随分迷ったようだが、誰かのイタズラならその証拠にと持ってたらしい。
聞いて回った所、全員否定したと。
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木だと思っていたが、どうやら違う。
大きなツメ?のような物を乾かして、そこに色を雑に塗ったのだろう。
雑に塗ったというよりも、塗ってあったのが剥がれたのか。
俺には判断がつかないが。
あちこち塗装が雑でわからなかったが、泣き顔のようだったが、笑っているようでもあった。
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そいつは今では毎夜夢に出る、おかしくなりそうだと言っていた。
たまにやつの叫びが聞こえると。
精神科に通って薬も貰ってるらしい。
そんな一面を見たのは初めてだったが、できる限り励ました。
すると一言つぶやいた。
「また聞こえる」
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そんなバカなと否定し、耳をすますように促した。
すると、微かにあの叫びが聞こえた。
自分の居場所を誇示するように何度も繰り返された、あの叫びか確かに聞こえた。
俺は聞こえないと強がり、夜眠るように言って、重い空気の中解散した。
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暫くしてそいつは失踪した。
なんの連絡もなく、途中の物は途中のまま消えた。
色々と聞かれたが、例のお面のことも含めて話した。
だが特に進展もなかった。
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そして先日、ある朝玄関に出ると、例のお面があった。
追われた記憶、消えた友人、恐怖と怒りが混ざり、お面を叩き割って捨てた。
だが、俺が失踪したら、多分そういうことだろう。
作者ぱやりすと
そういやボールはどうした。