暗闇に目を凝らす。
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一組の男女がこっちに来る。怯えた目で周りを伺っている。手を繋いで...と言うよりお互いの手をがっしりと掴んで、恐る恐るこっちに向かって来る。
まだ早い。もう少しこの哀れな犠牲者たちを引き付けよう。
彼らの恐怖が最大になって、ここは大丈夫という束の間の安堵に切り替わる瞬間...心に生じる「虚(きょ)」に乗じるのだ。
あと一歩、もう一歩...女が大きく息をつく、
ここだ!!!
shake
「ううううヴヴヴヴヴぉぉぉぉぉぁあああ!!!!」
両腕を突き出しながらも、手首から先は、むしろ垂れ下がった感じ。中腰に構えて、動きにタメを作って両足と両肩を同時に動かしながら、摺り足で二人に迫る。
レクチャーを受け、何度も練習した、「貞子」的な動き。
脅かすのではない。あくまで怖がらせるのだ。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
男が腰を抜かす。大抵、男の方がビビる、男ってダメね。
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街中の空き家を利用した、期間限定のお化け屋敷。そこで惨殺された一家が化けて出るという、まぁベタな設定。
私はお姉さんの役。勤務シフトの関係で持ち場は日々変わり、今日は一階の廊下の影に潜んでいる。
お化けは全て訓練された人が演じてる、それがここ「惨劇の家」の売りだ。
あっ、また来た。
男の人が二人。お化け屋敷に男二人か...ああ、そういう事ね。
私はその場に潜んだまま二人をやり過ごす。彼らは俯いたまま淡々と歩いて行く。
そういう事というのはソッチ系という事じゃない。霊のフリをする人、それを怖がる人。そういう場所には「かつて生きていた人たち」が集まって来るのだ。
毎日2~3組は、そんなアッチ系のお客さん。他のみんなには視えちゃいないと思うけど。
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「今日、結構シンドかったね~。」お母さん役、カナはそう言ってアイスを一口。
「いやいや、お母さん大活躍だったじゃん。台所のカナってヤバイわ~。」お兄ちゃん役のタカハシはカナにソノ気がある...んじゃないかな!?
このバイトは入れ替わりが激しい。お化け屋敷が始まる時に一緒に研修を受けたダイキ、チサト、ナカムラは8月に入る前には辞めてしまった。シフトが入れ違いになるのと、何よりも職場が真っ暗なせいで新人(?)さん達とは中々打ち解けられない。
カナとタカハシはアフターバイトを共に出来る残り僅かな同士なのだ。
「確かに顔分かんないヤツいるよね。今日風呂にいたヤツとか誰?って感じ。」
「てかさ、真っ暗な中にいると何だか不安だよね。知らない人が側にいる、ってさ。」
肝試しで本当に試されてるのは、お化け役の方なのかも、何て、ちょっと思った。
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8月も終わろうとしていた。もうすぐシーズンが終わる、お化け屋敷の期間も残り僅かだ。
そのせいか、最近お客さんが多い。運営には残念な事にアッチ系のお客さんばっかりだけど...きっとこの家には彼らを引き付ける強力なナニかがある。
そんな家で、暗闇の中居続けるってコワイ。そう思い始めたある日、
「俺、辞めるわ」タカハシからlineが来た。カナの事はいいの?
「大きなお世話。てかさ、あの話ガチみたい。」
「何?」
「一家惨殺」
あの家では、かつて男が押し入り、其処に住む一家が殺されるという事件が本当にあった。
「そんな所でお化けやるとか、ヤバいっしょ。」
次の日だった、その事故が起きたのは。
お客さんが階段から転落したのだ。登ってる途中でお化けが現れ、驚いて足を踏み外したのだという。
危険防止のため、お化けが出るポイントは決まっている。そんな所に出るはずはないんだけど...
お客さんのケガは打撲程度だったが、そう言う訳で開催期間は短縮され、その翌日が最終日という事になってしまった。
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最後の持ち場は二階の部屋だった。
(またアッチ系か...)
今日のお客さんは死んだ人ばっかり、あんな事があっては当然かもだけど。
死んだ人、か。
かつてこの家で一家全員が殺された。
お父さんはお風呂で、
お母さんは台所で、
兄は一階の廊下で、
弟は階段で、
それぞれ遺体で見つかった。犯人は仏間で首を吊っていた。
もう一人、一家には娘がいた。彼女はどこに...?
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夜9時前、あと5分程で閉館という時。
階段を登って、カナが部屋に入って来た。
(カナ何やってんの?ヒマだからって持ち場離れちゃダメじゃん。)
声を掛けようとして絶句、全身が粟立つ。
カナは俯き、淡々と通り過ぎていった。
「カナ?死んだ...の?え?...え?」
続いて、ナカムラが部屋に入って来て、俯いたまま通り過ぎていった。チサト、ダイキがそれに続く。
最後にタカハシが、今まで見た死者たちと同じ様に部屋を出ていった。
みんなの亡霊を視ながら、私は悟った。冷たい汗が全身に流れる。
この家で、生きてるのはもう私だけだ。
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女は震えている。
私はずっとこの部屋にいて、彼女が来るのを待っていた。
不意にハッとして、恐る恐る振り返ろうとしてる。やっと私に気付いのね。そう、後ろからあなたを見てた。
この家に来た人たちは、みんな私たちが連れて行く。あなたで最後。
眼が合ったとき、あなたもこっちの人になるの。
一緒よ、ずっとね。
作者DODO Asakura
肝試しでお化け役をやった時の事。このまま誰も来なかったら、俺暗闇の中一人ぼっちじゃん、なんて勝手に妄想して怖くなったりして。
そう言うのを、お伝えしようと頑張ってみました。
主人公は女の子。怖がっても、怖がらせても、お化け屋敷は女の子が画になります(笑)