事の発端はありきたりな肝試しから。
暇を持て余した男三人。(僕、A、B)
赤い服のおじさんがトナカイに乗る季節、彼女もそれらしい存在も無い野郎三人…
A 「クリスマスって何?」
B 「クリスマス?何それ?聞いた事ない!」
聞いていて悲しくなるほどの強がりを連発する友人…
町は幸せそうなカップル達が愛を語り合っている。
そんな中、突然のAの提案。
A 「肝試し行こ!」
B 「それしかないな!」
僕 「…」
と、急遽決定した野郎三人での虚しい肝試し…
行き場所は車で一時間程にある廃墟。
元々はホテルでしたが、火災により廃業。
その火災で数十人の宿泊客が亡くなったというありがちな噂のある廃墟と化したホテル。
まぁ廃墟の中は確かに焼け焦げた跡や、壁に飾られたままの絵画等、気味は悪かったのですが特に霊的な事は無く、その日はそのままお開きとなりました。
問題はそれから二日後。
友人Aから呼び出され近くのファミレスへ。
Bも先に来ており、二人して深刻な表情で僕を迎えてくれました。
僕 「二人とも何や?その顔?(笑)」
迎いに座る二人の表情がいつもの間抜けな感じと違い、演技でもしてるのか?と思うぐらい暗い。
A 「お前何ともないか?」
僕 「は?」
B 「体の不調とか夜寝れへんとか何かないかって!」
僕 「何でちょっと怒ってんの?てか至って健康やけど?何が言いたいんや??」
A 「そか…大丈夫か…ならいいんやけど…」
僕 「いやいや!ええ事ないやん!いきなり呼び出して訳分からん事聞いて!ちゃんと説明せぇよ!」
暫く沈黙が続いた後、Aがポツリポツリと話した内容。
あの廃墟での肝試しの夜、ベッドで寝ていると胸に違和感を感じ目を覚ましたらしい。
目を覚ましたAは驚愕した。
見知らぬ女がAに馬乗りになり、Aの胸に深々と包丁を突き刺していたと言う。
それが二日間続いているらしい。
Bも全く同じ現象に悩まされ、もしかして僕も?と思い、呼び出したとの事。
A 「これってヤバない?」
僕 「まぁ間違いなくあの廃墟が原因やろなぁ…憑いて来たんやろ…」
A 「いや、それも勿論ヤバい…けど色んな体験談あるけど、どれも金縛りに合って目開けたら女が立ってるとか、馬乗りになってたとかやん?俺らの場合、既に刺されてるんやで?」
僕 「ん〜そう言われたらそうやなぁ?大体が金縛り→女発見→首絞められる。て感じやなぁ?」
B 「やろ?そんなんないんやろうけど、順序が無茶苦茶やん?しかもその女、刺してる間ものっすごい満面の笑みやねん…」
僕 「刺してる間?女に刺されてるん見て気絶ちゃうの?で気付いたら朝とか?」
A 「違うねん…さっきBが言うたやろ?そんなんないやろうけど順序が無茶苦茶やねん…普通はお前が言うたみたいに、女に刺される→気絶→朝。でも俺らの場合は、女に刺される→朝まで刺される。やねん…」
僕 「よう分からんけど、それってちょっとヤバくない??」
A 「やろ?幽霊に対する知識とか何も無いけど、何かめっちゃヤバい気するやろ?それにほら。」
そう言うとA、Bが同時に服をまくり胸を見せて来た。
僕 「!!?Σ(゜Д゜)」
A、B 「なっ?ヤバいやろ?」
二人の胸にははっきりと刺されたと思われる傷があった。これも普通では無い傷が…
どんな話を見ていても、大体は首に絞められた跡があった。とか手首に握られた跡があった。と言うものばかり。
しかし二人の場合、「跡」ではなく、「傷」。
まさに刺されたてホヤホヤ状態。
傷口はジュクジュクしており、うっすら血が滲んでいる。
僕 「お前らそれホンマにヤバイやんけ!」
これまでは半信半疑で聞いていた僕でしたが、二人の生々しい傷を見たら甘い考えはふっ飛び、事の重大さを実感しました。
僕 「とりあえず病院やろ!その傷、下手したら死ねやん!てかかなり痛むやろ?!」
B 「それがなぁ痛みは全くないねん…やし病院にも行ってないねん」
全てに於いて僕達が知り得る心霊現象とは異なる、今回の現象に頭を抱えていました。
僕 「セオリー通りやったら寺か神社か?」
A、B 「やっぱりそうかな…?」
とりあえず僕達はすぐに行ける範囲の寺か神社に行く事にしました…とその前に、最初からずっと気になっていた事を確認…。
僕 「なぁ?AもBも全くおんなじ現象何やろ?刺してる女も一緒なん?」
A、B 「お互いの女を見た事は無いけど、特徴は一致してる…てか間違い無くおんなじ女…」
僕 「何でおんなじ女て言いきれるん?同時刻に二人の所に出現出来んの??…まぁ幽霊やったら出来るんかな…」
A 「右…」
B 「左…」
僕 「は?」
A 「俺を刺してる女は右半身、Bを刺してる女は左半身…」
僕 「も、もうええわ…」
気持ち悪くなった僕は話を遮り、三人で席を立った。
僕達の住む町は歴史が古く、神社仏閣には事欠かないので、近くにある寺へと向かった。
それなりにデカイ寺で知名度もそこそこ。
門をくぐってすぐに住職とおぼしき僧侶に会えたが、すぐに出て行け!と放り出される。
門を振り返ると住職+修行僧?四人で仁王立ちでお経。
続いて神社へ行ったが僕達を見るなり神主が腰を抜かしながら紙の付いた棒を一心不乱に振り回す。
この辺りで僕達はA、Bに憑く女のヤバさが身にしみて分かって来た。
同じ様に寺、神社を回ったが結果はどれも同じ。
ただ、最後に行った寺では唯一僕達と話をしてくれた。
以下、住職の話まとめ。
・二人に憑いている女は同一人物。
・廃墟は無関係。
・正体は不明だが、幽霊や妖怪の類いではない。
勿論、善い物では無いがむしろ神に近いらしい。
・力が強大過ぎて何も出来ない。
住職の周りの専門的にやっておられる方達にも危険過ぎて紹介出来ない。
と、こんな感じでした。
このまま最悪の結果になると予想されたのですが、最後に住職が言われた事が突破口となりました。
住職 「君達はその時、三人で行動してたんですよねぇ?ならおかしい…」
僕 「何がおかしいんですか?」
住職 「この女性…と呼ぶべきか…この禍々しい者は何の目的があってか自身の体を分けてまで二人を呪っている。なのに一緒にいた僕君には全く実害がない。これを不思議には思いませんか?これ程の力を持つ者なら三人を同時に呪う事など造作もないはず。それが何故、僕君のみを呪いから除外したのか?これが何とも分からん」
A 「僕?お前何か宗教とかやってんの?確かに一緒に居たのにお前だけが何とも無いっておかしいやん?」
僕 「宗教??いや、一切ないし!神も仏も信じてないし!」
住職 「と、とりあえず君達はもう帰ってもら、貰えますか…」
そう切り出した住職が小刻みに震え、額から汗を流している。
僕 「分かりました。お話を聞いて下さって有り難うございました。」
寺を後にした僕達三人はさっきの住職の話を振り返り考えた。
住職が言うように僕には宗教的な事など思い当たる節はない。
そうこうしている間に辺りは暗くなって来たので今日は解散し、明日改めて解決策を考える事にした。
帰り際のA、Bの悲痛な顔は今でも忘れません…
家に着いた僕は夕食を作っている母親にそれとなく宗教との関連性を聞いてみた。
それと言うのも母親の故郷がそういう物と深く関係している地域だったからだ。
母 「宗教?何それ?(笑)私はそんな物一切興味御座いません!(笑)」
僕 「そうやんなぁ?やと思った(笑)」
と、不意に家の電話が鳴った。
母親が電話に出たが何か様子がおかしい…
酷く怯えていたかと思うと急に捲し立て、二度と掛けてくるな!と受話器を叩きつけた。
僕 「いたずらか?」
母親 「そうみたい…ちょっと電話してくるしお鍋の火見といてくれる?」
そういうと母親は携帯を片手に慌ただしく二階へと上がって行った。
怪しい…怪しすぎる!
もしかして不倫か?!
そう思った僕は音を立てない様に二階に上がり、両親の部屋の前で聞き耳を立てた。
母親 「そう!兄から!兄から電話があったの!」
どうやら母親は故郷の祖母に電話をしているらしい。それにしても兄から?てお兄さんからの電話やったら何であんな応対??そういや叔父さんって会った事ないなぁ?
そんな事を考えながら話の内容を盗み聞きしていた。
母親 「何か僕君の友達がどうとかこうとか!もう忌々しい!」
??僕の友達??A、Bの事か?
母親 「お母さん!お母さんまで何て事を!兄は、あの人は気がふれてるのよ?周りからもキチガイ呼ばわりされて半ば隔離状態じゃない!冗談じゃないわ!そんな人と僕君を会わすなんて!」
所々、聞き取れ無かったがどうやら叔父さんは僕に会いたがっている様だ。
母親 「とにかく兄さ、あの人と僕君は絶対にあわせません!」
そういうと母親は電話を切った様だ。
僕は音を立てない様に慌てて一階へと降りた。
すぐに母親が戻って来たが、さっきまでの怒り狂った母親とは違い、いつもの穏やかな母親に戻っていた。電話についての話しは一切無かった。
その夜、ベッドで横になった僕は、A、Bの事、母親の電話の事が気になり中々寝付けないでいた。
コンコン…
「僕君?起きてる?入ってもいい?」
母親だ。
僕 「起きてるよ?何か用?入ってもええよ」
母親は静かに部屋に入るとフロ―リングに座り込み僕に聞いた。
母親 「ちょっと変な事聞くけど気味悪がらないでよ?」
恐らくあの電話の事だろう。
僕は母親に相槌を打った。
母親「僕君の友達で…二人位、体調が悪いとか何か悩んでる子っているかなぁ〜と思って…」
?!やっぱり!A、Bの事や!
僕は体を起こし、母親に聞いた。
僕 「何で?A、Bの事知ってんの?あの電話で何か言われたん?」
僕は必死に母親に質問した。
母親 「やっぱり…はぁ…」
暫く沈黙が続いた。
母親 「分かった。僕君の友達が大変なんやな。じゃあお母さん全部話す!その代わり…どんな内容であっても真剣に聞いて欲しい。今から話す事は全部本当の話し。話を聞いた後にどうするかは僕君達に任せる。上手く行けば、A君、B君は助かるかも。」
僕はそれを聞きすぐに母親に話す様、促した。
以下、母親の話し。
母親には三歳上の兄がいる。
誰にも凄く優しい子で母親はそんな兄が大好きだった。そんな母親が中学生になった頃、家の近くで惨たらしい一家惨殺事件が発生した。
その家には両親と十歳の男の子、四歳の女の子の四人家族が住んでいた。
深夜、その家に男が押し入った。
男は次々に住民を殺害し、皮を剥ぎ自分の身体に張り付け、怪しげな呪符や注連縄を張り巡ら結界の様な物を作り、その中心で自害した。
小さな片田舎で起こった猟奇的な一家惨殺事件は近隣住民に恐怖を与えた。
しかし、住民にとっての本当の恐怖は一家惨殺ではなく、男が行った儀式めいた物にあったそうだ。
母親もその儀式めいた物が何を意味するかは詳しくは分からないらしいが、事件があった次の日からその家だけでは無く、その周りも広範囲に渡り立ち入り禁止のロ―プ、そしてそれに重なる様に注連縄が張られたそうだ。
それから一ヶ月が経過し、何事もなく住民は暮らしていたがある時事態が急変した。
立ち入り禁止と言ってもロ―プと注連縄が張られているだけ。
その周りでは普通に子供達は遊んでいたそうだ。
母親も例外に漏れず近所の子供と遊んでいたそうだ。
ある時、その中の五人の子が注連縄を手で握り上下に揺すり遊び出した。
ただ揺すっているだけで中に入った訳ではない。
しかし、その日の内に五人全員の両腕が壊死し、切断となった。
その中に母親の兄と特に親しく、常に一緒に行動していたCがいた。
Cと兄は野球をやっており、両腕を無くしたCはそれが元で精神を病み、程なくして亡くなった。
元々、優しさの塊であった兄の落ち込み様は半端じゃ無く、子供を失ったCの両親が慰める程。
落ち込む所まで落ち込み、涙が枯れるまで泣いた兄はある日行動に出た。
その前の夜に兄は誰に語らずともこう言っていた。
「Cや他の子供を殺めたのがあの家、あの男の呪いと言うなら、その呪い俺が全部呪ってやる!」
そして次の日、兄は周りの目を盗んで単身その家へ入って行った。
夜になっても家へ戻らず、心配になった両親が近隣住民と兄を探し回っていると、件の家からこちらに向かって歩いてくる兄を発見した。
その姿に周りにいた全ての大人達が驚愕したと言う。
兄の右は無く、右足、左腕は壊死した状態であった。
兄はそんな状態でありながら、先に無くなった五人の両親を見つけると「もう大丈夫です。皆の仇は僕がうちました。」そう言って兄は倒れこんだ。
母親 「今思うと兄には少なからずそういった力があって、それ故にそういった力で子供達の命を奪った呪い、あの男が許せなかったんでしょうね。」
ここまでなら、常軌を逸した話しではあるが叔父さんの英雄伝に聞こえるだろう。
だがここからが叔父さんが周りから忌み嫌われ、半ば隔離状態にされてしまう出来事が起こる。
兄があの家から出て来て数ヵ月、体の一部を失ったものの命に別状は無く、兄は家に帰って来た。
兄があの夜に言った「もう大丈夫」と言う言葉の信憑性は分からないが、あれ以降、うっかり注連縄に触れてしまった者がいてもその後、身体に異変は無かった。
兄の異変を除いては…
あの事件以降、兄は「この村とこの村の住民は僕が守る」が口癖の様になっており、旅行等で他所から来た者には特に警戒していた。
そして事件が起こる…
隣村からこの村へ嫁いでくる女の人がいたのだがこの女の人が奇跡の娘と隣村では呼ばれいるらしく、元々病弱で後数ヵ月の命と言われていたのだが、娘の両親が藁にもすがる思いで祈祷師に祈祷してもらった所、奇跡的に良くなり嫁入りが決まったと言う事。
村の人は皆して喜んだが、兄だけは違った。
その娘を見るなり罵詈雑言を浴びせ、挙げ句の果てには暴力まで振るった。
村人は総出で兄を抑えつけ娘を他の場所へ移した。
母親もその一部始終を見ていたが、兄の豹変振りは凄まじく、いつもの優しい兄とはまるで別人だったそうだ。
だが、母親は兄の豹変振りとは別に娘の異常な程の怯え様も気になったらしい。
兄と対峙した時点(罵詈雑言も暴力もまだ)で兄に対し尋常じゃない程の怯えを見せていたらしい。
両親にもその事は話したそうだが兄があんな事を仕出かした後だったので聞き入れて貰えなかったそうだ。
その日はそれ以上何事も起こらなかったが翌日の早朝にそれは起こった。
村人の一人が家を出ると佇む兄とその足元に倒れている娘。
早朝から村は騒然とした。
娘に外傷は無いが、苦しみに苦しみ抜き事切れた苦悶の表情。
そしてそこに佇む兄の言葉、「この女の人はとっくに死んでる。インチキ祈祷師が中途半端に拝んだせいで善くない者が入り込んでた。だから祓った。」
これには村人全員が憤慨し、証拠はないにせよ娘を殺したのは兄だ!こいつは頭がイカれてる!と兄を納戸に閉じ込め、自由に動き回れない様に村人が交代で見張っていた。
そのまま月日は流れ、納戸からは出して貰えたが今現在も軟禁状態にあるという。
あんなに優しく大好きだった兄が人を殺し、意味不明な発言をした事で母親は兄を忌み嫌い、結婚の為に村を出るまで兄とは一切接触しなかった。
母親の結婚が決まり、家を出る時、兄が軟禁されている小屋の前を通ると中から兄が「迷惑かけてすまない!お前は勿論、お前の家族は俺が守ってやる!」と叫んだ。
母親はその言葉に恐怖し、そそくさと村を後にした。
母親 「僕君?どう?気味の悪い話でしょ?」
僕 「かなりな…」
叔父さんに本当にそんな力があるなら二人を助けられるかも知れん…けどほんまに頭がおかしいだけなら会いに行く時間が無駄や…
母親 「どうする?兄…行く?」
僕 「…行く」
母親 「そっか…分かった。行く以上は二人に憑いてる女をしっかり兄さんに祓って貰いなさい!(笑)」
僕 「そうする!(笑) ?!Σ(゜Д゜)てか二人に憑いてるん女って知ってたん?!」
母親 「兄さんがそう言ってた…」
叔父さんやってくれるかも!
僕は一気にテンションが上がり、夜中であるにも関わらず二人に即電話し、明日朝イチで旅立つ事を告げた。
次の日、電車を乗り継ぎ乗り継ぎ、母親から貰ったメモを頼りに母親の故郷へ行った。
やっとの思いで到着した母親の故郷は想像していた通りの錆びれ具合で、これだけで十分オカルトやなぁと三人で呑気に話してました。
歩いていると一件の家の前に小柄なおばあさんが立っており、優しい笑顔で僕を見ていました。
「僕君やね?」
それは初めて会った僕の祖母でした。
初対面で少し恥ずかしくモジモジしている僕に祖母は言いました。
祖母 「僕君といっぱい話しもしたいけど、先ずはお友達の事やね。今から叔父さんの所へ案内する。
母親から聞いてると思うけど、叔父さんは普通じゃない。どうおかしいかは私らにも分からん。それでも行くか?」
僕は即答した。
僕 「行きます。」
祖母 「そうかそうか(笑)そしたら着いておいで。」
祖母はゆっくり歩き出すと山の方へ登って行った。
15分位歩くと祖母は立ち止まり僕達に言った。
祖母 「私はここまでやから後はこの道を真っ直ぐ進みなさい。僕君のお友達、頑張ってね。」
そういうと祖母は来た道を引き返して行った。
僕 「さぁ!ほな叔父さんにしっかり祓ってもらおか!」
A、B 「おぅ…」
神社仏閣を回りに回って断られ続けた二人には急に沸いてでた叔父さんに対する期待は薄い様だ。
無理もない…
祖母に言われた様に道を真っ直ぐ進むと朽ちかけた小屋が見えて来た。
「こんな所に人住めるんか?」
と僕が思っていると両隣で友人達が震え出した。
僕 「何何?めっちゃ震えてるやん!」
A 「分からん…分からんけど何か怖い…」
B 「…」
異常な二人は気になるが僕は歩をすすめ小屋の前に立った。
「あいてるよ」
?!不意に中から声がした。
恐る恐る扉を開けると小屋の真ん中に座り込む男性が見えた。
叔父「君が僕君か?初めまして!僕君の叔父さんや!」
中にいた男性は僕の叔父さんだと名乗った。
それにしても母親から聞いていたような頭のおかしい人の雰囲気など微塵も無く、寧ろ同じ空間に居るだけで安心する様な優しさを感じた。
叔父 「遠慮せんと中に入っておいで。まぁそこの二人は入りたくないと思うけど。」
僕が後ろを振り返ると二人は震えながら叔父さんを物凄い形相で睨んでいた。
僕 「何やお前ら。どうしたんや?」
叔父さん 「僕君?無理やわ(笑)それ今僕君の友達違うから」
僕 「どういう事ですか?」
叔父さん 「今、僕君の友達は意識消されてる。相手も今までみたいにお遊び止めて本気出そうとしてるわ(笑)」
僕 「本気って?!今まで遊んでた?」
叔父さん 「そうやなぁ…僕君には分からんやろうけど友達に憑いてるソレな、かなりのモンやわ」
僕 「あの…今まで色んな神社とか寺回って、全部門前払いされて…もうどうしようもないんです…母親から叔父さんの話し聞いて、厚かましいけど叔父さんなら何とか出来るかもって思ってここまで来たんです!やれるだけやってくれませんか?お願いします!」
叔父さん 「はぁ…僕君?僕は僕君の叔父さんやで?そんな堅苦しく話さなくていいよ(笑)それに僕君は叔父さんの大切な妹の子供。昔、妹に約束した事があって。妹もその家族も僕が守るってね。」
僕 「有り難う…」
叔父さん 「しかしこんなモンがまだいたとは…寺や神社じゃ無理なはずやな…」
僕 「やっぱりかなりヤバいですか?」
叔父さん 「ヤバいていうか…まぁ例えで言うと山あるやろ?人間が山を手で押したとして山は動く?」
僕 「山??人間が山を動かす?無理に決まってるやん!」
叔父さん 「そうそう!(笑)住職さんも神主さんもそう思ったんやわ。だから門前払い(笑)」
僕 「人間が山を動かすってそんなん誰も無理やん!そんなん相手にしても誰も助けられへんやん!」
叔父さん 「まぁ確かに…でも…僕なら出来る(笑)」
僕はやっぱりこの人頭おかしいんかな?
来たん失敗かな?とちょっと後悔した…
叔父さん 「妹から一家惨殺の話し聞いた?」
僕 「聞きました…」
叔父さん 「あれは凄かった…呪いとか祟りってあるやろ?あれは全てが対象は人。でもあの家であの男が呪った物は異界…解りやすく言えば、天国とか地獄。あの男の意図は分からんが、人間ではなくこの世に存在しないモンを呪った。罪のない人の命と罪深い自分の命を代償に…。で、その呪いが成功した。
結果、あの家に何が起こったと思う?」
話が飛躍し過ぎて僕は何も答えられなかった。
叔父さん 「答えは「無」。この世もあの世も存在しない「無」。人も幽霊も神も存在しない無の空間。そこに僕が入った。存在しないはずの人が足を踏み入れた。でも凄いもんで僕が入った時には僕以外の何かがもう存在してたよ(笑)後はソイツと覇権争い(笑)僕も幼い頃から周りと違う力があったのは自覚してたけど、周りにバレない様に日に日に大きくなるその力を抑え込んで生きて来たから正直自分の力がどれ位かは分からなかったよ。
あの時初めて全開にしてみた(笑)まぁ何とか先にいたヤツは吸収出来たけど僕もこの有り様(笑)」
叔父さんは片目だけでニコっと微笑んだ。
その時後ろにいた二人が急に唸り出した。
叔父さん 「すまない。甥に会えたのがあまりに嬉し過ぎてキミの事を忘れていたよ(笑)
でも、せっかく甥と話をしているんだからちょっと大人しくしてくれないかな?
すぐに消すよ?」
そう言った叔父さんの空洞のはずの片目が光った様に見えた。
叔父さんは片足でゆっくり立ち上がると二人の元に歩み寄った。
叔父さんに一喝され大人しくなった二人は微動だにしない。
叔父さん 「大切な甥の友達に憑いたお前を本当は消してやりたいんだけどなぁ。お前程のヤツを消すのも勿体ないから、ここに残れ。化け物同士仲良く暮らせるだろう(笑)」
叔父さんがそう言うと二人はその場に崩れ落ちた。
叔父さん 「僕君、友達はもう大丈夫!二人が気付いたらすぐに帰りなさい(笑)
僕 「あの…僕にははっきり分かりませんけど、叔父さんって頭もおかしくなければ人殺しなんかじゃない、全うな人間ですよね?叔父さんが村を救ったから皆平和に暮らせてるんですよね?やのに何で叔父さんはこんな所に住まわされて何も言わないんですか?」
叔父さん 「全うな人間?僕が?(笑)僕は化け物だよ(笑)いいか僕君?過ぎたる力は身を滅ぼすって言うだろ?僕は正にそれなんだよ。でもそれでいい。大切な村を守れたから。」
僕 「…」
叔父さん 「何より妹との約束を果たせたから(笑)」
作者かい