ーーーーーーーー
昭和50年に入り、日本はバブル絶頂期に入った。
高層ビルが立ち並ぶ大都会、東京。
金融、土地転がし、詐欺まがいの物品販売。何をしても失敗が無かった時代。街に蔓延る詐欺師、悪党、そしてヤクザ。暴対法がまだ出来ていないこの時代は、ヤクザにとっては良い事づくめの骨頂だったろう。
しかし、利権の取り合いでヤクザが入り 面子を掛けての殺し合いなどが各地で起きていた。惨殺事件、失踪などは年々、件数が減る事は無かった……。
ーーーーーーーー
白川 康夫43歳、妻子持ちの某会社特別顧問。スーツ、黒の革靴にオールバックが似合うこの男、とは言っても名ばかりの肩書き役職。特別何をしているわけでもなく、週三回の会社出勤。特別顧問の部屋も会社に有るが、机の上に黒電話と椅子が有るだけ。殺風景な部屋である。
ーーーーーーーー
ジリリリリーン!ジリリリリーン!
黒電話が高らかに鳴り響く。白川は電話を取ると何も言わずに話を聞く。
「俺だけど、またなんだよ。35分後に俺の部屋に来てくれ。」と電話先の男性が言う。チン、と受話器を置くと白川はクルリと椅子を回し、スッと立ち上がって24階の高みから下を見る。
「……」
憐れみと懺悔、どちらとも言えない表情から一転し、無表情の顔に変わる。
ーーーーーーーー
白川がその部屋に辿り着く。
コンコン
男性「おー、空いとるぞー。」
ガチャリ
静かにドアを閉めると、2人の男性がソファーに座っていた。
白川「社長、今回は…」
社長「おー!来たか!!まー座れよ!。今回の依頼の方は吉田さん。勿論偽名だけどな。」
菅沼 長次、44歳。この会社の社長。柔道2段、空手初段の腕前の菅沼は、身体177cmの華奢な身体つき。とても強そうには見えないが、声だけは400m離れていても聞こえるほど豪快だ!
菅沼「いつも時間の15分前に来なくて良いよ〜。依頼主が来てなかったら二度手間だろ?35分後と言ったらその位で良いぞ!な!?」と 数メートルの間しか無いのに、交差点の向こう側の人と話す様な声で問いかける。
白川「はい。わかっております。しかし、これは私の性分なのでご了承下さい。」
菅沼「ガッハッハ!まあ、いつもの事だから良いがね。」とその時に菅沼の横の依頼主の吉田さんが立ち上がって白川に一礼する。
吉田「今回はお世話になります。どうぞ、こちらの方を先に…。」と、茶封筒一杯に詰め込まれた何かを白川に渡す。帯の束、三束。聖徳太子。
白川は茶封筒をスーツの内ポケットにしまうと吉田に座る様に促す。
白川が菅沼に目を配ると、菅沼はスッと立ち上がりいつもの一言。
菅沼「そうだったな。後は2人での話し合いだったな。吉田さん、くれぐれも白川を試そうとかやらない様にな!ガッハッハ!」と、菅沼は部屋の扉を豪快に開け、去っていった。
白川「さて…単刀直入に聞きますが、いつ、誰をどうされたいのですか?」と吉田の足元から頭へと白川の顔がユックリと上がる。
吉田「……、白川さん。失礼は承知の上です。私と力比べをやって頂けませんか?本当に失礼なのですが、私より体格が華奢に見え、試したくなりまして…。」そう。吉田は某空手流の師範代。
身長も182cmの体重75キロの筋肉体質。
白川「まぁ、そう言われるのも仕方ないですよね。実際に武道なんかは何もやっては居ませんから。」
吉田「え?何もなされて居ないんですか?……」と不安げな面持ちの吉田に間髪入れずに白川が返す。
白川「腕相撲ですか?なんでも良いですよ。」と吉田に聞くと、
吉田「では、私のパンチを受けて貰えますか?本当に失礼ですが、私のパンチが当たったり、尻餅などをつかれた場合はこの話は別の方に回させて頂きますが よろしいでしょうか?」と吉田が少し、口角を上げる。
白川は茶封筒を内ポケットから取り出して、テーブルの上に置く。お互い、ソファーの横の広い空間へ移動。お互いの距離は3メートル程。吉田は上着を脱ぐ。
吉田「脱がないんですか?」の問いに、
白川「私はこのままで結構です。」と無構えの白川。
吉田は左脚の膝を90度に曲げて、左拳を前に突き出す。半身をずらして右手は右胸の前に置く。
吉田は精神統一の為、一瞬目を閉じた。開けた瞬間に白川の懐に入る…筈だった。
ドッ
僅か、0.2秒の出来事だった。
精神統一から目を開けた瞬間、目の前には白川の姿は無く スーツの上着のサイドベントが、目の端にヒラリと見えただけだった。
………気がつくと、吉田はソファーに寝て居た。
吉田「え?あ?、は!し、白川さん!先程は失礼致しましたー!」とソファーから立ち上がり、深々と白川に頭を下げた。
白川「これで納得して頂けました?」と目が真剣で口だけ笑っている白川にビビる吉田。すかさず、テーブルの上の茶封筒を白川に渡す。
吉田「失礼ですが、どうやられたんですか?」と、白川に聞く。
白川「ええ、少し早く歩いて吉田さんの首筋に挨拶しただけですよ。」と 茶封筒を内ポケットにしまいながら 堂に入った目つきで吉田を睨む。
吉田「お、御見逸れ致しました。これで前金は嫌でも受け取って頂きます!」と言うと、白川の口元が緩んだ。
吉田「ターゲットの男の詳細は茶封筒の中に入って居ます。……期限はできるだけ早く。3日以内にお願いします。で、やって欲しいことは…。」
吉田「命乞いをしている時に殺して下さい!!そいつは…、そいつは私の娘を……辱めて殺した奴なんです!!」と吉田が言うと泣き出した顔と裏腹に、拳は強く握りしめられていた。
白川「わかりました。テープレコーダーに録音して、ポラロイドで終わった後を撮れば良いですね。」と言うと、言葉にならない声で首を縦に振っていた。
続く…
作者マコさん
全国の シラカワ ヤスオ様、お名前をお借りしていまーす!申し訳御座いません!この話は全てフィクションです。
たまにはこんなのもいいかなと思い、書いてみました。
誤字脱字が有ればご指摘ください!